第4話 広げる仕事とまとめる仕事 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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制作会社「E.」によるデザイン術を紹介してきた本連載。最終回となる第4話では、代表を務める蝦名龍郎氏の手掛けた東急グループの広告ポスターに注目しながら、アートディレクターとデザイナーの役割について、詳しく話を伺う。



第4話
広げる仕事とまとめる仕事
「祝・副都心線開業 TOKYU GROUP SHIBUYA index」





渋谷を広告するキャンペーン



 2008年6月14日、和光市〜渋谷間の16駅を結ぶ東京メトロ副都心線が開通し大きな話題となった。それを機に、付近の施設やデパートなどは、さまざまな趣向を凝らしたイベントを展開。今回紹介するポスターも、そのようなキャンペーンの1つだ。

「もともとのクライアントは東急グループで、副都心線の開通のタイミングに合わせて、渋谷の街を盛り上げたいとの企画でした。グループ各社だけでなく周辺の商店会などにも賛同してもらっています」

 制作されたポスターは計4パターン。そのうち2つは、絵の具調の色を重ねたマークとキャッチコピー、囲み罫で構成したロゴを主体としたもの。そして、コラージュによって渋谷の街をデフォルメ描写し人物を中心に見せたパターン。もうひとつが建物を中心としたものだ。

「この仕事で、まずはじめに作成したのがマークです。いろいろな文化やビジネス、ファッションが集まってくる渋谷の特徴を集約しています」



デッサンを利用したコラージュ



 一方、コラージュでは「渋谷の持つ混沌とした雰囲気」を表現。人物については写真のざっくりした切り抜き、建造物については鉛筆描きのデッサンが素材として用いられている。

「渋谷の街はまだ未完成で、これから作っていくものであるとのイメージからデッサンを活用することに決めました。人物写真にはモデルを一切使用せず、街を行き交う人を撮影しました」

建物も実際に渋谷の各所で写真を撮影。それを下地にトレースされた。手間はかかるが、そのまま写真を使用しなかった背景には、もうひとつ理由がある。

「昔は写真の合成は大変な作業でしたが今では簡単になり珍しい手法ではなくなりました。だから写真のみでコラージュすると単なる“あり得ない世界”のビジュアルになってしまうのです。ところが、それを再び絵に描き起こすことで“本当に描いてるんだ”と、少し違った驚きを与えられると考えたのです。いわばもう1度“リアルな世界”に戻すような工程です」


ADとDとの関係性



 コラージュ素材の撮影や、膨大な量にのぼるマークのアイデア出し。このポスターの制作では、蝦名さんのアートディレクションのもとに複数の社内デザイナーが集った。今回の場合のように「デッサンを用いる」といった明確な方向性を示すこともアートディレクターの仕事だが、それ以外にアートディレクターとデザイナーそれぞれに求められる役割とは何だろうか。

「簡単に言えばデザイナーは広げること、アートディレクターはまとめること。1人では思いつかないものをみんなで広げ、ADが最後に拾い上げてまとめるわけです。だからデザイナーには、つまらなくてもいいから提案することを求めます。“このアイデアは通らないだろうし、笑われてしまうかも……”と考えて、自分のなかに隠し持ってしまうと広げることができませんからね。それが面白いか、そうでないかを判断することはアートディレクターの役割なのです」
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)


「このアートディレクターに聞く」第26回「E.」のインタビューは今回で終了です。次回からは浜田武士さんのお話を掲載します。





●蝦名龍郎(えびな・たつお)
1960年東京都生まれ。1986年有限会社E.設立。1987年宮田識デザイン事務所(現ドラフト)入社、1988年有限会社E.復帰。1993年JAGDA会員。1999年 ADC会員。2001年AGI会員。主な受賞に、1994年JAGDA新人賞、日本工業広告展銅賞。1995年東京ADC賞、朝日広告賞(部門賞)。1996年東京ADC賞、NY ADC銅賞。1997年東京ADC賞、NY ADC銅賞、朝日広告賞(部門賞)など。
http://www.e-ltd.co.jp/

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