第3話 タテ軸指向と水平軸指向 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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新しい年を迎え、みなさん身ぎれいな環境で過ごしてますか? 年末、せっかく大掃除をしたのに、早くも散乱した雑誌、いつの間にか湧き出るホコリ……日々の生活や仕事が生み出す有象無象の蓄積物にお悩みでは?
今回の「ザ・対談」では、現代美術家の松蔭浩之さん、漫画家/コラムニストの辛酸なめ子さん、二人の“ソウルメイト”に登場いただき、整理整頓の奥義から「生活をデザインする」ことの肝要まで、身を持ったエピソード満載に語り合ってもらいました。


第3話 タテ軸指向と水平軸指向



松蔭浩之さん辛酸なめ子さん


松蔭浩之さん() 辛酸なめ子さん(

人生の1/3は「探す」時間



松蔭●だから会田誠くんが僕の部屋に来ると、モノがタテに並んでいる状態が「落ち着かない」と言います。彼は基本的にヨコ。平面的というか、水平軸指向なんです。僕は東京に大地震は絶対来ないって信じているから、平気でどんどん高くタテ軸に積み上げていって。壁や隙間を見ると、ピタッと合うように本棚も作り付けちゃう。

辛酸●じゃあ、会田さんも床下収納ですっきりさせたら?

松蔭●床下収納もデザイナーズ・マンション系だよね。

辛酸●段差があって、バリアフリー的にはちょっと危ないんですけど。

松蔭●床下収納でびっくりしたことがありましたよ。女性の家に遊びに行って、オートロック開けてもらって入ったら、いないんです。「あれー?」と思ったら、首だけニョキって出てきて。これはどういう出迎えかと思ったら、下に冷蔵庫があってね。いろいろ探していたんですね。

辛酸●すごいサプライズですね。逆に間男が隠れやすい(笑)。

松蔭●ハハハ。いざとなったら「ココに隠れてね」ってサインか。

辛酸●でも実際、デザイナーズ・マンションって結露がひどかったり。

松蔭●湿気すごいよね。底冷えするし。だから床暖房を入れるけど、どうなんだろう?

辛酸●会田さんの部屋みたいに、モノが散乱してたほうが温度も暖かそうですよね。

松蔭●いや、寒かった(笑)。でも、面白いでしょ? 僕的な部屋のタイプと会田くんみたいなタイプ、全然違って。

──創作にも違いが……

松蔭●というか、僕は常に床がすっきりしてないとダメ。狭い部屋でもズカズカ歩きたいから。パッと雑誌を広げたときも、すっきり見たいんですよ。

辛酸●写真とか広げてみたい時は、机がきれいじゃないとダメですね。

松蔭●洋服を選ぶときも、グチャグチャのところだと何を基準に見たらいいか、わからないので。それはデザイナー的な考え方なんだね。会田くんの場合は、ちゃんと頭の中でいらないものが省けるんじゃないですか。

──マッピングできて。

松蔭●そう。マッピングされた上で、いま自分が見るべきものだけフォーカスできるという集中力を持ってるのではないかと。辛酸さんのデスク周りは?

辛酸●部屋が汚かったときはモノが積み重なってましたけど、どこに何があるか、わかってましたね。ただモノを探す時間とか、崩れたモノを直す時間が無駄だと感じて。

松蔭●無駄だねぇ。

辛酸●人生の中で。

松蔭●人生の1/3は、大体探す時間だよね。靴下どころか、大事なフィルムをなくしちゃうから。でも、特別なところに置いているんです。その特別なところを忘れちゃって。

辛酸●そうそう。私も忘れる。大切だからココに……という場所を、潜在意識ですら憶えていない。

松蔭●オレは犬じゃなかったんだって、時々思うね(笑)。

辛酸●私もダウンジングで探そうと思ったり(笑)。


辛酸なめ子さん(左) 松蔭浩之さん(右)
対談“ヨコモレ”話より……
蔭●女の子の部屋に行くの、あまり好きじゃないんですよ。がっかりすることが多いから。パッと見はきれいでも、
ベッドの下に見たくないものが落ちていたり。
辛酸●オトナのオモチャ的なもの?
松蔭●いや、それは嬉しいですよ(笑)。そうではなくて、
他の男の残骸とか。
辛酸●以前お会いした編集者の人が、女の人の部屋に行って
乱雑だったら、遊びに切り替えるって言ってました。
松蔭●泊まった翌朝、コトコトという音で目覚めて
「お味噌汁できたわよ」と言われるほうがゾッとするよ(笑)


ガラクタがエネルギーを吸い取る



松蔭●で、片付けられるようになった後は快適に?

辛酸●割と快適ですね。

松蔭●元に戻ったということはない?

辛酸●ないです。以前は汚いものが目に入って、殺伐として家にいても落ち着かなかったんです。それがなくなって、精神的に明るくなったかもしれません。落ち込まなくなったというか……。

松蔭●憑き物が落ちた?

辛酸●そうですね。死にたいと思わなくなった(笑)。

松蔭●実感したというのもあるだろうけど、そのほうがいいと理解した?

辛酸●ええ。雑誌とか、必要かなと思ってとっておく習性があったんですね。でも『風水整理入門』という本を読んだら、モノを貯め込む癖がある人はガラクタがエネルギーを吸い取って運が悪くなるし、自分が必要なときにモノが与えられないと思い込んでしまうから、ネガティブな思考に陥ってると書かれてあって。

松蔭●そりゃ、そうだ。

辛酸●いらないモノを処分したら、必要なモノが必然的に手に入るようになる……と。

松蔭●いまはAmazonとWikipediaがあれば、半径2メートルの世界で十分生きていける時代だからね。

辛酸●そうですよね。昔だったら、そんなこと考えられなかった。

松蔭●僕も雑誌の必要な部分を切り抜いて、いらない部分は捨てるようにしているんです。ファイリングができる人はちゃんと日付とか、どこの雑誌の何年何月号と書いてスクラップするでしょ。で、ファイルを年代順にまとめて。あれが僕、できなくて。結局、段ボールに一杯詰め込むだけ。

辛酸●ああ、私もそうです。しかも、ハサミで切らないで手で切っちゃう。

松蔭●僕、大学時代に森村泰昌さんのアシスタントをやっていたときに「新聞を切り抜いておけ」と指示されて、付箋が貼ってあるところを切り抜いてアルバムに貼っていたんです。人のためだからそういうことができたけど、森村さんは整理整頓ができる人だなと実感した。で、やっぱり成功していますよね。

辛酸●松蔭さんだったら若い女の子を雇って、やってもらうのが一番いいのでは?

松蔭●でも、それが任せられないんだよね。だから森村さん、よく任せてくれたなと。オレも多分、出来がよかったんだね、ハハッ(笑)。

辛酸●人を雇える人と雇えない人がいますよね。私もダメで。

松蔭●信用できないんですよ。結局もう一回、自分でやることになりますから。「あとここ5ミリ、切ろうよ」って(笑)。

──指示ができない?

松蔭●そういうわけではないんだけど。あがってきたものに対して、まず満足できない。

辛酸●あと、人が近くにいると集中できないとか。

松蔭●それもあるよ。たとえば他人の家に来て、フフフーンって本をずっと読める奴の気が知れない。僕は立ち読みすらできないもん。

辛酸●電話できる人とか。

松蔭●そうそう。

辛酸●人が聞き耳立てているのに。

松蔭●僕はすぐ、パッと切るもん。「いま人がいるから」って。

辛酸●私もそうです。

松蔭●それは時代とか抜きにして、子供の頃からそうでしたよ。自宅の漫画の『手塚治虫全集』とかを黙って読んでる奴とか「何しに来たんだコイツ。うちは図書館か?」と思って。

辛酸●人の家に来て、なかなか帰ってくれない人も困りますよね。


次週、第4話は「生活から「デザイン」する」を掲載します。

(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)



松蔭浩之さん

[プロフィール]
まつかげ・ひろゆき●1965年福岡県生まれ。大阪芸術大学写真学科卒業後、88年よりアートユニット「コンプレッソ・プラスティコ」として活動。92年、初の個展「スーパーエロス・ハイパーヴィーナス」を開催。以降、現代美術家として様々なアート・アプローチを行うとともに、写真、グラフィックデザイン、インテリアデザインなど、多彩な分野で活動中。


辛酸なめ子さん

しんさん・なめこ●1974年東京都生まれ。武蔵野美術大学短期大学部グラフィックデザイン専攻卒業。コラムニスト、漫画家、イラストレーターなど、幅広く活動中。池松江美名義でアート制作、小説も発表。94年、フリーペーパー『GOMES』の漫画グランプリでGOMES賞を受賞。2000年、作品集『ニガヨモギ』を上梓後、著書多数。http://blog.smatch.jp/sinsan/



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