携帯電話をかけ、その声に反応して表参道のイルミネーションが変化する「akarium Call Project」、ネットユーザーが遠隔操作し、銀座のソニービルを自分の好きな色に変えることができるソニー BRAVIA(ブラビア)「Color Tokyo!〜Live Color Wall Project」など、新しいスタイルのインタラクティブ広告として国内外で数々の賞を受賞し、高い評価を受ける作品を作り続けているのが777interactive(トリプルセブン インタラクティブ)である。今回は「アジア太平洋国際広告祭2008」から戻ったばかりの777interactiveプランナー 益田準也氏に、777interactiveの活動についてや、インタラクティブ広告の現状、国際的な広告祭を通じて感じた日本と海外の違いなどについて聞かせていただいた
第3話 表現とストラテジーとのバランス
福田敏也氏との出会い
——益田さんが、現在の仕事をやるようになったきっかけを教えてください?
益田●僕は学生の頃は彫刻をやっていたのでデザインとはまったく関わっていなかったんです。石や鉄を刻んだりこねたりといったように、デジタルに関しては全然わからなくて。友人たちは誰もがデジタルに対しては否定的で、映像を加工したアート作品とか、テクノロジーを絡めたアートじゃダメだ、山にこもって手でつくるのがアートだ!みたいな話をしていたんですけど(笑)。
僕は学生時代にラジオの放送作家もやっていて、そのときにインターネットと連動した番組があって、そこで博報堂の方と知り合う機会があったんですね。それで博報堂の人に誘われてあるパーティに行ったら、そこにたまたま博報堂アイ・スタジオの代表がいて「君、今度遊びに来なよ」って言われて、それで訪ねたら、いきなり面接がはじまって「君、いつから来られるの?」という話になって。それから今の仕事をやっています。
——すごくラッキーというか、いきなりですね。
益田●でも、実際には何となく入ったわけではなくて、元々CMやグラフィックの仕事がやりたかったんですね。ただ当時はインターネット広告というのがわからなかったんです。将来はCMとかがやりたかったので、最初はここから入ってもいいかなと思ったんですけど。それがきっかけで、入って少し経ったら福田敏也が、博報堂からアイ・スタジオに入ってきて、福田が僕のトレーナーになっていろいろと教えてくれましたね。福田との出会いも大きな契機だったと思います。
——益田さんにとってインタラクティブのおもしろさは何ですか?
益田●インタラクディブのおもしろいところは、テレビCMやポスターなどと比較したら、表現が自由にできることと、終わりがないことですね。テレビCMやポスターなどは、どれも規則やレギュレーションが厳しいし、さらには、テレビは15秒や30秒のなかに商品や企業名を入れるといった制約が多くて、表現できるのはほぼ10秒とか12秒ですよね。でもインターネットにはそういった時間的な制限はないし、ある意味自分ですべてをつくることができるのがおもしろいですね。
あと、福田との出会いも大きかったですね。彼は元々テレビCM、マスメディアをやってきたという経験があるのですが、インターネットの世界にはそういった経験のある人が少ないんですね。その絶妙な広告的なバランスをすごくよくわかっている。当時、僕の企画はそうとうダメ出しもくらったりしたのですが。福田が、本当の意味での広告の在り方を教えてくれました。
わかりやすさが不可欠
——福田さんからはどんなことを学んだのでしょうか?
益田●彼は決してテクニックだけにこだわらないんですね。本質のところを忘れないようにする。プランニングでしっかりと“間”を出す意味とか、単なる小手先じゃないことを常に考えていて、それを僕に教えてくれました。でも、最初はそれがつらかったんですけど、何回企画を出しても通らないし。でも、だんだんやっていくうちに自分ではこんな企画じゃダメだ、これだったらまだ出せないなってことがわかってきて、それがだんだんおもしろくなってくるんですね。それがおもしろくて。それがきっかけで、インターネットにはまっていったというか。
あと、インターネットは常に変化していくメディアでもあるので、もうやりつくしたなあって思った瞬間に、さらに新しいコミュニケーションが生まれたりもして、新しいコミュニケーションスタイルをつくることで、みんなを驚かすことができるのもおもしろいですね。
——先ほど、企画にダメ出しをされるという話がありましたが、どのような企画だといいのでしょうか?
益田●一番重要なのはわかりやすさではないでしょうか。僕らはアートをつくっているわけではないので、わかりやすさが不可欠だと思うのですね。でも、わかりやすいだけではなく、そこに新しいコミュニケーション手法や斬新なアイデアがプラスされることが必要ですね。そこには広告としての丁寧な戦略が絶対必要で、単純におもしろい表現とか、きれいなものをつくるだけではなく、コミュニケーションそのものを変えていくとか、新しい広告の扱い方をみなさんに提案していけるのが僕たちだと思います。
「akarium」や、「Color Tokyo!」もそうですが、ただ表現するだけではなくて、どうやってパブリシティを稼ぐとか、どのように広告的に広げていくか、代理店的に言うと、CC的なポジションも頭に入れながらストラテジーまでも考える。表現とストラテジー、その両方を考えながら企画していくことが必要ですね。表現だけではなく、戦略だけでもなく、両方のバランスを整理する必要がありますし、そして、それがわかりやすくないといけない。あと、クライアントの課題に対して解決できることが見えるかどうか。そこを考えることが重要です。
あと嘘をつかないっていうのもありますね。自分に嘘をつかない。クライアントや代理店のオーダーが100%正しいと言えないときもあるのですね、自分で疑問を持ったら、そこをきちんと調べあげる。少しでも気になったらそこに嘘をつかないで、クリアにしていくことが大切。そうすると、おのずと向こうが考えていることがわかったり、自分が伝えたいことが合っているかどうかの分析にもなるので、そこに嘘をつかないことは大切だと思います。
(インタビュー/蜂賀亨 撮影/谷本夏)