第2話に引き続き、大島依提亜氏によってデザインされた作品を紹介し、その制作過程における思考のプロセスに迫る。第3話では、東京オペラシティアートギャラリーで開催された「アートと話す アートを話す」のフライヤー、インビテーションなどを紹介。
第3話
現代美術の展覧会グラフィック「アートと話す アートを話す」
「話す」を「吹き出し」で表現
ダイムラー・クライスラーの収蔵コレクションを使用した展覧会「アートと話す アートを話す」。ここで披露された作品は、総勢約50人ものアーティストの手によるもの。大島さんが、この展覧会で手がけたのはフライヤーやポスター、インビテーションなど。そこでグラフィックのモチーフとしてピックアップされた「吹き出し」はいうまでもなく、展覧会タイトルの「話す」に触発されたものだ。
「現代美術について語ると言っても、きっとさまざまな視点がありますよね。そこで、印刷する材料には厚みがあるものを用いてみたり、たくさんの吹き出しを並べて饒舌な雰囲気を演出したりと、同じ吹き出しを使ったとしてもアイテムごとに少しずつイメージを変化させました」
フライヤーで必見なのが、欧文テキストに見られる工夫だ。たとえば「O」の文字は、吹き出しのような面白い形に加工され、これらはフォント化して使用されている。
「Q数が小さい部分は、加工した“O”だと“Q”と区別できないので、ノーマルな書体を使用しています。つまり、文字サイズによって書体を使い分けているのです。このような媒体でも文字の与える印象は重要なので、小さいQ数での可読性と大きいQ数での独自性を考慮しつつ書体を選び、場合によっては今回のように2パターンのフォントにカスタマイズします」
「好き」に支えられている仕事
展覧会関係のアイテムは、映画の仕事と共通するものも多いが、一般的に制作される順序は異なる。映画は早い段階で試写状を作成するのに対し、展覧会のインビテーションはカタログやチラシなどの後で作るケースが多いようだ。
「展示される新作が会期の直前に完成することもあります。複数名によるグループ展では作家それぞれで作風も異なります。そこで訴求すべきは、特定の作家の作風ではなく、展覧会自体のアイデンティティ。早い段階で、それを何とかして把握しなければならない。そのためにはキュレーターと密にコミュニケーションをとることが重要となります」
やがて会期が近づくにつれて、より展覧会の全体像が明確になる。フライヤーとインビテーションを手がける場合には、制作時期の違いにより、それぞれを手がける時点での展覧会に対する理解度は異なってくる。しかし初期に作ったものが、開催直前のアイテムと比べて見劣りするようなことは決してない。
「途中でのイメージのブレは、そのまま“バリエーション”に繋がるものです。それはクオリティの優劣ではない。イメージが固まりきっていない過程での雑音のようなアイデアをも取り込むことで、むしろラインナップ全体に重層感を付加できると考えています」
イメージを確立する過程で、大島さんは自らの知識を総動員しながら方向性の把握に努める。なかには容易には理解の及ばない展覧会の仕事も少なくないが、普段から色んなアートに触れることで、アートに対する造詣を深める努力は怠らない。そんな大島さんは「やはり映画と同様に、個人的にも“現代美術が好き”なことが、この仕事をする上で大きく役立っている」と考えている。
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
次週、第4話は「シリーズ2冊目のブックデザイン」について伺います。こうご期待。
●大島依提亜(おおしま・いであ) |