2鎌倉にオフィスを構える面白法人カヤックは、絵画の測り売りオンラインショップ「ART-Meter」(リアルショップも併設)。ブレインストーミング支援ツール「babooo」や名前から人間関係などを探る「WEB素行調査」、このほかにもブログパーツ、ブリッジメディアなど、さまざまなサービスをリリースし、いま注目を集めている組織である。今回は代表取締役である柳澤大輔氏に、カヤックという組織について、柳澤氏が考えるWebの未来について話を伺った。
第3話 コラボレーションによって生まれるサービス
ブランディングをしないブランディング
——カヤックならではのブランドイメージはありますか?
柳澤●ブランディングについて語れるほど詳しくはありませんが、自社サービスと受託とでは少し考え方を変えています。自社サービスでは、特にブランドをつくろうと意識して、何か戦略的にブランディングしているつもりはありません。いわゆるブランド企業というところは、出すものすべてにこだわるし、何かを出すことによってそのブランド価値が下がることもありますから、そういうのは不自由ではないかと考えています。
「こだわる」ということはすごく重要だとは思ってるのですが、自分でつくってしまったものを壊すことを恐れたり、変化を恐れることにつながるのだとしたら意味がないなと。新しいことをするときに躊躇してしまうことになる。だから、自社サービスに関しては、結構ひどいサービスもたくさんあります。僕の目をスルーして出ていくものもたくさんありますし、自分でつくったものなのに後で見てほんとに恥ずかしくなるようなものもいっぱいあります。でもそれでいいかなと。そういうスタイルでやらない限り、基本的にネット上では新しいビジネスが生まれてこないとも思っています。芽が出るところまでは自由に任せて、そこから大きくする過程でしっかりとしたレギュレーションをつくっていく。
だから、混沌としたネット上にはブランドイメージという世界から入ってきてもうまくいかないという感覚があります。そういったネットにおける草の根的なコミュニケーションがわかるというのが自社サービスをやってるということのよさでしょうか。受託での仕事に関しては、その企業のブランドイメージを理解して、企業戦略をうまく融合した仕事ができる企業でありたいですね。そのバランスが重要だと思っています。なかなか難しいとは思いますが。
コラボレーションすることで高め合える組織に
——ひとつのサービスが生まれるまでの例を教えてください。
柳澤●「面白ラボBM11」が昨年リリースした77個のサービスの最後のサービスで「WEB素行調査」というのがあるのですが、これは人名を入力すると、あるキーワードを引っ張ってくるエンジンなんです。最初はある技術者から、ほかと違うちょっとおもしろい検索エンジンをつくったのですがという話があって、キーワードを入力してみるとたしかにおもしろい。このエンジンは使えそうだなあということで、みんなで共有して、最終的に「素行調査」というアイデアを考えて、できあがったものです。これに関してはさっさと出してしまえってことでデザイン的には3日くらいで作りあげました。
この「WEB素行調査」はコラボレーションのいい例で、技術者がこんなの作っちゃったんだけどって出してきても、すぐには盛り上がらなくて、それを技術がわかるデザイナーとか、ディレクターがいろいろとアイデアを考えて、あとは、どのように演出をするかっていうことですね。このようなコラボレーションでいろいろとおもしろいものが生まれてきています。
「WEB素行調査」のサイトhttp://detective.kayac.com。やってみるとかなりおもしろい
——今後はどのような組織にしていきたいですか?
柳澤●僕がいつも思っているのは、このチームと一緒に仕事をやって自分が高められるかどうか、このチームにいて自分自身が好きになれるかどうかっていうことなんですね。誰かが自分を導いてくれるとか、この人と一緒に仕事をして何か得るものがあるからこそ、そこにチームとしての意味があると思います。そういう人と仕事をしていきたいです。
人間って自分が高められていくとうれしい気持ちになりますよね。人と付き合って、コミュニケーションをとって、この人達と一緒にいると自分が好きになっていくという状態の組織にしていきたいと思います。うちは技術者でもデザインに興味がある人が多いし、デザイナーであっても技術にすごく詳しい人間が多いので、チームとしてうまくコレボレーションができていると思います。
先ほどの「WEB素行調査」などの草の根的なサービスでヒットを出すというのは難しいことだと思いますね。僕らもおもしろそうだなとは思ってリリースしたけど、話題になるか話題にならないかはまったく見当もつきません。TVのようにみんなが見るという前提においてヒットを続けるということはできるかもしれませんが、そうじゃなくて、知らないところで広がっていくサービスを生み出すことを量産できる企業はないと思います。
でも、そこに挑戦している企業、あるいはなんとなく可能性がありそうな企業にはなれる。そういう存在になってはじめて、受託仕事においても、何かおもしろいことができないのって相談される存在になってくるわけです。例えば、バズマーケティングで何かできないのかというときに、メディアを買ってお金をかけなくても、おもしろいことができるはずで、そういったことに挑戦できるような組織を作ることに興味があります。でも、どうやったらいいのかは、まだ不明で挑戦中です。
(インタビュー/佐伯宗俊(black★bath) 撮影/谷本夏 )
[プロフィール] 面白法人カヤック 代表取締役 柳澤大輔 1974年2月14日、香港生まれ。慶応義塾大学環境情報学部を卒業後。ソニー・ミュージックエンタテインメントに入社。 1998年、友人とともに合資会社カヤックを設立。2001年、WEBの受託制作を事業とするグループ会社(株)クーピーを設立。 現在(株)カヤックおよび(株)クーピーの代表取締役を兼任 |