第2話 Web時代ならではのWeb方法論 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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現在のWebビジネス戦略において欠かすことができない「ユーザイビリティ」。ユーザー視点からWebサイトを設計・構築し、Webビジネス戦略を立案する「ユーザビリティ」の方法論をいち早く確立し、また、独自のユーザ個別行動観察「ユーザビリティテスト」といった観察手法を用いてWebビジネスの世界にイノベーションを吹き込んできたのがビービットである。今回はビービットの設立メンバーのひとりであり、取締役兼プロジェククトマネージャーでもある武井由紀子氏にビービットという会社について、そして「ユーザビリティ」という概念についてなどの話を伺った。


第2話 Web時代ならではのWeb方法論



方法論を持っていることの強み



——ビービットだからこその特色というのはありますか?

武井●特色は2点ほどあるかと思っていまして、ひとつは「ユーザビリティ」の特化、もうひとつは方法論を持っていることです。1点目についてですが、我々は創業時から「ユーザビリティ」という言葉を使っていまして、これは単なるサイトの使い勝手とか使いやすさという以上に、ユーザの心理とWeb戦略の融合であると捉えています。つまり、ユーザーの行動や心理を理解したうえでWebを作り、きちんと成果をあげていくという考え方です。この概念をもとにすべてのサービスを組み立ているので、「ユーザビリティ」が流行っているから追加しましたというサービスとは構造的にまったく違っているのではないかと思います。

大規模なWebサイト構築で、従来のシステム開発の方法論をあてはめている現場などを目の当たりにしたことがあるのですが、そこには業務分析はあってもユーザー分析はあまり行わないので、結果としてユーザーがついて来ず、うまくいかないことが多かったように思います。従来のシステム開発方法論の要が業務分析だったように、Web時代のWeb方法論の中心はユーザー分析になるかと考えています。

2点目については、これは前職で学んだことなのですが、業務の品質や生産性を一定に保つためには、業務の標準化や方法論が必要だと思います。とかく属人的になりがちなWeb業界ですが、人によってアウトプットがばらつくというのは会社としては望ましい状況ではないですし、弊社の場合、特に継続的にお付き合い頂くお客様が非常に多いので、誰が担当についても一定のクオリティを確保できるよう方法論開発・改善には創業当初から力を入れています。

——以前のシステム開発方法論との違いとは何でしょうか?

武井●以前のシステム開発の方法論というのはあくまでも業務のためのシステムであって、最初に概念設計をして、それで承認がとれたら、実際の開発をして、試験をするといったようなウォーターフォール型の方法で作っていくのですが、でも、その方法だと一度承認をとったら、基本的にあと戻りができないという特徴があります。でもWebは簡単に作れますし、システム開発に比べれば修正も容易です。またユーザのニーズは一度ではわからないことが多いので、作りながら改善を重ねていくスパイラル型という方法を弊社ではとっています。

また、そもそも業務システムはユーザにそのシステムを使う強制力が働くケースが多いのですが、Webの場合はユーザさんに「このサイトを使うこと」と強制することはできません。サイトを使うも使わないもユーザさん任せだからこそ、ユーザ分析が重要になるのです。

システム開発方法論のなかでは、「ユーザーがどんな気持ちで使うか」という概念はほとんどありません。「でき上がったシステムを使ってください」「分からなければマニュアルを見たり・社内研修を受けて下さい」と言うだけです。Webの場合、そういった対応はできないので、我々は最初の段階からユーザーを巻き込んで作っていくようにしています。

システム開発方法論でも最後にはユーザーテストがあるのですが、実際にはカットされることも多いかと思います。また最後の過程になってユーザーが使いにくい、これだと効率が悪いと言っても、システム開発ではすぐには戻ることができないケースがほとんどです。ですから、我々は最初から少し作っては、ユーザさんに使ってもらってサイトの妥当性や使い勝手を検証をするというプロセスを繰り返します。作りながら壊していくのです。そこが従来のシステム開発とは大きく違いますね。ターム、タームで壊してそして調整していくという方法をとっていますが、我々ではそういったユーザー検証型の方法論をUCD(User Centered Design)と呼んでいます。

この業界では一部の天才的なデザイナーやクリエイターが非常に高い品質のWebサイトを作っていますが、でも、そういった人はほんの一握りだけで、その人たちが作ることができるアウトプットの量も限られていますよね。我々は会社としてやっているので、組織としての方法論があることで誰がやっても同じようなクオリティをアウトプットできますし、それによってより多くのお客様に品質の高いサービスをご提供できるようになると考えています。



結果として数字を出すことが重要



——過去に契機になった仕事はありますか?

武井●とある金融機関さんでのお仕事が私にとっては思い出深いですね。住宅ローンのWeb経由の申し込み数を伸ばしたいということで、実際には2倍でも大変だと思うのですが、最初掲げていた目標が10倍で、結果的にそれが本当に10倍になりました。もちろんそれは私たちだけの力ではなく、お客様もいっしょになって夜遅くまで考えてくれた結果だと思っているのですが、ありえないと思っていた目標が達成されたのはもちろんのこと、この事実をきっかけに、その会社さんの中で「インターネットってもっと使えるかもしれない」という気運が高まり、いろいろなご担当者様がインターネット活用に本気で取り組まれるようになったようで、それを聞いたときはとてもうれしかったですね。なんというか意識改革に貢献できたような気持ちになり、達成感がありました。

会社としては、結果として数字を出していかなければいけないというのが常にあります。昔は、ただWebを作って「きれいで分かりやすいWebでいいですね」という時代がありましたが、最近では費用対効果が問われるようになってきています。我々のお客様は大企業が多いこともあるためかもしれないですが。Webは作ったけど、どのくらい効果があったのかと問われることが多いですし、そこではやはり結果としての数字が必要になってきます。その目標の数字を結果として出すことが我々の仕事だと思います。

——最近の仕事業務としてはどういった仕事が多いですか?

武井●大きく分けると4つくらいのパターンに分かれるかと思います。

1つめは、これまで最も多い、サイトをリニューアルしてより成果(数字)を高めたいというご依頼です。2つめは、企業においてWebサイトの位置付けがより高まってきているためか、企業全体の中でWebとどう位置づけるのかという戦略的なプロジェクトも増えています。3つめは、刹那的なSEOや広告だけではない、本質的なサイトへの集客について計画を立てて実行するプロジェクトです。最後は、ネット人口が飽和しつつあるなかで、新規顧客開拓ではなく、既存顧客に対してWebで何ができるのかというCRM的なテーマも増えています。

4つ目についてですが、インターネットにおける状況も常に変化していて昔はサイトを作る、あるいはリニューアルをすれば何もしなくても人は来てくれていたのですが、いまはネット人口の増加は頭打ちになってきているので、これまでに集めた既存顧客とネット上でどのようにコミュニケーションをとっていくかといった戦略立案や施策実行をお手伝いすることも多くなってきました。



——第3話に続く ——

(インタビュー/編集部 撮影/谷本夏 編集/蜂賀亨)






[プロフィール]
(株)ビービット取締役
武井由紀子(たけい・ゆきこ)


早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)入社。金融機関の組織戦略立案や官公庁のシステム開発に従事した後、ビービット設立に参加。ビービットでは、金融機関や製造業、インターネット専業企業などのウェブサイトコンサルティングに携わる。主な関与先は、三井住友銀行、本田技研工業、Yahoo!JAPAN、マネックス証券など。著書に『ユーザ中心ウェブサイト戦略』(ソフトバンク・クリエイティブ、2006)、『ウェブ・ユーザビリティルールブック』(インプレス、2001)がある。



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