第2話 メディア特性の活用 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて









第1話に引き続き、「E.」の小林洋介氏によってデザインされた作品を紹介し、その制作過程における思考のプロセスに迫る。第2話では、企画内容と形態が見事にマッチした2つの仕事をピックアップ。



第2話
メディア特性の活用
「朝日新聞」新卒採用ツール、「スタートトゥデイ」会社案内


リアルな工程で制作された「新聞」



 今週1つ目の作品は、朝日新聞の新卒社員の募集で学生に配られた印刷物。その体裁は、新聞社らしく新聞そのものだ。

「実際に朝日新聞の工場の輪転機で刷りました。だから色玉や紙端に開いた穴、エッジのギザギザなど、本物の新聞ならではのディテールを持っています」

昨今では新聞を読まずにオンラインで情報を集める人たちも多い。そのような時勢を踏まえクライアントからは新聞の隠された魅力や紙媒体の良さを伝えたいとの要望があった。

「この新聞をラッピングペーパーやブックカバーに活用したサンプルも作り“このような使い方もできる”と提示しました。インターネットとの差別化も意識して、紙ならではの手触りを楽しむことができるアイデアです」


媒体の特徴とイラストのリンク


 紙面のメインビジュアルは大胆に配置されたイラスト。表一には冷蔵庫、中面には食材。それらと新聞との関係とは?

「新聞は常にフレッシュな情報を毎日届ける媒体です。そこで、扉を開けると常に新鮮な食材が詰まっている冷蔵庫をモチーフにしました。ハム、チーズ、キャベツの断面を描いたイラストを中面で用いて、ライブ感や品質、フレッシュさなどを表現しています」
担当イラストレーターは赤津美和子さん。この企画は「彼女のイラストがなければ成立しなかった」と小林さんは断言する。

「赤津さんのイラストは、エッジの効いた切れ味の鋭い作風が特徴です。ただ今回の仕事では、いつも通りに描いてもらうとグロテスクになり過ぎる恐れがあったため、少しだけ抑えてもらいました」

他者とのコラボレーションを「自分の創造を遥かに超えたものを作ることができるので楽しい」と語る小林さん。今回の仕事でも、ディレクションによって「赤津さんの違った魅力を引き出すことができたと思う」と納得の仕上がりだったようだ。


ペーパーバック風の会社案内



 ほかにもメディアの特性を理解し、適切に活用した例として、ファッション関連の商品を取り扱うWebサイト「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイの会社案内が上げられる。

「全体的にペーパーバックをイメージして作りました。表紙を4パターン用意し並べると会社のロゴマークが現れます」
一般的に、会社案内というと薄いパンフレットのような形状のものが多い。だが、あえてペーパーバック風にしたことにはわけがある。

「これは社外に沿革を示すとともに社長の哲学を社員と共有するためのツールでもあったのです。いわば社長のヒストリー本ともいえます。社長は、以前パンクなどの音楽に関わる仕事をされていたため、普通にキレイなパンフレットは似合わない。そこで、DIYのニュアンスを持たせるためにも、あえてザラッとした質感の紙を使ったのです。写真にはコピーやスキャニングといった質感を荒くする処理も施しました」

 その試みは企画の方向性とぴったり合致。社長の個性をうまく反映させられた。メディア選びや材質選び、質感調整もアートディレクターの大切な仕事のひとつであることは言うまでもない。しかし、そんな当たり前なことの重要性を再認識させられたインタビューだった。
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)


次週、第3話は「制約に導かれたレイアウト」について伺います。こうご期待。





●小林洋介(こばやし・ようすけ)
1975 年新潟県生まれ。明治学院大学在学中に亀倉雄策のポスターと偶然出会い方向転換。卒業後、2000年有限会社E.に入社。現在、広告を中心に、パッケージデザイン、エディトリアルデザインなどの方面でも活動中。2007年JAGDA新人賞受賞。
http://www.e-ltd.co.jp/

twitter facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 RSS
【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて

この連載のすべての記事

アクセスランキング

8.30-9.5

MdN BOOKS|デザインの本

Pick upコンテンツ

現在