第2話 モノクロ写真と文字で魅せる「SEIBUポスター」

第1話に続き、山田英二氏が代表を務めるウルトラグラフィックスによってデザインされた作品を紹介。第2話では、モノクロ写真をメインビジュアルに用いた西武百貨店の広告ポスターをピックアップ。

　2006年9月に新生した有楽町西武。シンボルキャラクターに掲げられたDREAMS COME TRUEの吉田美和さんは、広告のメインビジュアルでも大々的に起用された。

「リニューアル時の告知ポスターを担当したのですが、吉田さんを起用したことでスタートダッシュの勢いが増したと思います。これは、やはりタレントの持つ力でしょう。ターゲット層からも憧れの女性として認識されていますし、有楽町西武の気分とうまく合致していると思います」

　モノクロ写真を全面に配し、白抜き文字で「女神を楽しめ」のキャッチコピー。そこにワンポイントとして、グラデーションがかったピンクとドットで構成されたリボンのオブジェクトが波を打つ。
「このポスターはキャッチコピーにもあるように“女神”のキーワードに基づいて制作されました。写真をカラーで使用しなかったのは、ピンクをより強く印象付けるためでもあります。ある1つの色を浮き立たせるために他の色は抑える手法です」

　さらに山田氏は、2007年3月にリニューアルオープンを果たしたシブヤ西武の広告ポスターも担当。こちらも有楽町西武のビジュアルと同様にモノクロ写真に白抜き文字を使用。「人生に、輝度を。」のコピーがグッと迫り来る。
「有楽町西武のポスターに関しても同様ですが、キャッチとなる文字の部分などには手作りの書体を使っています。コピーにも人格を持たせているわけです。もちろん媒体によっては、あえてオーソドックスな書体を使うべき場合もあります。ただ、これらの仕事に関しては、文字に手を加えることで、より奥深さが表現できたのではないでしょうか。細かい部分ですが、ポスターを見た人は雰囲気の違いを感じ取るはずですからね」

シブヤ西武のポスターではキャッチコピーが大胆に配されていることも印象的だ。これも全体のイメージを決定するうえでは大きな役割を果たしている。
「キャッチを大きくすることで、何か匂いが出てくるというかね。独自の書体を使用していることと合わせて、しっかりと“ここを伝えたいのだ”と、シブヤ西武の魂が感じられる形に仕上がっているでしょう。この仕事では、オーソドックスなビジュアルを用いながら、文字で印象を生み出す手法の有効性を再確認できました」

　隅々まで手を抜くことなく手間を惜しまずに全力投球するデザイン。そうしたスタンスは今回の文字制作の場面でも垣間見られる。
「前回（第一話）で紹介したポスターと同じく、このポスターでも書体を作成するときには、たくさんのバリエーションを作って検証を重ねました。だから、積み重ねによって完成度を上げていき、最終的に行き着くべきところに着地しているわけです。デザインの仕事には、多くの候補から適したものを選ぶ力、半端な案を思い切って捨てる力も必要です。“せっかく作ったのに”と考えるようではダメなんです」

圧倒的な量の試行錯誤を当然とする姿勢を支えるものは何なのか。その答えは「広告ポスターのデザインで配慮しているポイント」として語ってくれた言葉から読み取ることができる。
「大切なのは、コミュニケーションできているかを確認することです。自分たちが表現しようとしたことが、きっちりと見る側に伝わるのかどうかを追究する。どのような反応が返ってくるかを予測しながら作ることが重要です。それは広告に限らずデザインの仕事では当たり前のことですけどね」（取材・文：佐々木剛士　人物写真：谷本夏）

次週、第3話は「世界規模で展開されるユニークな試み」について伺います。こうご期待。