やりたいことはまず自分でやってみることが大事――ニューヨークで活躍するデザイナー・小林耕太さん | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

やりたいことはまず自分でやってみることが大事――ニューヨークで活躍するデザイナー・小林耕太さん

2024.4.25 THU

【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて

ニューヨークのデザイン&アートめぐり

 第3回
「やりたいことはまず自分でやってみることが大事」

  ―― ニューヨークで活躍するデザイナー・小林耕太さん



今回の旅行では、ニューヨークで活躍中の日本人デザイナーにもお会いすることができた。アメリカ国内外8カ所に拠点を持つデザインカンパニー、「Huge」のブルックリンオフィスで働く、小林耕太さん(29歳)だ。小林さんは同社のビジュアルデザイナーとして、Webサイトやムービー、モバイルアプリなど、幅広いメディアの制作を手がけている。

「Huge」は、Google、Panasonic、American Expressなどを主要クライアントとし、広告代理店を介さず、大手企業の仕事を直接手がけるクリエイティブ・エージェンシーだ。アメリカでも広告代理店の力は依然として大きいが、最近ではデジタルメディアを中心に、デザインやマーケティングをクライアントから直接請け負うクリエイティブ・エージェンシーが台頭し、Huge社のように世界規模で活動する企業も増えているという。



「Huge」のブルックリンオフィスにて。Web系のデザイン会社ということもあって、仕事のスタイルや時間の使い方などはかなり自由な雰囲気だという
「Huge」のブルックリンオフィスにて。Web系のデザイン会社ということもあって、仕事のスタイルや時間の使い方などはかなり自由な雰囲気だという
小林さんがHuge社でデザインに携わった「Google Think Insights」。広告プランにやマーケティングに役立つ、Googleの各種ツールのポータルサイトだ
小林さんがHuge社でデザインに携わった「Google Think Insights」。広告プランにやマーケティングに役立つ、Googleの各種ツールのポータルサイトだ


小林さんは中学卒業後に自分の意思でアメリカの高校に進学し、ニューヨーク州のユニオン・カレッジで心理学と美術の二つを専攻して卒業した。クリエイティブな仕事をしたいという思いはあったが、あえて日本のビジネス社会で通用するかを試したいと考え、日本に帰国して不動産会社に入社した。「約3年のサラリーマン生活で、ビジネスマナーはもちろん、相手の時間を尊重するといった、大切なことをたくさん学びましたが、やはり『デザインで、人の役に立つ仕事をしたい』という気持ちが強くなりましたね」

小林さんは2009年に再びアメリカに渡り、シカゴの専門学校で1年間デザインを学んだ。「いわゆるポートフォリオスクールと呼ばれる学校で、アカデミックなデザイン研究ではなく、卒業後に仕事をゲットできるようにひたすらポートフォリオを作る、という学校でしたので、本当に実践的なデザイン制作をたくさんやりましたね」スクールを卒業後、小林さんは就職先を求めてニューヨークへ。デザイナーを目指す多くの若者と同様に、まずインターンとしてデザイン会社で働き始めた。その後「TENDER CREATIVE」というデザイン会社に入社し、ヘッドハンティングされて現在の会社に入ったのが2012年4月だ。ニューヨークに来たばかりの時期にもっとも苦労したことは、仕事よりも「住むところ」だった。「ニューヨークの家賃があまりにも高いので…インターン時代は友人の部屋のソファを借りて寝泊まりしながら働いていましたね(笑)」と小林さんは話す。

一般に東京より高いといわれるニューヨークの家賃相場だが、Huge社のあるブルックリン・ダンボ地区も人気上昇中のスポットで、賃貸マンションで月20万円以上と、マンハッタンの水準よりも高くなっているという。ニューヨークで活動する人や企業にとって、高騰する家賃相場はずっとついて回る悩みのタネのようだ。



シカゴのデザイン学校で小林さんが制作した課題の一つ。既存の「オフィス・デポ」のロゴを、より効果的で親しみやすいものにリ・デザインした
シカゴのデザイン学校で小林さんが制作した課題の一つ。既存の「オフィス・デポ」のロゴを、より効果的で親しみやすいものにリ・デザインした
デザイン学校の学内コンペで制作した「TATE'S ルートビア」。最優秀賞を獲得し、実際に飲料開発会社で製品化されたという
デザイン学校の学内コンペで制作した「TATE'S ルートビア」。最優秀賞を獲得し、実際に飲料開発会社で製品化されたという

小林さんがTENDER CREATIVE社で開発に携わったiPhoneアプリ「Work+」。外出先で作業できるカフェやWi-Fiスポットなどの情報をユーザー同士で共有できる
 小林さんがTENDER CREATIVE社で開発に携わったiPhoneアプリ「Work+」。外出先で作業できるカフェやWi-Fiスポットなどの情報をユーザー同士で共有できる
TENDER CREATIVE社のWebサイトも手がけた。写真も自分で撮影して制作したという
TENDER CREATIVE社のWebサイトも手がけた。写真も自分で撮影して制作したという


小林さんは現在、デザイン会社での仕事だけでなく、個人で立ち上げたプロジェクトでも大きな注目を集めている。それが、東日本大震災復興支援のための「一本松ビール」だ。



小林さんがデザインした「一本松ビール」のパッケージ。「がんこミルクスタウト」(黒ビールタイプ)と「つよいストロングエール」(ペールエールタイプ)の2種類をラインナップ
小林さんがデザインした「一本松ビール」のパッケージ。「がんこミルクスタウト」(黒ビールタイプ)と「つよいストロングエール」(ペールエールタイプ)の2種類をラインナップ
小林さん自らデザインし、自らの手でパッケージング。筆ペンを使った手書きラベルを栓に貼って封をしている
小林さん自らデザインし、自らの手でパッケージング。筆ペンを使った手書きラベルを栓に貼って封をしている


「一本松ビール」は、「3・11」で陸前高田を襲った大津波に耐えた「奇跡の一本松」をモチーフにデザイン。小林さんはこのビールを無料で配り、飲んだ人が自由に金額を決めて募金できるようにした。チャリティの心はクチコミで大きく広がり、集まった募金は、津波で店舗を失い、復興を目指す現地の酒屋さんに届けられた。

実はこの「一本松ビール」、中身のビールも小林さん自身が作っているというから驚きだ。 「もともとビールが好きで、2年前に自宅でビールの醸造を始めたんです。ちょうどその時、あの大震災が起こって…自分に何かできないか?と考えた時に、ビールとパッケージデザインでできる支援を思いついたんです」



Ippon Matsu Beer : Brewed with Purpose from Ippon Matsu Beer on Vimeo.
「一本松ビール」公式サイトで公開中のムービー。プロジェクトの詳細とストーリーがよく分かる



アメリカでは日本と違って、個人のビール自家醸造が許されている(一定の生産量を超えなければ無課税)。趣味として醸造する人も多く、家庭用の醸造キットまで販売されているそうだ。だが、個人で製造し続けていたのでは、支援のスケールは大きく広がらない。小林さんは新たなステップとして、ビール醸造に協力してくれる企業を仲間と一緒に探しているところだ。「一本松ビール」はデザイン振興団体UnderConsiderationのコンペで最優秀賞を受賞したのをはじめ、Dielineパッケージデザイン賞のビール部門最優秀賞など、国内外で数々の賞を獲得している。

最後に、「海外でクリエイターとして活動する上で大切なことは何か?」と聞いてみた。「やりたいことがあったら、まず自分で全部やってみること、ですかね。好きなものを作って、それを皆に見てもらう場も自分で作る。そうやって、いつでも自分を売り込める準備をしておくと、きっとチャンスをつかめるのではないかと思います」積極的にデザインコンペに応募したり、たった1人でプロジェクトを立ち上げて実行したりと、小林さんが実践してきたことは着実に結果を生み始めている。それでもなお、まだまだやりたいことを追求している段階だ。

「将来的に、デザイン業界はやめて、次は日本酒を作りたいなと。お酒で日本の文化を広めることが出来れば嬉しいです」と、さらりと語る小林さん。異国の地でチャレンジを続け、やりたいことを当たり前のようにやってきたからこその姿勢なんだな、と感じられた。


■小林耕太 Webサイト(英語)
URL:http://kotakobayashi.com/





佐藤勝氏近影

[筆者プロフィール]
佐藤勝(さとう・まさる)
1975年大阪生まれ。2002年から中国社会や日中関係の取材に約8年携わり、2010年から電子出版ビジネスの動向や電子書籍の制作などを取材するほか、グラフィックデザイン関連の雑誌・書籍などの編集を手がける。電子出版を活かした地域再生の動きや、電子書籍によるセルフパブリッシングの動向に注目し、取材を続けている。
URL:http://55vintageworks.com/



twitter facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 RSS
【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて

この連載のすべての記事

アクセスランキング

8.30-9.5

MdN BOOKS|デザインの本

Pick upコンテンツ

現在