第3話 オトナに向けた市場の成熟 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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この数年、活況を呈する再発CDの世界。紙ジャケット、リマスタリング、レア音源のボーナス・トラック……と、マニア心をくすぐる復刻アイテムに気もそぞろな音楽ファンが多いのではないでしょうか? 今回のザ・対談では、そうしたリイシュー盤の制作に携わる二人の“達人”に登場いただき、ジャケットの再現に隠された苦労など、デザイン業界人も「そうなのか!」と興味を抱くようなお話をうかがいました。


第3話 オトナに向けた市場の成熟



吉田格さん土橋一夫さん


吉田格さん(左)と、土橋一夫さん(右)

ジャケットが「音」を感じさせてくれた



──いま、いわゆる「大人のロック」と呼ばれる市場の加速が進んでいます。

土橋●若い世代が店頭でCDを買わなくなってますからね。

吉田●まあ、ダウンロードがありますから。

──そこで40歳前後の購買層に「紙ジャケ復刻」という言葉も魅力になって。

土橋●パッケージの良さを知っているのが、そのへん最後の世代ですよね。所有欲みたいなものも含めて、レコード・ジャケットを飾ることの楽しさをわかっている世代がこういうリイシュー盤を買っている。

──土橋さんも『ジャケガイノススメ』という本を作るぐらい、やはりジャケットに愛が?

土橋●ありますね。10代の頃から、まさにジャケ買いしてて。最初にジャケ買いしたのが、大滝詠一さんのシングル「君は天然色」だったんです。そこがすべての始まりでした。

吉田●あ、そこからなんだ?

土橋●中学3年のとき、あのドーナツ盤が家の近所のレコード屋に飾ってあって。永井博さんの絵に惹かれて買ってしまったんです。

吉田●CBSソニーだ。ありがとうございます(笑)。

土橋●で、その後『A LONG VACATION』を買って「なんだ、この音は!」と衝撃を受けて。そこからナイアガラを経て、はっぴいえんどまで遡ったんです。

吉田●僕もはっぴいえんどが大好きで。会社に入ってすぐ大瀧さんを訪ねて、2週間に一回は福生に通ってました。別に一緒に仕事をするわけではないんだけど。で、行くと、あの方はお酒飲まないので、お茶とおせんべいで……途中、奥さんがごはんを持って来てくださって、夜9時ぐらいから明け方まで延々音楽の話をして。

土橋●いいですねぇ。

吉田●楽しいんだけど、眠くて眠くて(笑)。で、仮眠してから昼ぐらいに「勉強になりました」とお礼して帰ってたんです。

──吉田さんも当然、ジャケットに興味が?

吉田●70年代当時は「WORKSHOP MU!!」ですよね。小坂忠さんや麻田浩さん……ジャケットがすごくセンスよかった。写真が野上眞宏さんだったり。あの周辺の方たちは生き様もそうだし、ジャケットのあり方もウェストコーストっぽくて、本来のデザイナーブランドを日本に持ち込んだ感じがあった。

土橋●奥村靫正さん、中山泰さん、眞鍋立彦さん……あの辺の方々は感覚が全然違いましたね。日本人の感覚じゃなかった。僕は後追いですが、好きで聴いていた大滝さん、細野さん、小坂さん……みなさんMUがらみで、そこから受けた影響は大きい。

吉田●ちゃんとジャケットから音を感じさせるものになっていて。そういうのは勉強になりましたね。


『Beautiful Covers/ジャケガイノススメ』
『Beautiful Covers/ジャケガイノススメ』

編・著:土橋一夫&高瀬康一(Surf's Up Design)
毎日コミュニケーションズ/2310円

思わず「ジャケ買い」したくなるようなレコード、
およそ220枚をセレクトしたビジュアル・ブック。
美麗なスリーブから導かれる作品内容、関連&似たものジャケも紹介し、
レコード・ジャケットへの「愛」が詰め込まれた一冊だ。
また「ジャケ買い」をお題に思い出をつづる15人(サエキけんぞう、松尾清憲、
杉真理、鴨宮諒、長門芳郎など)によるコラムも収録。
本書と連動した紙ジャケ復刻CDシリーズも展開(現在32タイトル発売中)


大人買いできるリスナー層に、いかに情報を届けるか



──そうした時代を知る方々が、いまGT musicのようなレーベルに集まって。

吉田●他のレコード会社が立ち後れている分野でもあるんですね。結局、素材を知ってるかどうか……うちのセクション、音源を知っているベテランしかいないですから。平均年齢40歳ちょっとで、30代は2人ぐらい。そもそも「GT」というのは、アメリカのレコード会社でも「グレートトラックス」と呼ばれる過去の音源を再発する名称があって。うちの場合は「グッドタイムス」で、よき時代の音源を再活性しようと。

──プラス、新録もあるのが特色ですね。

吉田●よき時代のアーティストを「いまもいいよ」と送り出す。そうやっていると、みんな連鎖的に集まってくるんですよ。で、少ない予算しかないですが、新しいアルバムを作りましょうか……と提案する。東京あたりで800人キャパのライブができれば、十分採算がとれるんです。コンサート会場の即売、確実ですから。

──大人買いできるリスナー層でもありますね。

吉田●まさにそうです。1枚ずつというよりも、まとめ買いできる世代。だから、ネット販売でも「まとめ買いパック」を設定している。その一方で、作っても店頭に入りづらいという現状があるんです。初回は入荷するけれど、売り切った後は補充しないケースが多くて……それはお店の感覚では仕方がないことですが。

──もう、それ以上に新譜が出ている状況ですからね。

吉田●ええ。だからオンラインショップと連動したほうが、大人買いしてくれる。そのための特典付けも行っているのですが、リリースしていること自体、よく伝わってないことがあって。

土橋●それはありますね。最近、復刻活動をやっていて思うのは、リリースしたという情報が必ずしもネットを見ている人すべてにフォローされているわけではないということなんです。こういう音楽の購買層が、ネットで検索して調べている人と一致しない場合が多い。

吉田●足繁くCDショップに通っている層でもないですよね。

土橋●ええ。年齢を重ねるごと、店に行く回数は減りますから。

──昔、一緒に音楽を聴いていた友人も、子どもができたりすると家庭が大事じゃないですか。彼らに「出たよ」と言っても反応が薄いんですよね(笑)。

土橋●そういうところに、いかに情報を届けるかが一番の課題。僕らは昔は輸入盤屋で勉強してましたが、いまは直接情報を仕入れる場が少なくなっている。ネットだけではわからないんですよ。だから『ジャケガイノススメ』なんて「ジャケいいでしょ? だまされたと思って聴いてみて」という企画で。それがよかったら、次も買ってくれる。文字情報だけではなくて、僕らも自分の中に蓄積された経験則で買ってましたから。そういう提案もあるんです。


ブレッド&バター『海岸へおいでよ』サーカス『絆〜KIZUNA』
五輪真弓『Welcome』

吉田さんプロデュースにより、GT musicからリリースされた最近の新録作品
左:ブレッド&バター『海岸へおいでよ』(2007年8月)
全曲書き下ろし最新作。作家陣に松任谷由実、森山良子、小椋佳、加藤和彦、かまやつひろし、麻田浩、浜口茂外也、杉真理らが参加
中:サーカス『絆〜KIZUNA』(2007年10月)
デビュー30周年記念。作家陣に森山良子、小椋佳、財津和夫、かまやつひろし、村井邦彦、大貫妙子らが参加
右:五輪真弓『Welcome』(2007年10月)
デビュー35年を経て、11年10ヶ月ぶりとなるオリジナル・アルバム(すべてソニー・ミュージックダイレクト/各3000円)

次週、第4話は「いかに次世代に繋げるか」を掲載します。

(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)



土橋一夫さん

[プロフィール]
どばし・かずお●1966年埼玉県生まれ。テイチクなどのレコード会社勤務を経て、有限会社シャイグランス代表となる。すみやフリー・マガジン『Groovin'』編集長、文筆業、CD制作・リイシュー監修、ラジオ番組の構成・パーソナリティなど多彩に活動中。音楽をデザインする集団「サーフズ・アップ・デザイン」の主幹として、アート・ディレクション/書籍の企画・制作なども手がけている。

http://www.geocities.jp/back_to_mono_prod/


吉田格さん

よしだ・ただし●株式会社ソニー・ミュージックダイレクト勤務。Y's Room室長、および「GT music」チーフプロデューサー。

http://www.110107.com



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