第2話 整理ができる人と整頓ができる人 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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新しい年を迎え、みなさん身ぎれいな環境で過ごしてますか? 年末、せっかく大掃除をしたのに、早くも散乱した雑誌、いつの間にか湧き出るホコリ……日々の生活や仕事が生み出す有象無象の蓄積物にお悩みでは?
今回の「ザ・対談」では、現代美術家の松蔭浩之さん、漫画家/コラムニストの辛酸なめ子さん、二人の“ソウルメイト”に登場いただき、整理整頓の奥義から「生活をデザインする」ことの肝要まで、身を持ったエピソード満載に語り合ってもらいました。


第2話 整理ができる人と整頓ができる人



松蔭浩之さん(右)と、辛酸なめ子さん(左)


松蔭浩之さん(右)と辛酸なめ子さん(左)

ファイリングとデザインの違い



松蔭●整理と整頓って、僕ら、子供の頃から言われて育ってきたことですよね。でも、いまの若い子たちはどうか、わからない。整理整頓の意味が、もう崩壊してるかもしれないと思うんですよ。親や先生から言われることすら、もう意味がない。むしろ、通じないって気がしてるんだけど。

辛酸●ああ、学級崩壊的な……。

松蔭●誰のためにしなくちゃならないのっていう感覚で。というのは僕、美術学校のグラフィック科でマック実習の講義をしているんだけど、そこで「PCのデスクトップを整理整頓しなさい」とか「ファイル名をちゃんとデータ通り入れなさい」とか、ガミガミ言っても生徒は「自分には関係ねぇよ」という態度だから。

辛酸●えー!

松蔭●「関係ないよ、気分でいいんじゃん」って。そんな考えだから、やらないんですよ。

辛酸●いまから習慣づけたり、修正もできないんですか?

松蔭●うん。それは、親がそう言ってないからだと思うんです。

辛酸●ゆとり世代ですね。

松蔭●そう。実際に調べてみたら、ゆとり教育の第1〜2世代だった。おそらく親たちが「整理整頓しなさい」と言っても、それがメッセージとして伝わらないんですね。それを分解して考えてみるには、英語に置き換えるといいんですよ。つまり「整理する」と「整頓する」は、同じことではないから。

辛酸●そうなんですか?

松蔭●整理は「ファイリング」なんです。で、整頓することが「デザイン」。身だしなみを整えるとか体裁を整えるとか、表層的な意匠ですね。

辛酸●なるほど。

松蔭●だから、さっきから言っているデザイナーズ・マンションとか、ウォーキング・クロゼット……ああいうものの中に全部押し込めて、その中で暮らすのは一見デザインされたような生活に思われるんだけど、実は違う。たとえるならアストンマーティンに乗って、高いスーツを着て、外からは見栄えがいいんだけど、足下は砂だらけとか、女の髪の毛が散らばっているとか(笑)。

辛酸●うわべだけですね。

松蔭●CDが散乱してて、ケースを開けたら中身が入ってないとか。要するにファイリングされていないわけです。だから、整理ができる人と整頓ができる人は、中身が違うと思うんですよ。

──それは合体できないんですか?

松蔭●親とか優れた人間は両方、同時に求められるわけ。口酸っぱく「整理整頓しなさい」と。でも、ファイリング&デザインで分けると、まったく異なってきますよね。外人が本当に英語でそういうふうに言うのかわからないけど……最近、そういうことをよく考えます。

辛酸●じゃあ、生徒さんたちは両方できていないんですか?

松蔭●両方できていない。でも、両方できなくてもいい社会に生きているんじゃないかな。

辛酸●逆に、それが個性を伸ばすとか……

松蔭●結局、それがゆとり教育なんでしょ? 僕みたいに、ガミガミイライラする先生は向いているのかどうか、わからないんだけど……。


辛酸なめ子さん

26歳でマンション初購入、
その後、新築マンションを買い替えた辛酸さん。
アートから住まいまで、
独特の視点で辛酸さんの
日常がつづられる
ブログ「女一人マンション」もご覧ください






まったくデザインされていない部屋



松蔭●かく言う僕もずっと写真やグラフィックデザインをやってきたわけですが、いまでもアーカイブ化ができないんです。

辛酸●アーカイブ化?

松蔭●「コンプレッソ・プラスティコ」で脚光を浴びて、今年でちょうど20周年なんですね。でも、いままで自分で作品ファイルを作ったことがないの。

辛酸●じゃあ、海外の人が作った本で、ようやく自分のことを?

松蔭●そうだね。手元にあるものをダーッと先方に送ったら一冊になって。でもそれ以外、純粋な作品集もないし自分でファイリングもしていない。だから、プレゼンをしたことがないんです。その状態で20年、過ぎてしまった。

辛酸●でも、松蔭さんの部屋、おきれいですよね?

松蔭●うん。だけど、どこに何があるかは実はわかっていない(笑)。

辛酸●頭の中でも?

松蔭●わかっていない。毎年、年末になると大掃除をしますが、平積みにしてたものをどんどん棚に突っ込んでいって、空間を作る。で、誰が来ても「整った部屋だな」と思われるんだけど、いざ「あの雑誌をどこに入れたか?」となる。そういうことはすっかり忘れているわけ。

辛酸●私も全部の棚を見ないとわからないですよ。誰か、やってくれる人がいたらいいんですけど……。

松蔭●そうだね。まあ、ハイクラスの人になると、そういうアシスタントを持てるだろうし、仕事ができる人は整理整頓どちらもできているから、きっと未来を見通せるのでしょう(笑)。

辛酸●両方できると、インスピレーションもわきやすいのかもしれませんね。すっきり、ゴチャゴチャしてなくて。

松蔭●でも、友人の会田誠くんなんてスゴイ。彼の部屋はまったくデザインされていないんですよ。

辛酸●どのように?

松蔭●まず、押し入れの中がカラッポなんです。本棚にも2〜3冊しか本が入っていない。だけど、床は足の踏み場もないほど。書籍、郵便物、ゴミ……何から何まで全部床に散乱している。そんなところに暮らして、どうやって創作しているのかと思いきや、彼の映画(『無気力大陸』)があったでしょ? その中でもうまいこと映ってましたが、いざ絵を描くぞってときに筆を探すことから始まるわけです。

辛酸●なるほど(笑)。

松蔭●彼の記憶の中では、蓄積されたゴミの中……宝もあるんだけど、大体どこに何があるか、頭の中にあるんですよ。あの部屋、掃除業者が来て全部片付けたとしたら、彼はおそらく創作ができなくなるのではないかな? どこに何があるのかわかっているのに、わからなくされちゃって。

──つまり、デザインされたことによって……

松蔭●そうそう。

辛酸●探してる間に発想が生まれるとか、何か儀式的な?

松蔭●どうなんでしょうね。それ以上に僕が彼の家に行って驚くのは、どこに何があるをすべて把握していることなんだけど。

辛酸●右脳型ですね。

松蔭●つまり「ファイリング派」だね。そういうところは「デザイニング派」の僕とまったく逆。女性の趣味だけじゃなくて(笑)。


松蔭浩之さん

自身の仕事の「アーカイブ化ができない」と話す松蔭さん。
しかし、いよいよHPを立ち上げようと準備している最中だ。
いままで存在していなかったのが不思議なくらいですが、
近日公開予定。乞うご期待!






次週、第3話は「タテ軸指向と水平軸指向」を掲載します。

(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)



松蔭浩之さん

[プロフィール]
まつかげ・ひろゆき●1965年福岡県生まれ。大阪芸術大学写真学科卒業後、88年よりアートユニット「コンプレッソ・プラスティコ」として活動。92年、初の個展「スーパーエロス・ハイパーヴィーナス」を開催。以降、現代美術家として様々なアート・アプローチを行うとともに、写真、グラフィックデザイン、インテリアデザインなど、多彩な分野で活動中。


辛酸なめ子さん

しんさん・なめこ●1974年東京都生まれ。武蔵野美術大学短期大学部グラフィックデザイン専攻卒業。コラムニスト、漫画家、イラストレーターなど、幅広く活動中。池松江美名義でアート制作、小説も発表。94年、フリーペーパー『GOMES』の漫画グランプリでGOMES賞を受賞。2000年、作品集『ニガヨモギ』を上梓後、著書多数。http://blog.smatch.jp/sinsan/



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