第4話 生活から「デザイン」する | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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新しい年を迎え、みなさん身ぎれいな環境で過ごしてますか? 年末、せっかく大掃除をしたのに、早くも散乱した雑誌、いつの間にか湧き出るホコリ……日々の生活や仕事が生み出す有象無象の蓄積物にお悩みでは?
今回の「ザ・対談」では、現代美術家の松蔭浩之さん、漫画家/コラムニストの辛酸なめ子さん、二人の“ソウルメイト”に登場いただき、整理整頓の奥義から「生活をデザインする」ことの肝要まで、身を持ったエピソード満載に語り合ってもらいました。


第4話 生活から「デザイン」する



松蔭浩之さん(左) 辛酸なめ子さん(右)


松蔭浩之さん() 辛酸なめ子さん(

君はテーブル上のレジ袋を許せるか?



辛酸●ところで松蔭さん、よく手料理をふるまいますよね?

松蔭●料理はデザインですよ。

辛酸●やっぱり才能があらわれるんですか?

松蔭●才能だけではないと思います。味付けや塩梅に関しては自信があったほうなんだけど、まずデザインできなかったんです。盛りつけとか、食材の切り方、合わせ方とか、それはやっぱりスキルの問題。やり続けて、やっと最近って感じですよ。それを写真に撮るのもひとつのスキル。最初は真上からドーンと記録気分で撮っていたものが、誰が見てもおいしそうに撮ろうと思うようになった。

辛酸●じゃあ、テーブル・セッティング的なことも?

松蔭●そう。

辛酸●テーブル・セッティングも教室があるぐらいですからね。

松蔭●そういうアカデミックなものから見たら亜流かもしれないけど、持論でいい方向までいったのは、時間をかけてですね。それは才能や感性じゃないと思う。

辛酸●じゃあ、ホームパーティとか結構やってらして?

松蔭●そこまでいかないけど、焼き肉やら鍋を中心に。若い子たちが集まると、そのほうが手軽だし、気安く話ができるじゃない。

辛酸●そのとき、盛りつけとかに気を配って?

松蔭●もちろん。レジ袋がテーブルの上にあって平気かどうか? これが大きな分かれ目なんだよ。

辛酸●ああ、それは基本かもしれないですね。

松蔭●でしょ? 僕はダメなの。

辛酸●私も以前は平気だったけど、意識が変わって、だんだんダメになってきた。

松蔭●あれは精神衛生上、よくないですよ。あと、引っ越しの後の段ボールがそのまま、前の荷物が入ったまま置かれてるのはものすごいストレス。

辛酸●さっき言った風水スピリチュアルだと、運気が吸い取られていきますよ。

松蔭●押し入れに入れて葬るぐらいじゃないと。それと一緒で、レジ袋は大きく気を配っているんです。あれほど醜いものはないから。

辛酸●あとラップとかですよね。

松蔭●せめて床に置くとかね。僕はお弁当を食べるときも美しく食べたいから、必ずクリクリと縛ってお尻に敷いて、視界からゲラアウトしてもらって食べるわけ。尊敬する矢沢永吉さんもそうしてたよ。やっぱり永ちゃん、そうなんだ……と。

辛酸●お会いしたんですか?

松蔭●いやいや、滅相もない。テレビで見ただけ。新幹線で移動中の彼が駅弁を食べるとき、割り箸の袋も小さく折って、お弁当箱の隙間に入れていた。で「いただきます!」と。

──かっこいい!

松蔭●きれいなお箸の持ち方でね。

辛酸●憧れちゃいますね。


若い時から「ダダ漏れ」はよくない



松蔭●とにかくズボラな子の部屋に行くと、ホコリはもちろんのこと、誰の食べ残しかわからんものがこびりついて、しかも必ずよくない要素があるんです。タバコの空き箱がそのままの形、ビールやアルミ缶がそのままの形でテーブルの上に乗ってある。中身が入ってるのかそうでないのか、飲んでる最中なのかどうかもわからない。

──そのまま、吸い殻を入れそうですね。

松蔭●あと紙パックのジュースとか、口がそのまま空いた状態でテーブルの上に乗ってあることがあるでしょ? それだけでテーブルの意味がないし、不愉快を通り越して「コイツはどんな女だ」って思うね。

辛酸●で、遊びに切り替わる(笑)。

松蔭●全部、資源ゴミに仕分けろって言ってるわけじゃなくて、おかしいと思うの。タバコが空になったら潰して捨てるべきだし、空き缶もペコッとへこまして、入ってるのかどうか、まず自分でわかるようにしないと生活と言えないんですよ。だから普段の生活からデザインするという考えで……ちょっと几帳面すぎると言われるかもしれないけれど、僕は生活すらデザインだと思うのね。

辛酸●そうですよね。衣食住すべてにおいて。

松蔭●こだわるわけじゃなくて。生きることってそういうことじゃないですか。

辛酸●人間の一生の義務、掃除をし続けることですもんね。

松蔭●それがなくなったら「ダダ漏れ」じゃない? 若い時から「ダダ漏れ」ってことはよくないと思うんですよ。まあ、それも野生児のようでいいですけど……きっとそういう人のほうが長生きするのかな?

辛酸●でも、確実に運は悪くなってると思いますよ。神社とか行くと、ほんとすごくきれいだし、ゴミもないし。

松蔭●その通り。スーッとするじゃない?

辛酸●聖域はスーッとしますね。

松蔭●あれはスピリチュアルなことだけではなくて、いろんな人の気持ちが整理整頓というところに落ち着いているからですよ。

辛酸●じゃあ、トイレ掃除なんかも頻繁に?

松蔭●しますね。好きですよ、むしろ。潔癖性と言う人もいるけど、僕はよく手を洗うんです。でも、それも若い子に言われるんだよね。「きれい好きですね」って。そんなつもりはまったくなくて、ズボラなところはズボラなんだけど。あまりに君たちがルーズというか、生活や対人について考えていないのではないかと。

辛酸●当たり前のことなんですよね。

松蔭●うん。エチケット不在ですよね、いま。


今回で「デザインは『エチケット』から」は終了です。次回の対談をお楽しみに。

(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)



松蔭浩之さん

[プロフィール]
まつかげ・ひろゆき●1965年福岡県生まれ。大阪芸術大学写真学科卒業後、88年よりアートユニット「コンプレッソ・プラスティコ」として活動。92年、初の個展「スーパーエロス・ハイパーヴィーナス」を開催。以降、現代美術家として様々なアート・アプローチを行うとともに、写真、グラフィックデザイン、インテリアデザインなど、多彩な分野で活動中。

http://www.mina-rich.jp/


辛酸なめ子さん

しんさん・なめこ●1974年東京都生まれ。武蔵野美術大学短期大学部グラフィックデザイン専攻卒業。コラムニスト、漫画家、イラストレーターなど、幅広く活動中。池松江美名義でアート制作、小説も発表。94年、フリーペーパー『GOMES』の漫画グランプリでGOMES賞を受賞。2000年、作品集『ニガヨモギ』を上梓後、著書多数。http://blog.smatch.jp/sinsan/



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