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ウェブアクセシビリティ・レポート 第6回 動画コンテンツのアクセシビリティ

2024.4.20 SAT

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ウェブアクセシビリティ・レポート

文=KeiYu HelpLab石田優子
ユーザーの視点に立ったサイト構築、運営に関するユーザビリティ、アクセシビリティの向上などのコンサルティング、調査などを行っている。


第6回
動画コンテンツのアクセシビリティ


Flashや動画は非アクセシブルなメディアだと思われがちだが、聴覚障害、学習障害、知的障害のある人、あるいは高齢者や子どもにとってはテキスト情報よりもわかりやすい面もある。今回は特に聴覚障害の当事者である人の話も含めて、動画コンテンツのアクセシビリティの可能性について言及する。


聴覚障害者とネット

聴覚障害者のコミュニケーション手段
聴覚障害者とネットについて語る前に、聴覚障害者のコミュニケーション手段について少し説明しよう。

聴覚障害というと手話を思い浮かべる人が多いと思うが、手話以外にも、相手の口の動きを読み、自らも口で発音する口話、筆談、ジェスチャー、空間に文字を手で描いて読み取る方法なども使われている。特に、中途から聴覚障害者となった人の場合は手話ができない場合も多い。先天性の聴覚障害者の場合は幼いころから手話や口話を学ぶ機会があるが、中途障害、特に高齢で難聴になったような場合は、そのような学習機会がないからである。

また、補聴器を付けるとかなりの音声を聞き取れる難聴の人と、補聴器を付けてもほとんど聞き取れない人とでもコミュニケーション手段は変わる。このように、聴覚障害者のコミュニケーション手段は多岐にわたるということを認識しておいてほしい。

ネットは聴覚障害の種類を超えて、新たなコミュニケーション手段として広く活用されている。もっとも広く使われているのが携帯メールである。聴覚障害者同士、あるいは聴覚障害者と耳の聞こえる人が遠距離で会話する方法は従来はFAX程度しかなく非常に不便であった。それが携帯メールの登場で、遠距離での会話が可能となったのだ。

聴覚障害者がネットを利用するうえでの問題点
もちろん通常のWebサイトの利用も盛んである。そこで、聴覚障害者は文字を読むことができるためネットの閲覧にはまったく不自由しないという誤解があるが、実のところそう断言できない。特に先天性の聴覚障害者の場合は、文章の苦手な人も結構いるということを聴覚障害の当事者の友人から聞いている。手話文法と通常の日本語文法はまったく異なる。また、言語習得において耳から得る情報は、目で読む文章から得る情報よりも非常に多いのだが、これが制限されてしまう。したがって通常の日本語の文章を書いたり、読んだりするのが苦手という人が存在する。

また、情報量が少ないため、ボキャブラリーも限られる。難しい単語には平易な説明やふりがなが欲しいといった声もある。これはけっして頭の良し悪しの問題ではなく、情報を得て学習する手段が限定されてしまっているために生じることなのだ。このため、文字情報よりも理解しやすい画像、Flash、動画コンテンツなどへのニーズは聴覚障害者間では高い。聴覚障害者当事者のみのDeafNecoというSNSが存在するが【1】、ここではユーザーからの要望でFlash対応が現在検討されている。

【1】聴覚障害者専用SNS DeafNeco
【1】聴覚障害者専用SNS DeafNeco


動画コンテンツの場合、音声が聞こえないと理解しにくいものもあるが、YouTube(www.youtube.com/)【2】などの海外のコンテンツを英語がわからない日本人が見て楽しんでいる場合があるように、映像だけを見て理解し、楽しめるものも多い。また、通常のテレビ番組も吹き出しやテロップが入るので閲覧している聴覚障害者は多い。

【2】英語のみながら日本人でも楽しめるYouTube

【2】英語のみながら日本人でも楽しめるYouTube


動画への字幕放送の試み

字幕なしでも楽しめる面もある動画だが、字幕があればよりわかりやすいことは確かだ。聴覚障害者だけでなく、高齢者や子どもなど、いろんな人にとってよりわかりやすいものになる。ネットを通して動画に字幕を付ける試みをふたつご紹介する。

シグロのバリアフリー上映
シグロは2005年にブロードバンドタワーと業務提携し、2006年2月にシグロの映画作品をネット配信するシグロシアター(www.cine.jp/)をオープンしている【3】。これは日本語の映画にも字幕を付けて、ネットで有償でダウンロード配信するもので、映画館に行かなくとも、自宅のパソコンで映画を楽しむことができる。劇場公開と同時にネット配信している作品もある。

【3】字幕付きで動画コンテンツを配信しているSIGLO theater [シグロシアター]
【3】字幕付きで動画コンテンツを配信しているSIGLO theater [シグロシアター]


現在は字幕のみだが、視覚障害者が楽しめるような副音声版も準備中だという。聴覚障害、視覚障害以外の身体障害のため、映画館まで行くことがなかなか困難な人たちにとっても自宅で映画が楽しめる。これからの映画配信のひとつの方向性として注目されるだろう。シグロでは、サイトのアクセシビリティにも力を入れており、高齢者、視覚障害者にも見やすいサイトを目指している。

DVDにネットで字幕を付けるweb-shake
海外ではテレビなどでも字幕付きのものが一般的だ。日本でも総務省により字幕放送の普及を図るために2007年までに生放送を除くすべての番組に字幕を付けるように指導をしており、放送に関しては補助金も出ている。しかし、DVDの場合は発売元の負担となるため、日本では邦画やアニメなど、日本語音声のDVDにはまだ日本語字幕が付いていないものが多い。

それをカバーするために考案されたのがweb-shake(web-shake.jp/)だ【4】。DVD自体に字幕が付いていない場合に、DVDに連動した字幕をWebサイトで無料で表示するサービスで、すでに発売済みのDVDを対象として、許諾を得た作品に対して字幕を制作している。閲覧には、DVDの再生ができるインターネットに接続されたパソコンと、web-shakeに対応したDVDが必要になる。まずDVDをパソコンに入れ、DVDプレーヤーを終了してからweb-shakeにアクセスし、web-shakeプレーヤーで再生すると、Webブラウザ内で字幕付きのDVDを閲覧することができる。

【4】DVDを字幕付きでWebで閲覧できるweb-shake
【4】DVDを字幕付きでWebで閲覧できるweb-shake


以上のように、ネットにおける動画配信の普及とともに、そのアクセシビリティについても具体的な取り組みが見られるようになってきた。これまでマルチメディアには代替手段をと大きなくくりで言われるだけだった分野であるが、聴覚障害者以外にもたとえば日本語を勉強している外国人など、活用できる人は多い。多くの人にわかりやすいという動画の持ち味を生かし、さらにそれをアクセシブルなものにするための研究が今後さらに進むと思われる。


本記事は『Web STRATEGY』2006年11-12 vol.6からの転載です


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