第3話 特色4色で刷られた写真集 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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第2話に引き続き、マッチアンドカンパニーの町口覚氏によってデザインされた作品を紹介し、その制作過程における思考のプロセスに迫る。第3話では、佐内正史氏によって撮影された独特な色味の写真集「Trouble in Mind」を紹介。



特色4色で刷られた写真集「Trouble in Mind」



ふたつのレーベルから同時リリース


人気写真家、佐内正史氏の新しい写真集が刊行された。町口さんは、佐内氏のデビュー作『生きている』(青幻舎)の造本・構成を手がけて以来、氏とも親交が深い。
「マッチアンドカンパニーは、3年前に書籍レーベル“M”を立ち上げて、写真集や画集の発行・発売をはじめました(http://bookshop-m.com/)。『Trouble in Mind』は、その“M”と佐内のレーベル“対照”から仕様を変えて同時刊行しました」


“M”の仕様は、糸縢上製本のタイトバックを採用し、黄色のクロス表紙に書名が箔押しされた。町口さん曰く「これぞ写真集」の風貌だ。本文ページには計86点の作品が、1見開きに1点ずつ配置されている。右綴じであるため、写真を掲載したのは紙をめくったときに目につきやすい左ページだ。

「片ページだけに印刷することで、写真を集中して見ることができるはずです。ノドも広く空けています。この余白によっても、読者が写真にグッと入り込めると思います」



デザイナーにとって重要な「試合」の相手



収録作品の多くは、『生きている』以前に撮影されたもの。プリントの加減で、ある種の絶望感すら漂わせる色味が特徴的だ。印刷は、通常のCMYKプロセスインキではなく、マゼンタ、イエロー、オレンジ、ブラックの特色を使用し印刷再現された。

「サンエムカラーのプリンティングディレクター・谷口倍夫さんと相談のうえ使用インキを決めました。色校正を見る際は、なかなか苦労しましたね。通常の4色分解であれば各インキのバランスが読みやすいのですが、特色4色を使用しているので、どのインキを調整すればいいのか判断しがたいんです」

だが、実際の工程で、町口さんから色修正を指示することは、ほとんどなかった。それは幾度となく仕事をともにしてきた谷口氏が、的外れな色校正を出さなかったからだ。そのような「阿吽の呼吸」を、町口さんはユニークに表現する。

「印刷や製本のスタッフが、いつも一緒に仕事をしている方たちばかりなので心配はありませんでした。しかし、こちらが“あ”と言ったときに、必ずしも同じ“あ”を返してはくれません。たとえば“う”で返してくる場合もある。意外に、その“う”が新しい発見に繋がります。決して僕のスタッフは“な”行や“は”行など、ピントはずれな返事はしてこないんです」
信頼の置ける人たちとの高い次元でのやり取り。そんなコラボレーションによって町口さんのデザインは形をなす。だからこそ氏は一緒に仕事をする相手を重視する。
「デザイナーはアーティストではないので、相手がいない仕事はできません。デザインって、そういうものなんですよね」
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)


次週、第4話は「デザイナー主導の紙見本帳」について伺います。こうご期待。



●町口覚
1971年東京生まれ。デザイン事務所マッチアンドカンパニー主宰。95年、同世代の写真家40人の作品を収録した写真集『40+1 PHOTOGRAPHERS PIN-UP』を製作発表、以来、日本の写真界をリードする写真家たちの写真集を数多く手がける。また映画や演劇のグラフィックデザイン、書籍の装丁なども数多く手がける。05年、写真集レーベル「M」を開始、書籍販売Webサイト「book shop m」(http://bookshop-m.com/)を運営。

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