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第4話 社会的なデザイン「都立橘高等学校の校章」ほか

2024.5.18 SAT

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高橋正実氏によるデザイン術を紹介してきた本連載。最終回となる第4話では、東京都立橘高等学校の校章と、墨田区のキャラクター「す〜みん」に注目。それぞれのマークをもとに、制作全般に携わるうえでの信念について聞いた。



第4話 社会的なデザイン
「都立橘高等学校の校章」ほか




●「商業」と「工業」の融合を象徴する



2007年の4月に、日本で初めての産業高校として誕生した東京都立橘高等学校。高橋さんは、その入学式に来賓として出席している。
「校章のデザインを手掛けたことがきっかけで、祝辞を述べる機会を頂いたのです。橘高校は、商業と工業の分野をミックスさせ、物づくりから流通・販売までを一貫して担うことができる人材を育てていくコンセプトに基づいて設立されたのですが、日本の教育や文化、産業を根本から見直したときに、本当に必要とされている学校だと思います」(高橋)


都立高校ながら明確な特色のある校風。当然、校章のビジュアルを構成する際にも、「商業」と「工業」の融合は大きなポイントとなった。
「商業を象徴する算盤の玉を中心に配置して、同時に工業の象徴である金槌を組み合わせています。そこから、橘の花が成長していくようなストーリーで全体像を作っていきました。とはいえ、マークの中で具体的な説明を行いすぎると、記号としての機能を果たさなくなってしまいますので、バランスには気を付けています」(高橋)


さらに高橋さんが校章を形作るに際して考慮したのは「過去と未来を繋ぎ合わせる」こと。「そこから現在の社会の仕組みが見えてくる」との信念にもピッタリと合致した仕事だった。
「モノクロ以外のカラーバリエーションも必要とされましたが、歴史的に高貴な色であった藤色を採用しました。実は、学校のシンボルのひとつとなっている橘の木も、古来から日本で珍重されてきた由緒正しい木だったのです。
考えてみれば、校章は何100年、もしかしたら1000年以上も残る可能性があるものです。社会に出たときに問題解決の策を学ぶことができる教育の分野に携わることのできる仕事だったので、大変意義があると感じました」(高橋)


●北斎をモチーフに墨田区を表現



この学校の立地は、物づくりの発祥の地であり、中小の工場が多い墨田区内。MASAMI DESIGNの事務所がある地元でもある。高橋さんは、別の仕事で同じく墨田区のシンボルキャラクター「す〜みん」も手がけている。
「墨田区は、謙虚な区民性もあり、あまりPRが上手ではなかったように感じるのですが、産業の観点からも重要な場所ですので、そこが発展することは社会全体のためにも繋がるように感じていました。だから、このマークが少しでも役立てばと考えながら、制作しました。
具体的には、両国で生まれ育った葛飾北斎のイメージで、江戸と未来を繋げる意味合いをもたせました。だから江戸時代の独特な髪型やファッションをモチーフとしています。ただ単に絵として機能させるだけではなく、墨田区を効果的に表現できるようなストーリー性をもたせ、相撲のスタイルやお祭りのスタイルなど、さまざまなバリエーションを作成しました」(高橋)


●“社会のデザイン”と位置付けられる仕事



詳しく聞けば、ディレクションだけではなく「イラストも自分の手を動かして描いた」とのこと。やや意外な印象だが、「友人たちにも“正実ちゃんが、こんなにかわいいキャラクターを描けるとは思わなかった”と驚かれます」と前置きしたうえで、次のように続ける。

「どんな仕事でも、内容や相手によって発想を変え、ゼロからスタートして考えるように心がけているので、その結果ともいえるでしょう。このプロジェクトでは、このようなビジュアルが必要とされているように判断したわけです。デザイナーやアートディレクターの中には、分業によって基本的に自分では絵を描かない方も多いですよね。けれども、私の場合はそのような限定はしていません。むしろ、アイデアから制作までを、ひとりの人間が担当したほうが、頭に思い描いた考えや映像を、より確実に具体化できると考えています」(高橋)


そのようなスタンスを物語るのは「個人的にレオナルド・ダ・ヴィンチに共感する部分も多い」との言葉。その印象はやはり「社会との繋がり」に帰結するものだ。
「ダ・ヴィンチは医学、美術、建築、政治など、さまざまな分野に精通していました。絵に関しても、人体の解剖図や飛行機の仕組みを、確実に他者に伝えるために自ら描いていたように感じます。それらは、やはりすべてが社会へと繋がるものです。同じように、私も“社会のデザイン”として位置付けられる分野の仕事にいつも携わっていたいと、日々考えています」(高橋)
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)



「このアートディレクターに聞く」第17回高橋正実さんのインタビューは今回で終了です。次回からは米津智之さんのお話を掲載します。




高橋正実(たかはし・まさみ)
1974年東京生まれ。桑沢デザイン研究所グラフィックデザイン研究科卒業。デザイン事務所に勤務後、97年に独立。現在MASAMI DESIGN主宰。コンセプトの組み立てを得意とするところから、デザインワークはグラフィック、パッケージ、インダストリアル、エディトリアル、空間な ど多岐に渡る。主な仕事に、フランフラン10周年記念商品パッケージの総合デザイン、森ビルイベントの広告、持田製薬「コラージュフルフル」総合デザイ ン、横浜美術館15周年記念展示会総合デザイン、東京書籍の社会科教科書のエディトリアルデザインなど。

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