第1話に引き続き、enamel.の石岡良治氏によってデザインされた作品を紹介し、その制作過程における思考のプロセスに迫る。第2話では、雑貨や洋服を扱うショップ「DESPERADO」のDMを中心に話をうかがう。
第2話
“手ぐせ感”を意識して作る
「DESPERADO」
あえて送付回数を減らした告知DM
レディースウェアやハウスウェアを取り揃えるセレクトショップ「DESPERADO」。石岡さんは起ち上げの時期から、このショップのロゴをはじめとしたグラフィック全般を手がけてきた。
「オーナーの意向に則って、ショップのテーマでもあるモーテルのようなイメージを大切にしています。店内には売り物でない古ぼけたかわいい人形があったりして、とても個性的なショップです」
もう1つのDESPERADOの大きな特徴が、ウィンドウディスプレイを活用して、年間9人のアート作品を展示していること。その告知DMも石岡さんがデザインしてきた。
「毎回DMを発送するとコストがかかるし、受け取る側も“またDMか”と見ずに捨ててしまう懸念があります。そこで展示3回分をひとまとめにして、年に3度だけDMを作ることにしたのです」
1年ごとに異なるシリーズ展開
3通分のコストを、1通分に集中することで生み出されるDM。それは石岡さんにとっても「どのように面白い表現ができるかのトライアル」だ。
「初年度は極端に横長の紙を採用したのです。そして3通を繋げると、ストーリーが生まれるようにしました。ただし、3通すべてを同じ見栄えにすると、どの時期に届いたものかが区別できなくなるので、ややトーンを変化させています」
このDMでは大きな反響が得られた。しかし、翌年は同じ手法は踏襲せず、板紙を蛇行状に型抜きしたシリーズにチャレンジ。その後も、毎年異なるコンセプトを設けることで、年3通ずつのDM制作は続いている。
「“面白い”と言ってもらえると、次は良い意味で期待を裏切りたくなるのです。だから、シリーズとしては1年でひと区切りを付けながら、毎年新たな展開を試みてきました。そうすると“今年は何をしてくれるんだろう”と期待してもらえますし、受け取った方の記憶にも残るでしょうからね」
「“面白い”と言ってもらえると、次は良い意味で期待を裏切りたくなるのです。だから、シリーズとしては1年でひと区切りを付けながら、毎年新たな展開を試みてきました。そうすると“今年は何をしてくれるんだろう”と期待してもらえますし、受け取った方の記憶にも残るでしょうからね」
ひと手間を大事にする
その意図に基づいて、ヤレ紙にバッジを縫い付けてグッズ化したDM、情報を刷り込んだ封筒をマトリョーシカ人形風に何重にも入れ込んだDM、CMY3版のみの掛け合わせで花や花瓶を表現したDMなどが生み出されてきた。どれも工夫に満ちているだけあり、その分の手間がかかっている。また手作業の工程も必要とされてきた。だが、それこそが石岡さんのデザインにおける“醍醐味”でもある。
「Macで作成したデータを入稿して、すんなり完成するようだと、何だか素っ気ない。どこかに手作業を盛り込んだ“手ぐせ感”や“アナログ感”のある仕事が好きなのです。DESPERADOのショップバッグでも手作りの雰囲気は大切にしています。クラフト紙にロウ引きしているのですが、経年劣化がキレイで、使っているうちにロウが割れてきて味が生み出されるんです。材料が紙であっても、ペラ1枚の仕上がりであっても、ものとしての存在を感じさせるように作っていきたいですね」
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
次週、第3話は「到達すべき着地点までのプロセス」について伺います。こうご期待。
●石岡良治(いしおか・りょうじ) |