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単なる見本市ではなく積極的なスタートアップ支援も ――「WANTED DESIGN」

2024.4.20 SAT

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ニューヨークのデザイン&アートめぐり

第2回
単なる見本市ではなく積極的なスタートアップ支援も ――「WANTED DESIGN」


ニューヨークに旅立つ前から「NYC x DESIGN」の下調べをするなかで、「これはかなり面白そうだな」と思ったイベントが「WANTED DESIGN」だった。中南米やヨーロッパといった、世界各国のプロダクトの写真がWebサイトに掲載されていて、「ちょっと変わったものが見られそうだ」と期待していた。

「WANTED DESIGN」は、マンハッタン南西部・チェルシー地区にある古い倉庫を改装した施設を会場に、「NYC x DESIGN」会期中の3日間だけ開かれる国際デザインイベントだ。展示はインテリアデザインやプロダクトデザインが中心。テーブルやチェアー、照明器具などのほか、食器、自転車、文具など、斬新なデザインやアイデアの数々に目を奪われる。メーカーのブースでは多くのスタッフが来場者と熱心にコミュニケーションを交わしていたし、「プエルトリコのデザイン」「ブラジル・デザインコレクション」といった、国別のコンセプト展示も盛況だった。



「WANTED DESIGN」は、マンハッタンの古い倉庫を改装した商業施設「The Tunnel」で開催
「WANTED DESIGN」は、マンハッタンの古い倉庫を改装した商業施設「The Tunnel」で開催
来場者とスタッフが熱心に言葉を交わしている光景があちこちで見られた
来場者とスタッフが熱心に言葉を交わしている光景があちこちで見られた

「プエルトリコのデザイン」コーナー。木製のスケボーラックは愛好者の多いアメリカの市場を意識?
「プエルトリコのデザイン」コーナー。木製のスケボーラックは愛好者の多いアメリカの市場を意識?
「ブラジル・デザインコレクション」に展示されていた、光るスツール
「ブラジル・デザインコレクション」に展示されていた、光るスツール


単なる商談ではなく、デザインベンチャーがプロトタイプを展示し、製品化してくれるメーカや代理店を募る「LAUNCH PAD」(ランチパッド)というコーナーもあった。 世界各国の28のデザイン会社とフリーデザイナーによるプロトタイプが展示されていた。なかでも、リモコンでさまざまな光の色を再現できるテーブルランプは、個人的に「これは欲しい!誰かスポンサーにならないかな」と思ってしまった。



ダニエル・モイヤー・デザインが企画した、大きな蝶ネジが特徴のサイドテーブル
 ダニエル・モイヤー・デザインが企画した、大きな蝶ネジが特徴のサイドテーブル
Northstar社がデザインした、さまざまな光の色を表現できるテーブルランプのプロトタイプ
Northstar社がデザインした、さまざまな光の色を表現できるテーブルランプのプロトタイプ


キョロキョロと会場を歩いていると、蛍光オレンジの色が派手なブースに行き当たった。「何だろう?」と近づいてみると、若いスタッフたちに「どうぞどうぞ、体験していって下さい」と勧められ、言われるがままに万華鏡を覗いてスマートフォンで写真を撮ったり、会場で手に入れたフライヤーにパンチで穴を空けてマスクを作ったりしてみた。

実はこれ、色々な仕掛けを通じて非日常的な視覚体験をしてもらいながら、デザインのあり方に新しい視点を持ってもらう、参加型のインスタレーションだという。スクール・オブ・ビジュアル・アーツ(ニューヨークにある私立美大)の大学院生たちによる「ALSO!」というプロジェクトで、学生たちは元気に声をかけながら来場者を集めていた。「なるほど、これは学生が業界の色々な人たちと楽しく交流する場でもあるなんだな」と思った。



「ALSO!」プロジェクトのブースでインスタレーションを体験させてくれた、キャサリンさん(左)とガイアさん
「ALSO!」プロジェクトのブースでインスタレーションを体験させてくれた、キャサリンさん(左)とガイアさん
万華鏡を使ったインスタレーション「WARP」。スマートフォンで写真を撮るという消費的行動に、新たな視点をもたらすという
万華鏡を使ったインスタレーション「WARP」。スマートフォンで写真を撮るという消費的行動に、新たな視点をもたらすという

試しに(というか言われるがままに)万華鏡を通して筆者の顔を撮ってもらった
試しに(というか言われるがままに)万華鏡を通して筆者の顔を撮ってもらった

別のブースでも、あるスタッフが筆者に対して熱心に話しかけてきた。「レゾンピュアNY・ローランジェリー」という名前の基金で、貧困状態の若者がデザイン・ハイスクールでものづくりの技能を身につけ、自立の道を開ていくのを支援するプログラムだという。

同基金は募金協力のほか、パートナーとなってくれる学校や工房なども募っている。例えば、50ドルの募金で生徒1人分の製作キットが、300ドルで1クラス分の材料費が支援できるそうだ。基金のことを詳しく説明してくれたアン・ローラさんは、ブースで生徒たちの作品を一つひとつ説明しながら、「この子たちは本当に優秀なのよ」と熱っぽく語っていたのが印象的だった。



貧困状態の子どもたちをデザイン教育で支援する「レゾンピュアNY・ローランジェリー」のディレクター、アン・ローラさん(右)
貧困状態の子どもたちをデザイン教育で支援する「レゾンピュアNY・ローランジェリー」のディレクター、アン・ローラさん(右)
支援を受けている生徒たちが作った工芸作品。彼らは工業デザインを学び、職人的な技能を身につけていくのだという
支援を受けている生徒たちが作った工芸作品。彼らは工業デザインを学び、職人的な技能を身につけていくのだという


世界各国のプロダクトデザインが見られると思って足を運んだ「WANTED DESIGN」だが、実際は、デザイナーやデザイン事務所、メーカー、職人、学生、プレス関係者など、さまざまな人と人がつながる、とても魅力的な「場」だった。学生やベンチャーをクローズアップしてチャンスを作り、貧困者をサポートする教育基金を広めるなど、新たな才能を社会的に発掘していこうという主催者の心意気に、素直に感動してしまった。「これが本当の意味での『デザイン振興』なんじゃないか。このようなイベントが日本でも毎年開かれるといいのにな…」と、さまざまな思いを胸にしながら会場を後にしたのだった。


■「WANTED DESIGN」公式サイト
URL:http://2013.wanteddesignnyc.com/





佐藤勝氏近影

[筆者プロフィール]
佐藤勝(さとう・まさる)
1975年大阪生まれ。2002年から中国社会や日中関係の取材に約8年携わり、2010年から電子出版ビジネスの動向や電子書籍の制作などを取材するほか、グラフィックデザイン関連の雑誌・書籍などの編集を手がける。電子出版を活かした地域再生の動きや、電子書籍によるセルフパブリッシングの動向に注目し、取材を続けている。
URL:http://55vintageworks.com/



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