第2話 難易度の高いデザイン「社会科の教科書」 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて









第1話に引き続き、高橋正実氏が手掛けた作品を紹介し、その制作過程における思考のプロセスに迫る。第2話では、東京書籍から発行されている社会科の教科書をピックアップ。長い年月を費やし多角的な検証が行われた媒体だ。




第2話
難易度の高いデザイン「社会科の教科書」




●内容の“デザイン”にも携わる



前回の「カレンダーキューブ」は、東京書籍から発行されている小学校6年生向けの社会科の教科書にも掲載されている。消防士や警察官、農業などの職業と並んで、デザイナーが教科書で初めて紹介され、「デザイナー」の仕事について高橋さんが登場、執筆を担当しているページだ。さらに、3・4年生用の教科書では、高橋さんが1冊丸ごとのデザインも手掛けている。

「レイアウトも担当しましたが、内容も“デザイン”として捉えていく方針で携わることを提案し、構想段階から関わらせていただきました。教科書を作る際には、さまざまなことを検討する必要があり、約5年もの年月を費やして作成されるのです。だから、私の手掛けた2年前に改訂された教科書については、依頼は8年前くらいに遡ります。実際にレイアウトを行う期間は最後の2年間くらい。それまでは、ひたすら基本的な仕組みや内容を作る過程でした」(高橋)

●正しく日本語を理解する書体を採用



基礎設計を行う際には、書体の選別にも細心の注意が必要となる。見栄えばかりを追究するだけでなく、非常にロジカルな根拠が必要とされる。

「最近では異なるケースも多いようですが、本来の意味では、子どもたちが生まれて初めて文字に触れる媒体ですので、文字のはね方や止め方、書き順などが正しい書体を使用する必要があります。ただ、一般的な既存の書体のなかには、それらをクリアするものは見つかりません。そこで、東京書籍では専用の教科書体を作成して対応しています。書体の歴史を振り返ってみると、単なる雰囲気だけを重視して作られた書体も多いのですが、読みやすかったり、正しく日本語を理解することができる書体を作ることが、これからの時代、デザイナーには求められることと強く感じました」(高橋)


同様のケースが、たとえば文字の大きさにも該当する。そこでは、子どもたちにとっての読みやすさも考え抜かなければならない。ただし、それだけでも配慮すべきポイントの一例にすぎないのである。
「教科書は、物事や世界の仕組みがすべて盛り込まれているといっても過言ではない媒体ですから、ものすごく多くのことに注意する必要がありました。そういった意味では、教科書は非常に難しい仕事だったように感じています」(高橋)


●描き手の個性よりも現実を反映したイラスト



もちろん、ビジュアルとて例外ではない。教科書のイラストは、一般書と比べると独特な印象を受けるが、それについて高橋さんは次のように語る。
「イラストに関しては、そこに登場する人物たちの人間関係や、それぞれのキャラクターの正しい動きにまで配慮しました。ただ個性的なだけではなく、骨格など、しっかりと現実に矛盾のない絵が必要とされます。つまり、しっかり立って歩けるキャラクターを描ける画力が求められるわけです。だから、いわゆるイラストレーターではなく、画家さんと呼ばれる方たちに手掛けてもらっています」(高橋)


●内容を反映した仕掛け



存在意義を深く考慮し、企画や内容にまで深く関わったデザイン。高橋さん曰く「あらかじめ素材が用意されて、そこからレイアウトをするわけではなく、1つの本として立体的に捉えた」媒体だ。そのようなスタイルだからこそ実現できたレイアウトも、大きな特徴といえるだろう。
「たとえば、子どもたちが張り切って町に探検に行く様子の描写では、先行して歩く子を次のページに食い込ませて、探検隊のようなスタイルで掲載したり、ある風景の一部分に注目するページでは、全体写真とアップの写真を使い分け、子供たちがルーペで覗き込んでいるようなビジュアルを実現したりと、さまざまな仕掛けを盛り込みました。さらに、ページを折り込んで、開いて見るようにした構造も多く含まれています。これらの工夫は“教科書の分野としては斬新な見せ方だ”と好評を頂きました」(高橋)
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)


次週、第3話は「新しい食器の形」について伺います。こうご期待。 



高橋正実(たかはし・まさみ)
1974年東京生まれ。桑沢デザイン研究所グラフィックデザイン研究科卒業。デザイン事務所に勤務後、97年に独立。現在MASAMI DESIGN主宰。コンセプトの組み立てを得意とするところから、デザインワークはグラフィック、パッケージ、インダストリアル、エディトリアル、空間な ど多岐に渡る。主な仕事に、フランフラン10周年記念商品パッケージの総合デザイン、森ビルイベントの広告、持田製薬「コラージュフルフル」総合デザイ ン、横浜美術館15周年記念展示会総合デザイン、東京書籍の社会科教科書のエディトリアルデザインなど。

twitter facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 RSS
【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて

この連載のすべての記事

アクセスランキング

8.30-9.5

MdN BOOKS|デザインの本

Pick upコンテンツ

現在