様々なジャンルで活躍するデザイナーの来歴をたどるシリーズ。今回はグラフィックデザイナーの仕事と並行しながら、ミュージシャン/ライター/編集者としても多彩な活動を展開する江森丈晃さんを取材し、今日までの足跡をたどります。
第4話 ピュアに見えるようにするにはどうすべきか
江森丈晃さん……曰く「これって情熱大陸みたいじゃないですか……?」
天然のアートには惹かれない
──独立して、そろそろ10年ですね。
江森●もう不安で不安で。よくやってこれたなぁという実感と同じぐらい「このままやっていけるのか?」という不安が重くのしかかってますよ。自分が好きなものというのは、常に世の中の主流とは違うものだし、音楽も本も、いまは本当にお金に結ぶのが難しい時期だから……。
──なんでも自分でこなす、DIY精神が旺盛だと感じますが。
江森●DIY精神というよりも、全部違った魅力があるから、自分でできることは自分でやっておきたいという思いですね。それと同時に、自分のなかではデザインも音楽も編集も、根っこは同じもののような気もしてます。売り場が違うだけというか、どれも自分のツボに響くものを作っているだけなので、マルチになんでもやってるって意識はないんですよね。……みたいなことを、他の誰かも偉そうに喋ってそうで嫌なんですけど。
──基本は編集能力というか……。
江森●そうですね。バランスや判断の積み重ねだと思います。僕は天然モノのアートなんて、ほんの一握りしかないと思っているんです。ほとんどは養殖ですよね。たとえば油絵を描く人なんかを思ってもらえればいいと思うんですけど、画家がキャンバスに色を置くとき、その色を置くか置かないか、置いたら置いたで、筆を下に流すのか上に持ち上げるのかの“判断”を、毎分毎秒しているわけですよね?
──感覚的なもので?
江森●感覚的なものかもしれませんが、少なくとも頭の中が真っ白になっている状態ではない。逆に、ものすごい速度の判断の連続があるんだと思うし、かなり冷静なオン/オフの連鎖で1枚の絵ができていると思うんです。だから、泥粘土を塗ったくったようなプリミティヴ・アートでも、泥をつかんだ後に「さあ、どこに置こうか」という判断を、ものすごくフラットにしているはずなんですよね。
──無意識に頭が回転してるかもしれませんね。
江森●いや、無意識ではないんです。無意識というのは天然モノですから、それはそれでレアだと思うんですけど、大抵はハッキリと意識的だと思います。たとえば古雑誌のコラージュ。あれはとてもチャイルディッシュで天然な表現であるのと同時に、いかにチャイルディッシュで天然な表現に「見せるのか」の表現でもあると思うんです。紙に素材を1枚を貼るにしても、まず判断。そこに次の判断、その次の次の判断……というオン/オフの連続を重ねることで、ひとつのアートピースに仕上げるわけで、かつ、仕上ったものをよしとするか否かの判断だってあるわけだから、あれは完全に編集能力の賜物。そういう意味では、なにかモノを作るというときに、編集者的な目線というのは絶対に切り離せないものだと思うんですね。音楽にしても、しつこいぐらいの判断の積み重ねがないと、いいものはできないと思う。
──自分でもそうだと?
江森●毎分毎秒ですね。デザインもそうだし、作曲にしても、次の音は上にいこうか下にいこうかという決断がずっとある感じで。そういう思考のなかで、その苦労の痕を外に出さずに、コンセプト先攻にならずにいるにはどうすればいいか……と、そこでもまた判断している(笑)。
江森●もう不安で不安で。よくやってこれたなぁという実感と同じぐらい「このままやっていけるのか?」という不安が重くのしかかってますよ。自分が好きなものというのは、常に世の中の主流とは違うものだし、音楽も本も、いまは本当にお金に結ぶのが難しい時期だから……。
──なんでも自分でこなす、DIY精神が旺盛だと感じますが。
江森●DIY精神というよりも、全部違った魅力があるから、自分でできることは自分でやっておきたいという思いですね。それと同時に、自分のなかではデザインも音楽も編集も、根っこは同じもののような気もしてます。売り場が違うだけというか、どれも自分のツボに響くものを作っているだけなので、マルチになんでもやってるって意識はないんですよね。……みたいなことを、他の誰かも偉そうに喋ってそうで嫌なんですけど。
──基本は編集能力というか……。
江森●そうですね。バランスや判断の積み重ねだと思います。僕は天然モノのアートなんて、ほんの一握りしかないと思っているんです。ほとんどは養殖ですよね。たとえば油絵を描く人なんかを思ってもらえればいいと思うんですけど、画家がキャンバスに色を置くとき、その色を置くか置かないか、置いたら置いたで、筆を下に流すのか上に持ち上げるのかの“判断”を、毎分毎秒しているわけですよね?
──感覚的なもので?
江森●感覚的なものかもしれませんが、少なくとも頭の中が真っ白になっている状態ではない。逆に、ものすごい速度の判断の連続があるんだと思うし、かなり冷静なオン/オフの連鎖で1枚の絵ができていると思うんです。だから、泥粘土を塗ったくったようなプリミティヴ・アートでも、泥をつかんだ後に「さあ、どこに置こうか」という判断を、ものすごくフラットにしているはずなんですよね。
──無意識に頭が回転してるかもしれませんね。
江森●いや、無意識ではないんです。無意識というのは天然モノですから、それはそれでレアだと思うんですけど、大抵はハッキリと意識的だと思います。たとえば古雑誌のコラージュ。あれはとてもチャイルディッシュで天然な表現であるのと同時に、いかにチャイルディッシュで天然な表現に「見せるのか」の表現でもあると思うんです。紙に素材を1枚を貼るにしても、まず判断。そこに次の判断、その次の次の判断……というオン/オフの連続を重ねることで、ひとつのアートピースに仕上げるわけで、かつ、仕上ったものをよしとするか否かの判断だってあるわけだから、あれは完全に編集能力の賜物。そういう意味では、なにかモノを作るというときに、編集者的な目線というのは絶対に切り離せないものだと思うんですね。音楽にしても、しつこいぐらいの判断の積み重ねがないと、いいものはできないと思う。
──自分でもそうだと?
江森●毎分毎秒ですね。デザインもそうだし、作曲にしても、次の音は上にいこうか下にいこうかという決断がずっとある感じで。そういう思考のなかで、その苦労の痕を外に出さずに、コンセプト先攻にならずにいるにはどうすればいいか……と、そこでもまた判断している(笑)。
江森さんのデザインワークより
Kenji Takimi『The DJ At The Gates Of Dawn 2』
(Rhythm Zone / Avex 2007)
クルーエルレコード主宰、瀧見憲司氏によるミックスCD。
プログレ風の鉛筆画は、北九州に住むイラストレーター=箱崎誠氏によるもの。
Googleで「鉛筆画」を検索し、トップに表示された“職人”とのセッションだが、
2週間に渡るメールのやりとりで“涅槃”の領域へ……
インナーの“無限っぷり”もヤバし!
Kenji Takimi『The DJ At The Gates Of Dawn 2』
(Rhythm Zone / Avex 2007)
クルーエルレコード主宰、瀧見憲司氏によるミックスCD。
プログレ風の鉛筆画は、北九州に住むイラストレーター=箱崎誠氏によるもの。
Googleで「鉛筆画」を検索し、トップに表示された“職人”とのセッションだが、
2週間に渡るメールのやりとりで“涅槃”の領域へ……
インナーの“無限っぷり”もヤバし!
職人に影響されてみたい
──今後の予定は?
江森●とりあえず、ヨーガンアンツの2ndを作るのと、その前に新曲を含む疑似ライヴ盤をリリースします。ライヴ盤のほうはソニーから出ます。デザイナーとしては、引き続きCDジャケットが主ですね。
──肩書きとして、いろんなものがあるのは変わらない?
江森●それは今後も変わらないし、もう変わりようがないと思います。……ただ、たまに思うのは「俺にはこれしかない!」という昔気質の職人さんっているじゃないですか。漆でも日本刀でも陶芸でもいいんですが、そういう人と長い時間を過ごして、ガツンと影響されてみたいということ。年々その気持ちが強くなってますね。
──どういうところが?
江森●そういう人って、まず佇まいがきれいじゃないですか。そのシンプルさに影響されてみたい。あと、同時に「ホントにきれいなのか?」という疑念もあって、それを晴らしたいという気持ちもある(笑)。ひとことも喋らず名刀を鍛えていても、頭ではケーキのことを考えていたり、「今日ってなんか面白いテレビあったっけ?」って考えてたり、それこそ「ピュアに見せるにはどうするべきか」みたいな計算があったりとか(笑)。そういう側面を目撃して、自分も少し安心してみたいと思うんですね。
──では、最後にアドバイスを。
江森●僕はとにかくレコード・ジャケットが好きで、自分でもやってみたいと考えているうちにこういうことになっちゃったので、なにかを真似したいって欲求は凄くわかるんですよ。バンドだってコピー・バンドは楽しいし、デザインだって好きなものをトレースするのは面白いことだと思うんです。でも、それをすることで、もし“ものすごく精度の高いコピー”ができてしまったら、僕は逆に諦めたほうがいいと思う。
──厳しいけど、それありますよね。
江森●手を動かしていれば、なにかしら自分なりのアイデアに呑まれて、どんどんオリジナルなものになっていくはずなのに、そうはならなかったということですからね。たとえばピーター・サヴィルのHPにいったら、ニューオーダーのジャケットと同じフォントが落とせて、かつ、あのレイアウトを組むということも、いまはすごく簡単ですよね。でも、もしそれでサヴィルとまったく同じデザインができてしまったら、それは“他になにも思い浮かばなかった結果”ということになる。それはやっぱり負けなんですよ。
──うわ……それ、ちょっと耳が痛い(苦笑)。
江森●だからそういう人は、エンジニア系というか、オペレーター系というか……たとえば紙やインクのエキスパートになるだとか、そういう道に行ったほうがいいと思います。音楽にしても「こういう曲が作りたい」という青写真があるというのは、当然だと思うんです。でも、ビックリするぐらいそれに似たような曲ができてしまったら、そこにはもう商品価値がないですから。
江森●とりあえず、ヨーガンアンツの2ndを作るのと、その前に新曲を含む疑似ライヴ盤をリリースします。ライヴ盤のほうはソニーから出ます。デザイナーとしては、引き続きCDジャケットが主ですね。
──肩書きとして、いろんなものがあるのは変わらない?
江森●それは今後も変わらないし、もう変わりようがないと思います。……ただ、たまに思うのは「俺にはこれしかない!」という昔気質の職人さんっているじゃないですか。漆でも日本刀でも陶芸でもいいんですが、そういう人と長い時間を過ごして、ガツンと影響されてみたいということ。年々その気持ちが強くなってますね。
──どういうところが?
江森●そういう人って、まず佇まいがきれいじゃないですか。そのシンプルさに影響されてみたい。あと、同時に「ホントにきれいなのか?」という疑念もあって、それを晴らしたいという気持ちもある(笑)。ひとことも喋らず名刀を鍛えていても、頭ではケーキのことを考えていたり、「今日ってなんか面白いテレビあったっけ?」って考えてたり、それこそ「ピュアに見せるにはどうするべきか」みたいな計算があったりとか(笑)。そういう側面を目撃して、自分も少し安心してみたいと思うんですね。
──では、最後にアドバイスを。
江森●僕はとにかくレコード・ジャケットが好きで、自分でもやってみたいと考えているうちにこういうことになっちゃったので、なにかを真似したいって欲求は凄くわかるんですよ。バンドだってコピー・バンドは楽しいし、デザインだって好きなものをトレースするのは面白いことだと思うんです。でも、それをすることで、もし“ものすごく精度の高いコピー”ができてしまったら、僕は逆に諦めたほうがいいと思う。
──厳しいけど、それありますよね。
江森●手を動かしていれば、なにかしら自分なりのアイデアに呑まれて、どんどんオリジナルなものになっていくはずなのに、そうはならなかったということですからね。たとえばピーター・サヴィルのHPにいったら、ニューオーダーのジャケットと同じフォントが落とせて、かつ、あのレイアウトを組むということも、いまはすごく簡単ですよね。でも、もしそれでサヴィルとまったく同じデザインができてしまったら、それは“他になにも思い浮かばなかった結果”ということになる。それはやっぱり負けなんですよ。
──うわ……それ、ちょっと耳が痛い(苦笑)。
江森●だからそういう人は、エンジニア系というか、オペレーター系というか……たとえば紙やインクのエキスパートになるだとか、そういう道に行ったほうがいいと思います。音楽にしても「こういう曲が作りたい」という青写真があるというのは、当然だと思うんです。でも、ビックリするぐらいそれに似たような曲ができてしまったら、そこにはもう商品価値がないですから。
江森さんのデザインワークより
左:Twins Drum Tee(Doarat/2006年)
右:Multiplication Of Shit Tee(Loose Joints/2007年)
Tシャツ&テキスタイルなど、アパレル系デザインにも果敢に“攻め”を見せるTONE TWILIGHT。
徳永憲二氏が率いるDOARAT(ドゥアラット)との定期的なコラボレーションの他、
マルチ・ジョイント・レーベルLoose JointsからリリースのウサギTシャツ(冒頭写真で江森氏着用)は、
う……うんこの掛け算??? その制作背景には、実は飼っていた亀の“死”との深い関係が……
江森「飼っていたリクガメをベランダで日光浴させていたら、7Fから下に落ちて、入院した後に結局死んだんですね。
で、ちょうどそのときにこの仕事がきたので、もう二度とペットはごめんだ……という気持ちを込めてデザインしたんです。
ペットを飼うと、愛情も日増しに増殖するけど、その背中では後で払わなくてはいけない“ツケ”も同じように増殖している……
みたいな意味合いです。そのままカメだと辛すぎるし、うんこの形がデザイン的でないので、敵対するウサギにしてみました」
左:Twins Drum Tee(Doarat/2006年)
右:Multiplication Of Shit Tee(Loose Joints/2007年)
Tシャツ&テキスタイルなど、アパレル系デザインにも果敢に“攻め”を見せるTONE TWILIGHT。
徳永憲二氏が率いるDOARAT(ドゥアラット)との定期的なコラボレーションの他、
マルチ・ジョイント・レーベルLoose JointsからリリースのウサギTシャツ(冒頭写真で江森氏着用)は、
う……うんこの掛け算??? その制作背景には、実は飼っていた亀の“死”との深い関係が……
江森「飼っていたリクガメをベランダで日光浴させていたら、7Fから下に落ちて、入院した後に結局死んだんですね。
で、ちょうどそのときにこの仕事がきたので、もう二度とペットはごめんだ……という気持ちを込めてデザインしたんです。
ペットを飼うと、愛情も日増しに増殖するけど、その背中では後で払わなくてはいけない“ツケ”も同じように増殖している……
みたいな意味合いです。そのままカメだと辛すぎるし、うんこの形がデザイン的でないので、敵対するウサギにしてみました」
「これがデザイナーへの道」第16回、江森丈晃さん(TONE TWILIGHT)のインタビューは今回で終了です。
(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)
(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)
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[プロフィール] えもり・たけあき●1972年東京都生まれ。グラフィック・デザイナー/ミュージシャン/ライター/編集者。ソニーマガジンズ〜宝島社での編集修業を経て、98年にデザイン事務所+インディペンデント・レーベル「TONE TWILIGHT」を立ち上げる。90年代初頭から中盤までバンド「CITRUS」の中心メンバーとして活動、最近は新しいユニット「yoga'n'ants」のアルバムを発表したばかり。http://www.tonetwilight.com/ |