旬のアートディレクターをお迎えして、デザインする際の思考のプロセスを伺うとともに、創作のスタンスに迫るこのコーナー。第27回目は浜田武士氏。第1話では、2008年6月10日に創刊したB4判変形の大型雑誌『ROCKS』を紹介する。
第1話
気骨のある雑誌の誌面『ROCKS』
骨太な編集方針を持つ媒体
今年の6月に登場したばかりの新しい季刊誌『ROCKS』。版元のSHIBUYA PUBLISHING BOOKSELLERSは編集部とブックショップが一体となった一風変わった会社で、ROCKSは同社初のオリジナルマガジンとなる。創刊号の表紙には、民主党議員の鈴木寛氏、サッカー日本代表監督の岡田武史氏、フォトグラファーの小林紀晴氏など、ジャンルの枠を超えた多彩な顔ぶれが並んでいる。
通常、メジャーな雑誌が人物を取り上げるとなると、先方に出演メリットがある時期に限って登場してもらえることが多いが、ROCKSではそういった事情を考慮して人にクローズアップするのではなく、編集部が純粋に興味がある人に絞って参加してもらっているのがポイント。各コントリビューターには2見開きずつのスペースを提供して、好きなように誌面を作ってもらっているそうだ。
「僕も、当初はアートディレクターとしてではなく、表紙ビジュアルを提供するコントリビューターの1人として指名されました。しかし、いつの間にかアートディレクションまで依頼されていました(笑)。ただ季刊誌とはいえ1冊の雑誌を担うには、こちらも制作体制を整えるなどの準備が必要です。そこで外部のデザイナーも交えて変則的なチーム編成で引き受けることにしました」
ふたを空けるまでは何も決められない
コントリビューション・マガジンという媒体の性質上、具体的な方向性を定めるまでには長い期間が必要とされた。なぜならコントリビューターによって、内容はもちろん要素の分量、デザイン入稿の形態まで、事前に予測できない領域が広いからだ。
「要素が集まってくる前までは、どのようなページができるか想像もつきませんでした。結局、こちら側でデザインして完成させるページもあれば、すっかり仕上がった状態で入稿されてくる場合もあったりとさまざまでしたので、ある程度進行するまでは、あえてディレクションせずに待ちました」
細部を詰めすぎないアートディレクション
やがて最初にデザイン入稿されたのは鈴木寛氏の担当ページ。内容は「写経」。続く岡田監督の見開きページには、彼の顔写真のみが用意されていた。徐々に動き始めたが、やはりこの時点でも全体像はつかめない。
「受け取ったコンテンツは、いったんページとして組んでおき、見通しが立ってから、改めて調整することにしました。実際、コンテンツが出そろったところで、使用書体、段組み、記事をナンバリングするといった骨格を決めていきました」
そうはいっても、記事ごとのディテールは完全に揃ってはいない。たとえば誌面のマージン。記事によってバラバラだ。このあたりも当然意図してのことだ。
「この雑誌では揃えすぎるべきでないと思いました。揃えることで落ち着いた佇まいを生み出すよりも、ページを開いた際に“ワッ”と驚かせるような勢いを大事にしています。ページを捲っていくごとに“この本は何だ?”と感じさせるほうが、この媒体には大事でしょうからね」
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
「この雑誌では揃えすぎるべきでないと思いました。揃えることで落ち着いた佇まいを生み出すよりも、ページを開いた際に“ワッ”と驚かせるような勢いを大事にしています。ページを捲っていくごとに“この本は何だ?”と感じさせるほうが、この媒体には大事でしょうからね」
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
次週、第2話は「内容を“感じさせる”書籍」について伺います。こうご期待。
●浜田武士(はまだ・たけし) |