第3話 本質的な価値を問う | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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現在のWebビジネス戦略において欠かすことができない「ユーザイビリティ」。ユーザー視点からWebサイトを設計・構築し、Webビジネス戦略を立案する「ユーザビリティ」の方法論をいち早く確立し、また、独自のユーザ個別行動観察「ユーザビリティテスト」といった観察手法を用いてWebビジネスの世界にイノベーションを吹き込んできたのがビービットである。今回はビービットの設立メンバーのひとりであり、取締役兼プロジェククトマネージャーでもある武井由紀子氏にビービットという会社について、そして「ユーザビリティ」という概念についてなどの話を伺った。

第3話 本質的な価値を問う



ユーザーにとって本当に価値のあるモノを作りたい



——現在は新卒者も募集していらっしゃいますが。どのような要素の人材を求めますか?

武井●特にバックグラウンドは問いませんね。我々の価値観に合うかどうか、同じ価値観を共有できるかどうかということを重要視しています。また、まだ新しい分野ですので、ベンチャースピリットというか挑戦意欲、自分で時代を切り開く意欲がある方を求めています。あと、コンサルティングでいえば、コミュニケーション能力とか、論理的に考えて説明ができるといった基礎的なことはベースとして必要だと思います。

——ビービットならではのこだわりはありますか?

武井●人の心理や行動特性を探求して、世の中に役立つモノを作り出して、それによって豊かな社会に貢献していくことを我々は提唱しています。コンピュータやテクノロジーってすごく便利なのですが、人によってはうまく使いこなせなかったり、ビデオデッキでもマニュアルを読むだけで大変だったり、Webで何かを予約するために30分以上かかったとか。そういうことって少しおかしな状況だなとも思っています。

そこでかかる時間は人間が本来持っている人間らしいことをできる時間を奪ってしまっているんですよね。Webやモノは、人間が使いやすくて人間をサポートする道具でなければいけないと思います。ですから、それらを使う時間を最小限にして、その空いた時間にもっと人間らしい、人らしいことができるのがあるべき社会の姿じゃないかと思いますね。

あと、短期的な利益に振り回されずに、本当にお客様のために役立つのか、あるいはユーザーにとって役に立つのかといった、本質的な議論をし続けていきたいとも考えています。現実的には企業のロジックや売り上げの論理などで、そういった論議がなし崩しになってしまうこともよくあるのですが、いまユーザーはインターネットなどでいろいろと情報を調べてからモノを買って行く状況なので、結果としては本質的な価値を提供している企業やWebが残ると我々は信じています。ユーザーにとっての価値こそが、企業にとってもメリットになってくるはずですし、本質的な価値が問われるようになってきています。



答えのないものを追求し続ける



——Webだからこそのユーザーの心理はあるのでしょうか?

武井●ひとつは、自主性が維持できるのがWebの良さである反面、自主的すぎて同時に不安な気持ちを抱えているというのもWebユーザのひとつの心理特性だと思います。Webは押し売りされることもないですし、そういった自立性を確保したくてWebを使っている人が多いはずですが、気軽に見たり、調べたり、比較できたりする一方、Webだと商品やサービスを購入するための背中を押してくれる、最後のひと押しがなかなか見当たりません。

我々はインターネットを「セルフサービスの世界」といっているのですが、「セルフでどうぞ」ってことになると自由で気楽にうれしくなっていろいろやる反面、本当にこれでいいのかなって不安をみなさん感じているんですね。それがユーザーの心理かなって思います。Webを作る時には、そういった不安を解消してあげることは重要です。

——お仕事で苦労していることはありますか?

武井●ユーザーを理解する、人間を理解することが我々の掲げているテーマなのですが、それ自体がとても難しいことだと思っています。学問の世界であっても人間の脳の機能はまだ半分も解明されていないといわれていますし、心理学においてもまだまだ解明されていないことがたくさんあるわけで。人間というのは本当に複雑で、理解しようとしても簡単には理解できない。でも理解する努力をしない限り、分かり合うことは絶対にないので、これからも人間心理、ユーザー心理の追求をし続けていかないといけないと思っています。でも、そこがこの仕事のおもしろい部分ですし、我々はそういった答えのないものに挑戦しているのかもしれないですね。

——人間心理を理解するために、具体的にはどのようなことをしているのでしょうか?

武井●我々はユーザー行動観察調査というのを業務としてやっています。年間1,500人くらいのユーザーさんに弊社のテストルームに来ていただいて、一人ずつ約1時間程度、そのユーザーがWebを使っているところを観察したり、その時に思ったことなどをインタビューしています。その調査には年間1,600時間以上もの時間をかけていて、その行動の中から心理などを分析していきますが、それはとても地味な作業ですね。そこでさまざまなユーザーの反応を見て、いろいろな仮説を出して、その仮説をベースにサイトの画面案を作って、また同じようにユーザーさんに使って頂いて反応を観察しています。


テストルーム風景 



アイトラッキングテストによる画像:実際にユーザーがどこを、どのくらい見ているかがわかる



ほかにも方法論について毎週月曜日の早朝に全員で議論する機会を設け、最新事例や方法論のブラッシュアップを図ったり、心理学やダイレクトマーケティングの法則などの勉強会などはよくやります。また、年二回は「合宿」といって、泊り込みで方法論や業務についての議論をする場を持つようにもしていますし。人の心理を理解するのはやはりとても難しいので、情報共有や更新も頻繁にしていて、そういった作業も我々はひとりではなく、チームワークを重視してみんなでやっています。




——第4話に続く ——

(インタビュー/編集部 撮影/谷本夏 編集/蜂賀亨)






[プロフィール]
(株)ビービット取締役
武井由紀子(たけい・ゆきこ)


早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)入社。金融機関の組織戦略立案や官公庁のシステム開発に従事した後、ビービット設立に参加。ビービットでは、金融機関や製造業、インターネット専業企業などのウェブサイトコンサルティングに携わる。主な関与先は、三井住友銀行、本田技研工業、Yahoo!JAPAN、マネックス証券など。著書に『ユーザ中心ウェブサイト戦略』(ソフトバンク・クリエイティブ、2006)、『ウェブ・ユーザビリティルールブック』(インプレス、2001)がある。



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