第1話 「BCCKS」というサービスについて | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて
タイトル画像、第11回Webプロデューサー列伝 中村博久

誰もが、ブログのように簡単にWeb上で本を作れる新しいCGMサービス「BCCKS」(ブックス)が12月からスタートする。そのコンセプトデザイン及びアートディレクションを手掛けているのは、グラフィックデザイナーあり、これまでにも「ポップアップコンピュータ」、「ジャングルパーク」、「動物番長」といった数々のメディアデザインに取り組んできた松本弦人氏。いったい「BCCKS」とはどのような新しいサービスなのだろうか? 松本弦人氏に話を伺った。


第1話 「BCCKS」というサービスについて


原稿が書き散らかされたような状態にあるWeb上の情報


——最初に「BCCKS」とはいったいどのようなサービスなのでしょうか?

松本●ひと言でいうと、ブログのように簡単にweb本が作れるCGM(Consumer Generated Media)サービスです。
特徴を簡単に説明すると、
1.簡単。
2.htmlでブラウザ表示。
3.リアルで読みやすい
となりますね。

もう少し説明します。
1.どれくらい簡単か
というと、まず本のタイプを選びます。例えば日記タイプ、文庫本タイプ、写真集タイプ、等の様々なタイプの中から好きなデザインの本が選べます。
次にテキストを書きます。ラーメン日記でも、箱根の熟女3人温泉旅行記でも、まるっかわいい猫ちゃん写真集でも、なんでも結構です。書きためたブログからコピペでももちろんオーケー。写真が必要ならブログとおんなじ要領でアップ出来ます。
これでWeb本の出来あがり。

2.なんでhtmlか
というと、軽くて、改ざんしやすくて、テキストと写真のコピー出来るからです。(この件については後ほど)一般の人が日々更新したりするCGMでFlashはあり得ないでしょ。

3.どれくらい読みやすいか
というと、かなり「本を読んだ気」になれます。オイラの知るかぎり、現存のWeb本の中で一番「本」として成立していると思います。
今公開しているプレビュー版は、まだ読むだけのバージョンですが、とにかく見てみてください。「BCCKS」のサービスでいったいどういう本が出来るのかを見てもらうために、知人にコンテンツを提供してもらって作ったブックが沢山並んでいます。立花ハジメのピスト本、タナカカツキの小学生時代に描いた超大作マンガ、末井明の上海旅行記、辛酸なめ子の動物写真集、100%Orangeのパラパラ絵本、と読み応え見応えばっちりです。
ちなみに12月から、一般の人が会員登録できるモニター版を公開する予定です。

左:BCCKSのトップページ 右:11月16日からスタートする「TDC BCCKS」展の特設ページのイメージ

——「BCCKS」と書いてブックスと読ませるのには、何か意味があるのですか?

松本●アルファベットの“O”を“C”に。つまり閉じていない、「開かれた本」っていう意味です。「開かれた本」。この意味はけっこう重要で、さまざまな角度に開かれています。作り手にはもちろん、読み手、表現、企画、流通、価格、資源など、実存する紙メディアのほとんどの部分に当てはめることが出来ます。

——この「BCCKS」のきっかけを教えてください。

松本●今から2年前に、某CGMポータルのリニューアルの依頼を受けたんです。そこで初めて仕事の目でWebメディアに接しました。改めてそうして見てみると、まあ、なんてもったいないんだろうと強く感じたんですね。CGM。文字通り「一般の人が作るメディア」なので、誤解を恐れずに言えば、それは、いろんな意味で「おもしろくない」んですよ。おおよそほとんどのCGMが、例えば、自分のメモとして書いていたり、ごく近しい人にのみ向けてだったり、そもそも赤の他人を喜ばそうなんてみじんも考えていなかったり、逆に既存のメディアのトーンをまねて書いてたり、まあ、当たり前ですよね、この結果は。プロが作ってるメディアですら9割5分はおもしろくないんだし。

でも、そんな中に、ごくまれにとんでもない珠玉のコンテンツがあって、ごくまれっていっても、仮に確率が百分の一、千分の一、いや一万分の一でも、なにしろ分母、つまり日本語のブログの総数が3000万近くという数字も出ているくらいなんだから、とてつもない量じゃないですか。ありえないですよね、ふつう。3千だか3万だか30万だかの、ある一個人に親和性が高くておもしろいメディアがごろごろ転がってる状況って。でもですね、実際にそこにたどりつくことがほぼ無理というか、まず見つからない。なにしろ分母が3000万だから。検索エンジンがどれだけインテリでもアマゾンがどんだけがんばって類似物を紹介してくれてもまずダメ。一個人にとって親和性の高いコンテンツってそーゆーんで見つからないじゃないじゃないですか。

今の(当時も)Webって、書き散らされた原稿と撮りっぱなしの写真で埋め尽くされた「片付けられない女の部屋」って状態なんですね。なので探せないし、探す気もおきない。じゃあ、そこをなんとかすればいいんだって気がついたんです。

残念ながらその某サイトのリニューアルプロジェクトは頓挫したんだけど、そのときいろいろと考えたことや気づいたことなども踏まえて、新たなコンセプトをもとに作られたのが「BCCKS」です。

Web上の情報を整理して“顔”のあるメディアに


——本という形態をとったのはなぜですか?

松本●「検索できない」ことに加え「読む気がしない」というもうひとつの大きな問題がありました。
実はブログって「読まれるメディア」としてデザインされたんじゃないんだと思う。だからとっても読みづらい。元々ブログは日記を書くために開発されたのではなく、個人で思考を掘り下げる、あるいは、複数人で共同の研究したりしていくうちに出来上がったインターフェイスなんですって。コメントもカレンダーも最新一覧もそのためのデザインと思うとしごく納得がいきませんか? たまたま日記も書けるねってことで日本ではブログ=日記と捉える人が多くなったようです。あ、ちなみに世界で一番ブログで使われてる言語は日本語だそうです。

もうひとつ読みにくいメディアの宿命として縦スクロールがあります。あれ、目と脳にとても悪いでしょ。モニターって横に走査線が走ってるから当然縦の動きに弱く、縦スクロールさせるとものすごくチラチラするじゃないですか。長時間読んでると目とか脳とかがチリチリするんですよね。

この二つの理由で、縦に延々と巻物のように続く「ブログデザイン」じゃダメってことだけははっきりしました。
で、話を検索に戻します。なぜ親和性の高い情報にたどり着きにくいかというと、それは検索エンジンの精度の問題ではなくて、検索されるコンテンツ側の問題が大きいんです。ブログって読んでみないとわからないですよね。つまりそこに顔がないんです。読む前に少しでもその中身がイメージ出来ると随分違うでしょ。

顔のあるブログかぁ〜ノそういえばよく「表紙は本の顔」って言うな〜ノノそーそー、本や雑誌にとって表紙はとても重要で、例えば表紙にかわいい猫の写真があって、そこに「I LOVE CATS」って赤くて太くてまるっこくてかわいいロゴが入ってたら、まず「猫好き本」とかだろうし、おんなじ赤でもドロンドロンに血が滴ったロゴだったら、「化け猫本」か「トッポイ猫本」か、とにかくストレートな「猫本」じゃないことは伝わりますよね。そしておそらく内容は猫に関するものに間違いなくて、カエルの話はまず書かれていません。

今、Webで「猫」って検索すると、「キャットフード」や「にゃんまげ」はまだイイとしても、「安達祐実出産、名前は凛ちゃん!も〜猫っかわいがり!」なんてものに出くわすのが必死。貴重な時間を使って、そんな目には遭いたくないですね。

そー、この答えはとてもシンプルで、表紙は雑誌や本の顔だし、気持ちよく読むためにはスクロールしないでページで見せればいい。つまり「本」なわけです。
とっても簡単なこの回答にたどり着くのに一年以上かかっちゃったんですけどね。


(取材/服部全宏 撮影/谷本夏 )


■「TDC BCCKS」展
国内の広告デザイン業界をリードする163名のデザイナーが参加するTOKYO TDCの誕生20周年を記念してBCCKSとコラボレーションして行われるデザイン展。
BCCKSの仕組みを使い、国内外の33名による新作ブックをWeb上と書店などで展示、さらにTDC会員77名によるTDC誕生の1987年をテーマとした絵はがきをWeb上やカフェなどで展示。2007年11月16日よりスタート。
TDC BCCK展特設ページ http://tdc.bccks.jp


[プロフィール]
松本弦人

デザイナー/BCCKS チーフ・クリエイティブ・オフィサー

コンピュータによるグラフィックデザインの黎明期から積極的に先端技術を取り入れ様々なメディアへのデザインに取り組む。主な作品としては「ポップアップコンピュータ」「ジャングルパーク」「動物番長」など。
これまでの主な受賞歴としては、マルチメディアグランプリ、通産大臣賞、日本ソフトウェア大賞、読売新聞賞、ADC賞、TDC賞他受賞。
[ 関連サイト ] BCCKS http://bccks.jp

twitter facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 RSS
【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて

この連載のすべての記事

アクセスランキング

8.30-9.5

MdN BOOKS|デザインの本

Pick upコンテンツ

現在