第2話 素材感に溢れた制作物 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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第1話に引き続きパンゲアの青木康子氏によってデザインされた作品を紹介。その制作過程における思考のプロセスに迫る。第2話では「アフリカン・アメリカン・キルト」の展覧会にまつわるアイテムからアナログ感に溢れたカタログを紹介。

第2話
素材感に溢れた制作物
「アフリカン・アメリカン・キルト─記憶と希望をつなぐ女性たち」


ひとつのアイテムにふたつの用途


パッチワークやアップリケなどの技法が知られ、趣味で作品づくりを楽しむ人も多いキルティング。地方によって特色があり、なかでもアメリカ南部のアフリカ系女性の手によるものは「アフリカン・アメリカン・キルト」と呼ばれている。それらを集めた展示が2007年に資生堂ギャラリーで催された。

「カタログや招待状、会場の看板など、一連の制作物を手がけました。会場では、一般女性が生活のために作ったキルトが紹介されました。ハワイアン・キルトなどは比較的に有名ですが、今回のようなものは私も初めて目にしましたし、ほとんど知られていないように感じました」

告知のためには、何より「こんなキルトが存在する」と知らせることが必須。そこで青木さんが考えたアイデアは、会場で販売するカタログをポストカード・ブックにすることだった。使ってもらうことで、より広く世間に知らせていくアイデアだ。

「出展されたキルトは、ポストカードのアートワークにピッタリのかわいいものばかりでした。また、このキルト自体が物を大切にするリサイクルの意識を思わせるものだったので、単なる本ではなく何らかの形で再利用できるものにしたいとの考えが働きました」


キレイすぎる仕上がりはNG


制作にあたっては、1ページごとに剥がしやすいことはもちろん、表紙の片面だけを本文と接着することで背を開きやすい製本様式を採用。使いやすさにもこだわった。

「さらに布製のカバーも付けたいと考えました。キルトの持っている暖かな手触りを感じさせるためです。こちらもブックカバーとして再利用できるよう、一般的な文庫本のサイズに合わせています」

端を切りっぱなしに処理したり、オレンジの糸で縫ったりする指定を入れてサンプルの制作はスタート。タイトル文字も、判子を押して作成することに決めた。ところが最初の段階では青木さんのイメージとは異なるものが工場から上がってきた。

「縫い線や裁ち具合などが、ていねいすぎたのです。製造業者の立場からすれば、美しく整っていないと商品としてNGだったのでしょう。しかし、私はもっとキルトのような手作り感を出したかったのです。先方にはニュアンスを伝えるために、“ワインを呑みながら作ったような感じにしてほしい”などと頼んだりもしました(笑)」

このような手作りの雰囲気と素材感は招待状にも踏襲されている。紙質へのこだわりもさることながら、注目は封筒に飾られた縫い目のライン。驚くべきことに、実際の糸で縫ってある。

「封筒を印刷する際に、糸と同じ色で縫うための目印も刷っておきました。そのガイドに合わせて、ギャラリーのスタッフたちが手縫いしてくれたのです。小部数だからこそ実現できたわけですが、それでも大変手がかかっているものなんです」

(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)


[プロフィール]
あおき・やすこ●アートディレクター。1988年からサイトウ・マコトデザイン室に在籍。1994年に設立。2001年有限会社パンゲア設立。美術展のグラフィックやアパ レルブランド「LOWRYS FARM」のクリエイティブディレクション、その他、広告、パッケージ、CM、ロゴなど分野を問わず幅広く活動。NY ADC国際展・銀賞、ブルーノ国際ビエンナーレ・入賞、東京タイポディレクターズクラブ・TDC賞入賞、日本パッケージデザイン大賞2005・入選など受 賞歴も多数。



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