第4話 目に見えないデザインや編集が重要になってくる | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

第4話 目に見えないデザインや編集が重要になってくる

2024.5.21 TUE

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タイトル画像、第11回Webプロデューサー列伝 中村博久

誰もが、ブログのように簡単にWeb上で本を作れる新しいCGMサービス「BCCKS」(ブックス)が12月からスタートする。そのコンセプトデザイン及びアートディレクションを手掛けているのは、グラフィックデザイナーあり、これまでにも「ポップアップコンピュータ」、「ジャングルパーク」、「動物番長」といった数々のメディアデザインに取り組んできた松本弦人氏。いったい「BCCKS」とはどのような新しいサービスなのだろうか? 松本弦人氏に話を伺った。


第4話 目に見えないデザインや編集が重要になってくる



見えないところにノウハウがたっぷり入っている




——デザインに関して注意していることはありますか?

松本●ユーザーには、それが「デザイン」なんだということに気づかれないようデザインされています。かわいい猫の写真に丸っこくて太くて赤いロゴで「CAT」って入っていて、そこに自分のかわいい猫の写真を読み込むと、まあ!なんだかこれって本みたいねってことになる。「うちのミーニャちゃんってなんてかわいいんでしょう!」って。デザインの本質はそこにあります。そこがデザインとしては重要なところで、なんだかよくわからないんだけど、文字は赤いほうがPVが上がるとか、表紙の写真を変えたら、急にみんながコメントしてくれるようになったとか。なんかグラフィカルだったり、今風だったりとかのその前の、一番重要なデザインの、編集の、その恩恵に、多くの人が「これがデザイン」とか「これが編集」とか意識しないで触れられる。

「BCCKS」のデザインフォーマットはとてもシンプルです。エレメントは日付、タイトル、本文、写真、キャプションとブログとまったく同じものにしています。写真は縦位置だろうが正方形だろうが、それぞれのフォーマットにバランスよくハマるように調整されています。わずらわしいトリミング作業をしなくてもとりあえず形になる。文字量もフォーマットに従って書いてるとなんだか書きやすく説明しやすい。読むのもテンポよく読める。なんだか読後感がいい。

あと「BCCKS」ではシステムフォントではないフォントでロゴを作ることができます。もちろん本(ブック)のロゴとして強度の高いフォントを潤沢に用意しています。ロゴがしっかりしていることってほんと重要で、逆に言えば他がどれだけちゃんとデザインされていてもロゴがダメだと全くダメです。すべてが台無しになります。そういった編集やデザインのノウハウが人知れずたっぷりと入っています。

「BCCKS」のユーザーは、書きたいことをブログのように書くだけです。書いていると知らないうちにデザインと編集の恩恵を受けられる。でも出来あがったブックを見てそのユーザーは決してデザインや編集機能のおかげだと思わない。「ミーニャちゃんがかわいいおかげ」と思う。それが「BCCKS」が目指すデザインです。


情報と情報ではなく、人と人がつながる




——今後の展開について教えてください。

松本●目標は世界制覇ですね(笑)。冗談です。けど、これを世界基準にしてやるくらいの想いはあります。近いところでは近日中にモニター版が公開され、会員登録ができるようになり、一般のユーザーもブックを作れるようになります。なにしろそれがキモで、いろんな人が様々なブックを自由に作れるようになるっていう、まだ誰も見たことのない世界がはじまることになります。すげーわくわくしてます。

その後、アルファ、ベータ版とリリースしていきます。日記タイプ、写真集タイプ、書籍タイプ、等のフォーマットは随時充実していきますし、複数の人たちで一冊の本が作れる共同編集ができるようになったり、セレクト本屋さんのようなページを持つことができたり、企業タイアップ企画をがんがん展開したり、TDC展のような展覧会やイベントの開催、などなど、おおよそ現実の紙の周りで起きていることにはどんどんトライして、形にしていきます。

それと、クリエイティブ・コモンズ(以下、CC)・ライセンスとの連携を強化していく予定です。写真をブックに読み込むときには、自分のコンピュータかフリッカー等のCC系のサービスから読み込むことができ、選んだ写真のCCラインセンス規定に従って、CCのマークが入ったりクレジットが入ったり、トリミングが出来なかったり。自立的にCC環境が整うようにしたいと思っています。他にも会員同士で写真を提供しあったり、文章の引用、発注などがスムーズに行われる仕組みも作ります。誰かの写真や文章を編集して、いっさい自分では写真を撮ったり書かずにブックを作る、なんていう本当に編集者のような仕事をする人が出てくるのも面白いと思ってます。

引用と素材提供の新しい形と言うか、「BCCKS」という、出版とCGMという微妙な位置にあるサービスにおける、編集、著作権の気持ちのいいかたちや関係を作りたいですね。


——松本さんが考えるWebの未来について教えてください


松本●「BCCKS」が目指している編集レイヤーって概念自体はすでにWeb上で始まっているんだけど、実はまったく編集されていない、むしろ「片付けられない部屋」を量産しているように思えます。編集のされ方がやっぱり情報と情報でしか繋がっていないんですね。片付けられる側の問題は何も変わっていないのはもちろん大きいんだけど、やっぱり素材と収納箱の相互関係がちゃんと成立しないとうまくいかないんだと思います。

編集という行為が単に情報を情報で繋げているだけでは、人の嗜好とか想いが入りにくい仕組みだと思うし、散らかっているのをさらに散らかしているだけだとやっぱり自立的な編集レイヤーにはならない。自立的(つまり環境なんだけど)って、とても重要だと思ってる。

「BCCK」で試みようとしている編集レイヤーを実現していくためには、他の様々な情報、メディア、アーカイブを「BCCKS」にフォーカスしていきながらチューニングしていく仕組みが必要だと思ってます。そして、そこにはテクノロジーだけではない様々なジャンルのノウハウが必須だと思います。

今後のWebには、IT社長にはないノウハウが必要とされる。ミュージシャンとか大工とか料理人とか主婦とか編集者とかデザイナーとか、さまざまなジャンルのプロフェッショナルの経験や知識やルール・デザインが、Web全体に組み込まれていかないと、いつまでたってもゴッコの息を抜けないし、整理されない。でも、そーなったらかなりやばいですよね。Webが究極の情報になって、まったく外に出かける必要がなくなってしまう。国立図書館に行くよりも信頼性の高い情報にどこからでも即触れることができるようになったらどんなことになるのかは見てみたいですね。(ならないんだけどね。)



(取材/服部全宏 撮影/谷本夏)

[プロフィール]
松本弦人

デザイナー/BCCKS チーフ・クリエイティブ・オフィサー

コンピュータによるグラフィックデザインの黎明期から積極的に先端技術を取り入れ様々なメディアへのデザインに取り組む。主な作品としては「ポップアップコンピュータ」「ジャングルパーク」「動物番長」など。
これまでの主な受賞歴としては、マルチメディアグランプリ、通産大臣賞、日本ソフトウェア大賞、読売新聞賞、ADC賞、TDC賞他受賞。
[ 関連サイト ] BCCKS http://bccks.jp

TDC20周年記念イベント
TDC BCCKS the 20th Anniversary Exhibition
〜33冊のブックと、77枚の絵はがき展〜開催中!
http://tdc.bccks.jp
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