2004年にP&Gの「アイラブ困ったさんコンテスト」、2005年にコカ・コーラ ジョージアの「Radio GEORGIA Special Dream Navigators」などにおいて、ブログやポッドキャスティングをいち早くマーケティング手法に取り入れ、Webクリエーション・アウォード「Web 人 of the year」賞受賞。2007年にはナイキジャパン「キメワザバトル」で東京インタラクティブ・アド・アワード金賞受賞といった数々の賞を受賞してきたビーコン コミュニケーションズの渡辺英輝氏。Webならではの新しいツールや技術を広告マーケティングにタイミングよく取り入れる彼のセンスは業界でも評価が高い。そんな渡辺英輝氏に現在のWebの状況、そしてWebの未来についての話を聞かせていただいた。
第3話 現在のインターネット広告に求められるもの
Webで驚くようなことが少なくなってきた
——クライアントの要望自体も変化してきているのでしょうか?
渡辺●最近は費用対効果の話になることが多いですね。日本ではイーコマースは別にして、商品の購入場所の中心はやはりショップなので、売り上げとWebマーケティングの効果を完全に紐づけられることができません。費用対効果が測りにくいと、力の入れようも変わってきますよね。
消費者は電車やクルマにも乗るし、外でお酒を飲んだりもする。目の前にいつもインターネットがあるわけではないんですね。最近ではインターネットも影響力の高いメディアのうちのひとつとされていますが、それだけでは届かないところや、関係ないところもたくさんあって、それらを考えて幅広くモノが売れるような仕掛けやサービスが必要になってきていると思います。
少し前だったらTVCMを打てばそれなりに売り上げが動いたのですが、いまはそうはいかない。もちろんTVCMと売り上げが完全に紐づいているわけではないでしょうけど、昔はそういうシンプルな関係が成り立っていました。
ここ2、3年でインターネットって大切だよね、やらないといけないということで、みんながいろいろとやりはじめたのだけど、その効果がよくわからない。昔TVCMが及ぼしたような大きな効果が出てこない。だとしたら、インターネットでやっていることが無駄なのか、あるいはそれはそれでよしとするのか、といったところで頭を抱えるようになっているのが現状ではないかと思います。
——今後のインターネット広告はどのようになっていくと思いますか?
渡辺●3、4年前は、フラッシュを使ったリッチなWebサイトを作るのが注目された時代で、ここ2、3年はブログ、YouTube、mixiといったWeb2.0が主流になって、いまはそれも一段落してきましたよね。表現としては、映像もできるし、音楽も流せるようになってきて、Web上で驚くことが少なくなってきています。
そういった状況も踏まえると、いまは、TVCMが過去に担っていたようなインパクトあるコミュニケーションや、マーケティングとしてインターネットがどこまでいけるのかということにチャレンジするべき時代になってきたのだと思います。もしかしたら、ひとつのメディアが突出するということではないのかもしれないですけど。
今後はありとあらゆるモノがネットで繋がっていくので、大きくいろいろなことがシフトしていくのではないでしょうか。その流れは確実だと思いますね。単純にTVがインタラクティブになるとか、静止画が動くということではなくて、その裏でさまざまな情報が連動してインターネットで繋がって、ダイナミックかつリアルタイムに変化していくようなモノが増えていくのではないかと思います。
見せるだけではなく、参加させることが重要
——インターネット広告において重要なことはなんでしょうか?
渡辺●広告業界はこれまでプッシュ型のことをやってきたのですが、その文脈でやろうとする人たちがいまだに多いんです。でもインターネットってプル型のメディアで、人をグイッと引っ張ってこないといけない。しかも、引っ張ってくるだけではなくて、どれだけ参加させるかということも重要で。
最近ではバイラルCMも、多くの人に見てもらえたというだけではダメな感じになってきていて。こういうやり方をしたら人がいっぱい見るのはわかった、じゃあ、この次はどうなるの?ということが問われるようになってきていて。いまYouTubeにインパクトある映像を作ってアップしたところで、あまり喜ぶクライアントっていないですよね。これ見たけど、で、どうなの?、なんなの?ってことになりますよね。
ただ見せるだけではなくて、「NIKE +」のようにちゃんと引き込んで、ユーザーたちが参加するようなものが必要になってきているのですが、実はその参加させるっていうのが、言葉では簡単だけども、バランスや微妙な立ち位置が難しいんですね。参加している人に対するモチベーションや、インセンティブの与え方を設計していくのがけっこう大変なんです。そこの設計がより重要になってきていますね。
特にインターネットに関してはそれを思いますね。そこがうまく設計されているとニコニコ動画みたいになるんでしょうね。ひろゆきさんは、うまくインターネットユーザーの欲求や、心を掴んでいるなあって思いますね。そして、それにビシッとはまるサービスを出してきますよね。ニコニコ動画までとはいわないけれども、あのようなすばらしいサービスを企業が提供できるようになったら、企業としてはとてもハッピーでしょうね。
(取材/蜂賀亨 撮影/谷本夏 )
[プロフィール] ビーコン コミュニケーションズ デジタル部 部長 渡辺英輝 1996年米国インディアナ大学、経営学部卒業。 株式会社野村総合研究所を経て、2000年ビーコン コミュニケーションズ入社。 2005年Webクリエーション・アワード「Web人 of the year」賞、東京インタラクティブ・アド・アワード金賞、カンヌ国際広告祭、New York Festival ほか受賞多数。 著書に「Webキャンペーンのしかけ方。 広告のプロたちがつくる"つぎのネット広告"」(インプレスジャパン)がある http://www.29man.net/ |