Donny Grafiksの山本和久氏によるデザイン術を紹介してきた本連載。最終回となる第4話では、プロ・スクール「Schooling-Pad」の各種印刷物や、講義をまとめた『ビンタ本』(幻冬舎メディアコンサルティング)に注目。デザインに向き合う際の姿勢についても詳しく話を伺った。
チャレンジし尽くす
「Schooling-Pad関連の印刷物」
本質を捉える学校「Schooling-Pad」
第1話で紹介したIID 世田谷ものづくり学校を拠点にしているプロ・スクール「Schooling-Pad」。その学校案内などを含むさまざまな制作物も、山本氏が手がけている。
「Schooling-Padには、デザインコミュニケーション、レストランビジネスデザイン、映画、農業ビジネスデザインと4つの学部があり、いずれも物事を本質的に捉えてクリエイションする大切さを教えています。講義は、基本的にトークセッションを主体としたものです。だから、それにまつわる一連の印刷物でも、そのライブ感を表現することに配慮しています。この仕事を手がけるにあたって、クライアントからは、特別なイメージ指定はありませんでしたが、僕の前任もプロパガンダ的な方向性を表現していたように感じたので、その勢いは残しました」
フォーマットを設定していない装丁
そうしたスタンスは、制作物の随所から感じることができる。走査線の入った写真をはじめ、挑戦的なビジュアルが満載。セッション中の写真などは、ムービーから抜き出した低解像度のものだったが、そうした逆境を軽々と覆す表現手段だ。そのことを特に感じさせられるのは、講義を1冊にまとめた書籍「ビンタ本」のエディトリアルデザインだ。
「一冊をつらぬくページフォーマットを用意せず、各見開きを逐一新規でデザインしました。ものづくりに対して真剣に取り組み、一線で活躍しているクリエイターの話は“目から鱗”なもの、つまり、Schooling-Padは、ビンタを打たれるような衝撃的な場なのです。そこでの講義内容を収録するわけだから、雛形に文字を流し込んでいく制作スタイルは適当ではないと思いました。“ビンタ本”のタイトルを掲げている以上、サラリとレイアウトはできないわけです」
常に再検討を忘れない姿勢
その言葉通り、強調するために大きな文字を使用している部分ひとつとっても、ページごとに級数は変化。一般的には、ここは文字サイズを統一するのがセオリーだが、それを認識したうえで、あえて異なる手法を用いているのだ。
「セッションの現場で話された内容を再現しているわけだから、単に読む“文字”としてではなく、話されているような“言葉”として、ダイレクトに伝えることを意識しました。僕はデザインする際には、経験に頼り過ぎず、常に“本当にそれで良いのか”と突き詰めるようにしています」
とはいえ、今回のようなアイデアを形にするとなると、当然ながら作業量は倍増する。そこに苦しさはないのだろうか。その問いに対し山本氏はこともなげに答えた。
「思い付いたアイデアを試さずに放置するほうが苦しいですね。制作物が実際に世の中に出たときに“ああすれば良かった”と後悔することのほうが耐えられない。ベストだと考えたことは、できる限りチャレンジするように心がけています」
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
「このアートディレクターに聞く」第23回Donny Grafiks山本和久さんのインタビューは今回で終了です。次回からは植原亮輔さんのお話を掲載します。
「思い付いたアイデアを試さずに放置するほうが苦しいですね。制作物が実際に世の中に出たときに“ああすれば良かった”と後悔することのほうが耐えられない。ベストだと考えたことは、できる限りチャレンジするように心がけています」
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
「このアートディレクターに聞く」第23回Donny Grafiks山本和久さんのインタビューは今回で終了です。次回からは植原亮輔さんのお話を掲載します。