前回に引き続き、高橋正実氏が手掛けた作品を紹介し、その制作過程における思考のプロセスに迫る。第3話では、中部圏を中心としたラーメンチェーン店「すがきや」で用いられ、2007年にリューアルした「ラーメンフォーク」に注目する。
第3話
新しい食器の形「ラーメンフォーク」
●ラーメンとラーメンフォークのおいしい関係を探る
愛知県に本社を構え、約300店のチェーン展開を行うリーズナブルなラーメン店「すがきや」。その各店舗では、フォークとスプーンを合体させたようなテーブルウェア「ラーメンフォーク」が使用されている。
「すがきやが60周年を迎えるに当たって、新たにラーメンフォークをリニューアルすることになったのです。そこで、食器を取り扱うブランドのノリタケから依頼される形で、私がデザインに携わることになりました」(高橋)
「すがきやが60周年を迎えるに当たって、新たにラーメンフォークをリニューアルすることになったのです。そこで、食器を取り扱うブランドのノリタケから依頼される形で、私がデザインに携わることになりました」(高橋)
依頼の際に、クライアントから提示されたのは「店舗から割り箸をなくしたい」との意向。環境やコストの視点に基づいた方針だが、同時にユニバーサルデザインの観点から考えることも求められた。
「それまでのラーメンフォークは、先割れスプーンに似た形状で、スープをすくうための部分が大きく、割り箸なしには食べづらい側面がありました。実際に名古屋の店舗を訪れてみましたが、やはり割り箸で麺を食べているお客さんも多く、ラーメンフォークはレンゲ代わりにしか使われていなかったのです。また、従来のラーメンフォークは左右が非対称だったため、右利きでないと使えない欠点もありました」(高橋)
「それまでのラーメンフォークは、先割れスプーンに似た形状で、スープをすくうための部分が大きく、割り箸なしには食べづらい側面がありました。実際に名古屋の店舗を訪れてみましたが、やはり割り箸で麺を食べているお客さんも多く、ラーメンフォークはレンゲ代わりにしか使われていなかったのです。また、従来のラーメンフォークは左右が非対称だったため、右利きでないと使えない欠点もありました」(高橋)
●利き手を問わず使用できる左右対称の形状
そのような使いづらい部分を解消するため、まずは左右対称にして、どちらの手でも使用できるようにした。さらに高橋さんは、表層だけの改善に留まらず、より根本に近い次元での見直しを目標に据える。
「ラーメンフォークで食べるからこそ、すがきやのラーメンを美味しく食べられる状態にまで昇華させたいと考え、“ラーメンとラーメンフォークのおいしい関係”をコンセプトに掲げました。つまり割り箸を使うよりラーメンをおいしく食べられる食器を目指すことにしたのです。具体的には、先端のツメの部分に麺を絡めようとすると、同時にスプーンに相当する部分にスープが入る仕組みです。さらに、スープを受ける部分は、従来のものより正円に近づけて、しっかりとすくうことができるようにしました。つまり、麺が口の中でスープとミックスされて、おいしく食べられるようにしたのです」(高橋)
「ラーメンフォークで食べるからこそ、すがきやのラーメンを美味しく食べられる状態にまで昇華させたいと考え、“ラーメンとラーメンフォークのおいしい関係”をコンセプトに掲げました。つまり割り箸を使うよりラーメンをおいしく食べられる食器を目指すことにしたのです。具体的には、先端のツメの部分に麺を絡めようとすると、同時にスプーンに相当する部分にスープが入る仕組みです。さらに、スープを受ける部分は、従来のものより正円に近づけて、しっかりとすくうことができるようにしました。つまり、麺が口の中でスープとミックスされて、おいしく食べられるようにしたのです」(高橋)
●クライアントとの密なコミュニケーション
このような発想に基づいて形成されていった新しいラーメンフォーク。その完成型は、まるで食器の原点である人間の手の形のようにも見える。
「試作品の段階では、見た目には食器として認識できても、口に入れると違和感を感じるようなものもありました。細かな角の尖り具合などが影響していたと思うのですが、敏感な口の中に入れるものなので、そういった違和感を感じさせないように試行錯誤しました」(高橋)
「試作品の段階では、見た目には食器として認識できても、口に入れると違和感を感じるようなものもありました。細かな角の尖り具合などが影響していたと思うのですが、敏感な口の中に入れるものなので、そういった違和感を感じさせないように試行錯誤しました」(高橋)
もちろん高橋さんは、単にプロダクトを制作するだけの姿勢では仕事をしていない。今回も、クライアントと密にコミュニケーションを取りながら進行するプロジェクトとなった。
「実際に生産していく段階に入る前には、麺を製造している工場にまで足を運びました。私は、あるひとつの商品に関する依頼であっても、その企業について必ず詳しく質問させていただくことにしているのです。この仕事のときにも、麺がどのような成り立ちで製造されているのかを解説していただきました。というのも、麺やスープとの関係性を重視した食器を作るためには、それを開発している方とのコミュニケーションが必須であると考えたからです」(高橋)
「実際に生産していく段階に入る前には、麺を製造している工場にまで足を運びました。私は、あるひとつの商品に関する依頼であっても、その企業について必ず詳しく質問させていただくことにしているのです。この仕事のときにも、麺がどのような成り立ちで製造されているのかを解説していただきました。というのも、麺やスープとの関係性を重視した食器を作るためには、それを開発している方とのコミュニケーションが必須であると考えたからです」(高橋)
●デザインを通じた社会的な貢献
さらに発想は、食器の根本にまで迫る。それを象徴する次の言葉は非常に印象深い。ひとつの制作物をもとに、ここまで深く考察されているとは驚きだ。
「この食器はすがきや、そしてノリタケから依頼されたプロダクトでしたが、同時に食器のカテゴリーにおけるスタンダードにもなり得るものだと思います。ある時代にフォークやスプーンやナイフが登場したように、ひとつの概念として定着する。そこから、この形だからこそ食べやすい料理が生まれるように、食文化を変化させる可能性まで秘めていると考えました。
「この食器はすがきや、そしてノリタケから依頼されたプロダクトでしたが、同時に食器のカテゴリーにおけるスタンダードにもなり得るものだと思います。ある時代にフォークやスプーンやナイフが登場したように、ひとつの概念として定着する。そこから、この形だからこそ食べやすい料理が生まれるように、食文化を変化させる可能性まで秘めていると考えました。
このように私は、良くも悪くも、何らかの基礎となる可能性が高い商品に携わることが多いのです。物事の骨組みや考え方を作っていくような“目に見えないデザイン”も多い。だからこそ、これからもそのような立場を明確に意識しながら、デザインを通じて、社会的な貢献をしていきたいと考えています」(高橋)
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
次週、第4話は「社会的なデザイン」について伺います。こうご期待。
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
次週、第4話は「社会的なデザイン」について伺います。こうご期待。
高橋正実(たかはし・まさみ) |