第1話に引き続き、柿木原政広氏によってデザインされた作品を紹介し、その制作過程における思考のプロセスに迫る。第2話では、CDジャケット「一青窈/ただいま」について詳しく話を聞く。
第2話
人間の心理に働きかける表現
「一青窈/ただいま」
どの媒体にも共通するプロセス
今週取り上げるのは、一青窈氏のMaxiシングル「ただいま」。TBS系列で放映されていたドラマ「愛のうた!」の主題歌などが収録されたCDだ。
「最初はクライアントから、フラワーアーティストとして知られている青木むすびさんに依頼がありました。そこから僕のほうに“一緒にやらない?”とお話を頂いたのです」
「最初はクライアントから、フラワーアーティストとして知られている青木むすびさんに依頼がありました。そこから僕のほうに“一緒にやらない?”とお話を頂いたのです」
CDジャケットのデザインを、これまであまり手がけてこなかった柿木原氏だが、媒体は何であれ仕事に臨む際のスタンスは変わらない。
「CDジャケット特有のプロセスがあるわけではありません。普段どおり、何を表現しようとしているかを組み立てて、一連のコンセプト付けをしていっただけです。そのような工程が、媒体によって異なるわけではありませんからね」
「CDジャケット特有のプロセスがあるわけではありません。普段どおり、何を表現しようとしているかを組み立てて、一連のコンセプト付けをしていっただけです。そのような工程が、媒体によって異なるわけではありませんからね」
楽曲が用いられたドラマとのリンク
前述のドラマのストーリーは、主人公の女性が連れ子の多い家に嫁ぐと同時に、主人が亡くなってしまい、残された子どもと義母だけの生活がはじまるというもの。CDジャケットでも、その内容を踏まえ、タイトル文字の随所に平仮名の「こ(=子)」をエレメントとして取り入れ、子どもの多い状況を匂わせた。さらに全体のビジュアルもやんわりと物語とリンク。
「寄り集まってバランスが悪いはずなんだけど、ひとつ屋根の下で奮闘している様子を表現したかったのです。そこで、さまざまな花が1つの鉢から咲いているようなメッセージ性のあるアートワークの背後に、雨を連想させる斜線を配置しました。地のグレーは撮影時の実際の背景で、黒線だけ後からデータで合成しています。黒とグレーが同じ太さだと全体が重くなり過ぎますし、“線”ではなく“模様”に見えてしまうので、少しだけ黒のほうを細くしました」
負の印象を与える右下がりの斜線
この斜線には、柿木原氏のグラフィックに対する観察眼が活かされた。日頃から「グラフィックの持つ能力とは何だろう」と考えることが多い氏は、巷に存在するさまざまな斜線に着目して、ある特徴に気がついた。
「このCDジャケットのように、左上から右下へと向かう斜線は、世の中にはあまり存在しないみたいなのです。右利きの人には描きづらいこととも関係あるのかもしれません。“右肩上がり”の反対ですし、少し辛い印象が無意識のうちに感じられるのではないでしょうか」
「このCDジャケットのように、左上から右下へと向かう斜線は、世の中にはあまり存在しないみたいなのです。右利きの人には描きづらいこととも関係あるのかもしれません。“右肩上がり”の反対ですし、少し辛い印象が無意識のうちに感じられるのではないでしょうか」
購入者が即座に「この斜線は普通とは逆方向だ」と気づくことは稀だろう。だが、グラフィックが持つイメージは着実に深層心理へと働きかける。
「こうしたニュアンスを少しずつ蓄積させて“何か気になる存在”へと仕上げることも狙いのうちでした。また、表現の中に“言われてみればそうだ”との発見があり、“それは確かに面白い”と実感できる要素を組み込むと、世の中で伝わるスピードが早くなるのではないかと思うのです」
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
次週、第3話は「日本酒のオリジナル容器」について伺います。こうご期待。
「こうしたニュアンスを少しずつ蓄積させて“何か気になる存在”へと仕上げることも狙いのうちでした。また、表現の中に“言われてみればそうだ”との発見があり、“それは確かに面白い”と実感できる要素を組み込むと、世の中で伝わるスピードが早くなるのではないかと思うのです」
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
次週、第3話は「日本酒のオリジナル容器」について伺います。こうご期待。
●柿木原政広(かきのきはら・まさひろ) |