第2話 映画媒体における幅広い展開『めがね』 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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第1話に引き続き、大島依提亜氏によってデザインされた作品を紹介し、その制作過程における思考のプロセスに迫る。第2話では、2007年に劇場公開された映画『めがね』(配給:日活)にまつわる各種アイテムに注目。



第2話
映画媒体における幅広い展開『めがね』



劇中の「めがね」「メルシー体操」をモチーフに



映画『めがね』の撮影クルーは、監督やプロデューサーを含め、第1話で紹介した『かもめ食堂』とほぼ同じ顔ぶれ。主要なキャスト陣も再結集。大島さんも前作に引き続き、パンフレットやプレスシートなどを手がけた。

「けっこう奥が深くて、観客に判断を委ねる部分が大きい作品です。タイトルの由来も“たまたま登場する5人がメガネをかけている”というだけのこと。しかも作中ではそこにすら触れられていません。とても粋な演出の映画です」

プレスの表紙には、黒いセルフレームメガネのビジュアルを採用。レンズの重なる箇所以外の背景をぼかす処理で、メガネの役割「見ている物の鮮明度を高める」が表現されている。また、パンフレット中面のページでも、半透明のファンシーペーパー上にメガネを描き、次のページに控える顔写真に重ねる工夫などが見られる。もうひとつ、モチーフとして大事にされたのが、劇中で登場する“メルシー体操”なる不思議な運動。

「チラシやポスターの写真ビジュアルだけでなく、寄藤文平さんにイラストを描いてもらい、パンフレットの見返しなどに掲載しています。DVDパッケージには可動式の人体模型まで同梱させました」

そのように語りながら、さまざまな媒体を紹介してくれる大島さん。膨大なアイテム数にはあらためて驚かされる。冊子、ノベライズ本、CD、DVDなど、ひとつの映画に関する仕事だけでも手がけるものは数限りない。
「確固たるイメージの共通項を持たせつつ、少しずつビジュアルを変化させています。作るものが非常に多岐にわたっている場合、一見すると大変そうに感じられるかもしれませんが、それこそが映画の仕事の醍醐味です」


肝心なのは最初のハードル設定



とはいえ数多くの媒体で異なる試みを提案し、実現させていくことは簡単な作業ではないはずだ。これ以上ないほどにアイデアを求められるため、終盤には燃え尽きてしまっても不思議はない。だが、それでも自らの発想を形にできるチャンスが増えるのはクリエイターとして本望のようだ。

「“このようなことをやりたい”と考えたとしても、実際には納期や予算の都合で達成できないケースも多い。けれども、作るものが多ければ、別のアイテムで実現できる可能性はある。それら途中で断念したアイデアを自分の中で暖めておけば、またどこかで提案することもできますしね」

そこで重要となるのがクライアントへの提案の仕方。大島さんは「最初のハードルを低くしてはいけない」との信条を持つ。制作スタッフに対しても、その考えを浸透させている。
「勝手に遠慮してしまって“このくらいが限度だろう”と決めつけてはいけない。最初に自分のアイデンティティ──これくらいのレベルを目指している──をガッチリ提示しておくことが大切です。そうしないと、実際に形づくる過程で、できることが減っていき、大切なものが何ひとつ残せなくなりかねませんからね」
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)


次週、第3話は「現代美術の展覧会グラフィック」について伺います。こうご期待。



●大島依提亜(おおしま・いであ)
1968年栃木県生まれ。東京造形大学デザイン学科卒業。映画、展覧会のグラフィックを中心に、ファッションカタログ、ブックデザインなどを手がける。近作の仕事としては『2クール』(日本テレビ)、『百万円と苦虫女』(日活)、「かもめ食堂」(メディア・スーツ))、「めがね」(日活)など

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