2004年にP&Gの「アイラブ困ったさんコンテスト」、2005年にコカ・コーラ ジョージアの「Radio GEORGIA Special Dream Navigators」などにおいて、ブログやポッドキャスティングをいち早くマーケティング手法に取り入れ、Webクリエーション・アウォード「Web 人 of the year」賞受賞。2007年にはナイキジャパン「キメワザバトル」で東京インタラクティブ・アド・アワード金賞受賞といった数々の賞を受賞してきたビーコン コミュニケーションズの渡辺英輝氏。Webならではの新しいツールや技術を広告マーケティングにタイミングよく取り入れる彼のセンスは業界でも評価が高い。そんな渡辺英輝氏に現在のWebの状況、そしてWebの未来についての話を聞かせていただいた。
第4話 インターネットを核にした新しい「ムーブメント」を起こしたい
僕は、インターネットと広告コミュニケーションが好き
——渡辺さんが仕事をやる上で、普段から心掛けていることはありますか?
渡辺●僕は常に意味というものを追求したいと思っています。仕事柄いろいろなWebを見ますけど、このサイトはいったい何を伝えたいんだろうとか、何を感じてほしいのか、何をしてもらいたいのかを注意して見るようにしています。デザインがきれいだとか、最先端のことをやっているということも大切ですが、それ以上にそこで伝えたいこと、意図しているところが伝わるようなサイトこそがすごくいいWebだと思うんですね。
ですから、作り手としてはコミュニケーションしたい相手の側に立って、その人の気持ちや感情の動きを想定して作る必要があると思っています。ものすごく大切なことなんですが、その感覚って意外と忘れがちなんですよ。相手のことを無視して、自分がやりたいことだけをやってしまうとか、自己満足になってしまうことが多くて。それってすごく危険なことなので、そうならないように注意しています。
——渡辺さんにとってインターネットとは?
渡辺●僕はインターネットが好きなんですね。そこは大切にしていきたい。時々インターネットが悪く扱われたりすることもありますが、僕はインターネットが個人的に好きだし、その恩恵も受けている。インターネットがあったからこそ自分の生活も豊かになったと思うんですね。
広告業界において、どちらかというと暗黒の時代を耐えることができたのも、インターネットが好きだからだったから、信じていたからこそなんです。だから自分でこれだと信じたものは、これからも信じ続けていくべきだと思うし、その軸はぶらさないようにしたいと思っています。やはり広告コミュニケーションが好きで、インターネットが好きという、このふたつが僕にとっては原動力になっていくでしょうし。そこをぶらしてしまうと自分の強みがなくなってしまうと思うんです。
——今後はどのような展開を考えていますか?
渡辺●漠然とインターネットによって広告は変わると言っている人たちよりは、もう少し具体的に見えている気はします。この業界ってけっこう怖くて、昔ああいう会社ってあったよねってすぐに忘れられたりするんです。それってきっとどこかで止まってしまったからだと思うんですね。広告って時代を反映しているじゃないですか。そこは絶対踏み外したくないですね。一歩先ではなく、常に半歩先を進んでいくというバランス感覚を大切にしたいと思っています。
あと、いま、みんながやりたいことはインターネットを核とした「ムーブメント」を起こすことなんじゃないかなと思っていて。そのムーブメントを仕掛けられる人が求められているんですね。ブームのきっかけって、ネットからのほうが多くて。もちろん欲求としては、そういうことを自分ができればいいとは思うのですが。 もし自分でできないのであれば、できる人と一緒にやるとか、できるようなチームを作るとか。今後はそういった方向に進んでいきたいですね。
少し前まで、クロスメディアとか、Webとほかのメディアを絡めることが重要だという話もありましたが、それは枠組みの話だけであって。僕はどのメディアをどう使うかという手段の話よりも、その中心にあるコンセプトやクリエイティブの力で、ムーブメントの起こし方を考えていきたいと思っています。
コミュニケーション能力を最も問われるのが僕たちの仕事
Web広告という仕事をやっていて大変なことはありますか?
渡辺●いまは大変革期の真っただ中にいるから大変ですよね。極端なことを言えば明日どうなるのかわからない状況なわけで。でも、僕はインターネットという分野においてはスペシャリストという自信を持っているし、自分の強みはそこにあるので、この状況の中で自分を信じて未来に向かって一歩一歩進んでいくしかないですよね。
現在、人材を募集しているとのことですが、どのような人を望んでいますか?
渡辺●Webのことをまったく知らない人は困りますけど。この混沌としたWebの中でも、特に広告業界って心が折れてしまう可能性が高い業界だと思うんです。ですから、芯がしっかりしているというか、心が強い人がいいですね。あとは、クライアントや制作会社の人たちとうまくコミュニケーションを取れる能力があることが大前提として重要だと思いますね。
僕はWebにはある程度作っている人の人間性が出てくるに違いないと思っているんですね。ですから、仕事に限らず日々の生活の中でも、そういったコミュニケーションを大切にしている人がいいですね。技術的なことや仕事については勉強していけばいいと思うし。センスははっきりとはわからないものだし。あとは、うちのチームにはある程度の色があるので、メンバーと一緒に楽しくやっていけるかどうかってことですかね。気が合わない人と無理して仕事やってもしかたないでしょうし。やはり人と人とで成り立っている業界ですから。
(取材/蜂賀亨 撮影/谷本夏 )
[プロフィール] ビーコン コミュニケーションズ デジタル部 部長 渡辺英輝 1996年米国インディアナ大学、経営学部卒業。 株式会社野村総合研究所を経て、2000年ビーコン コミュニケーションズ入社。 2005年Webクリエーション・アワード「Web人 of the year」賞、東京インタラクティブ・アド・アワード金賞、カンヌ国際広告祭、New York Festival ほか受賞多数。 著書に「Webキャンペーンのしかけ方。 広告のプロたちがつくる"つぎのネット広告"」(インプレスジャパン)がある http://www.29man.net/ |