第3話 制約に導かれたレイアウト | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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旬のアートディレクターをお迎えして、デザインする際の思考プロセスを伺うとともに、創作のスタンスに迫るこのコーナー。第3話では「E.」の代表を務める蝦名龍郎氏がアートディレクションを手掛けた環境キャンペーンの駅貼りポスターを紹介する。



第3話
制約に導かれたレイアウト
「地球温暖化防止全国鉄道広告キャンペーン」ポスター





題材が決まるまでのプロセス



 2007年よりJARAP(全国鉄道広告振興協会)は、5月2日の「交通広告の日」を中心とする期間、地球温暖化防止キャンペーンを実施している。著名な賛同者によるボランティアで制作されたポスターを、全国に一斉掲出。2年続けてアートディレクションを務めている蝦名さんは、当初の依頼内容を次のように振り返る。

「一般的な仕事とは異なり、ビジュアルを提供してくださる作家陣が、クライアント側の企画段階ですでに決まっていたのです。平山郁夫さん、大津英敏さん、宮田亮平さん、日比野克彦さんの4名。ただ、どのような作品を掲載するかまでは決まっていませんでした」

 そこでまずは、共通のモチーフを決めることからスタート。金属工芸家の宮田さんがイルカをモチーフにした「シュプリンゲン」シリーズで名高いこともあり、題材は環境問題にもなじみの良い「動物」に決定。平山さんには既成の作品から「おなが鳥」の特別提供を依頼。大津さんと日比野さんは絵を描き下ろし、宮田さんも「シュプリンゲン」の新作を制作してくれることとなった。



作品と紙面サイズとの調整



「エキからエコ。」の印象的なキャッチコピーを生み出したコピーライター眞木準氏も含め、錚々たる大御所たちが参加したプロジェクト。蝦名さんほどのベテランでも「冷や汗ものだった」と振り返るほどだ。当然ながら、平山さんの作品などにはトリミングさえも許されない。

「定型サイズのB倍に合わせて、作品を最大限の大きさで見せ、残されたスペースへ文字やロゴなどを配置しました。つまり、平山さんの作品のポスターが基準となってレイアウトが決まっていったのです」

B倍判のほか、駅貼り用にはB全サイズのポスターも必要とされた。縦横比が逆転するため、全く同じレイアウトにすることはできず、一工夫が求められる。

「B全では、作品を紙面の上に配置し、残りのスペースを色ベタで調整しました。これらの色は、それぞれ海、太陽、大地、森を表現する4種類を採用しています。これらは日本の伝統色から選びました」


統一フォーマットならではの苦労



 続く2年目は、色ベタとメッセージのみで構成したバリエーションを新たに追加。4人の作家が作品を提供するポスターでは、平山郁夫さんの「西域の馬」のほか、イルカ、虎、ゾウと4種の野生動物たちが登場した。QRコードなどを盛り込みながら、基本的に前年と同じフォーマットでのレイアウト。だが、その舞台裏には大きな苦心があった。

「実は、2年目に日比野さんが描いてくださったゾウの作品が縦長だったのです。90度回転させることも考えましたが、サインも入っていることだし、やはり都合が良くない。そこで先方に相談のうえ、背景を画像処理でうまく伸ばして、紙面のサイズに合わせました」

 さまざまな制約のもと調整を重ねたことによって導きだされた豪華なビジュアル。ときとして制約のある仕事はゼロからの構築よりはるかに難しい。だからこそ、蝦名さんの言葉通り「今回のポスターのように上手くハマったときには楽しい」ものにもなるのだろう。
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)


次週、第4話は「広げる仕事とまとめる仕事」について伺います。こうご期待。






●蝦名龍郎(えびな・たつお)
1960年東京都生まれ。1986年有限会社E.設立。1987年宮田識デザイン事務所(現ドラフト)入社、1988年有限会社E.復帰。1993年JAGDA会員。1999年 ADC会員。2001年AGI会員。主な受賞に、1994年JAGDA新人賞、日本工業広告展銅賞。1995年東京ADC賞、朝日広告賞(部門賞)。1996年東京ADC賞、NY ADC銅賞。1997年東京ADC賞、NY ADC銅賞、朝日広告賞(部門賞)など。
http://www.e-ltd.co.jp/

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