第2話に引き続き、Donny Grafiksの山本和久氏によってデザインされた作品を紹介し、その制作過程における思考のプロセスに迫る。第3話では、映像制作会社ピクトの本社オフィスにおけるユニークなサイン計画をピックアップ。
象形文字を意識したアイコン
「株式会社ピクトのサイン計画」
“洞窟”から発想
東京都の築地に本社を構え、CMをはじめとした映像制作を手がける株式会社ピクト。山本氏は、この会社のオフィスのサイン計画に携わっている。
「これはイデー企画営業部のデザインチームと組んで進めた仕事です。彼らが提案してきたプランでは、エレベーターを上がった場所に位置するエントランスを、狭い洞窟のように仕上げ、そこを抜けたところからはガラリと雰囲気が変わるというイメージだとのことでした」
このアイデアをもとに、壁画などに描かれている象形文字を、各種サインのモチーフとすることをプレゼンし、決定。場所を示す30種類近くのプレートや、スケジュールボード用のマグネット、ライブラリー内の蔵書ジャンルを示す分類マップなど、さまざまな制作物に、そのコンセプトが適用された。
自らに課した制約
「普段、ピクトグラムを作るときにはメッセージを凝縮していきますが、このときは逆に言語のように羅列させて成立させようとしました。たとえば“ミーティングルーム”を示すプレートでは、たくさんの人が集まり、議論を交わしている場面を表現しています。さらに複数あるミーティングルームでも、部屋によって異なる収容人数や備品をアイコンで表現しています」
プレートを構成する絵柄は、それぞれ6×6コマの正方形に対角線を加えた直線的なグリッドをベースに描かれている。
「本来、象形文字は石を用いて懸命に刻んだものや、粘土にヘラを使って記したものであることから発想し、複雑な動きのある曲線は避け、単純な直線のみで構成する制約を自らに課しました。そうすることによって、象形文字の持つ雰囲気を出しつつその個性とし、形状としてのシンプルさを維持できました」
「本来、象形文字は石を用いて懸命に刻んだものや、粘土にヘラを使って記したものであることから発想し、複雑な動きのある曲線は避け、単純な直線のみで構成する制約を自らに課しました。そうすることによって、象形文字の持つ雰囲気を出しつつその個性とし、形状としてのシンプルさを維持できました」
遊び心のあるユニークな仕掛け
また、これらのプレートには、必ずしも事実ばかりを並べるのではなく、動物などを盛り込みながらユニークに仕上げられた。
「実際の象形文字を見たときに、100%正確に理解することは不可能ですが、何となく内容は伝わりますよね。そのように、イマジネーションをかき立てられる余地を残したのです。すると、来客者とは“あれは何を表現しているのですか?”といった対話も広がるかもしれませんしね。そういった意味では、単なるサインとしての役割以上のコミュニケーションツールになっていると思います」
こうした遊び心が受け入れられたのは、クライアントが映像の制作会社であることとも無関係ではないだろう。だが、山本氏は「公共のピクトグラムでは、なかなか同じようにはいかないかもしれない」と認識しながらも、次のような意欲を語ってくれた。
「こうしたサインを、市役所などでも実現してみたいですね。必ずしもクリエイティブな業界に限定せず、公共の場や日常の中に、こうした遊び心と意味を両立させたデザインが当たり前のものとして存在する状態を作り上げることに貢献できたら嬉しいですからね」
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
次週、第4話は「チャレンジし尽くす姿勢」について伺います。こうご期待。
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
次週、第4話は「チャレンジし尽くす姿勢」について伺います。こうご期待。