第1話に引き続き、新村則人氏によってデザインされた作品を紹介し、その制作過程における思考のプロセスに迫る。第2話では、毎年実力派デザイナーを交えて生み出されてきた「GRAPHIC DESIGN IN JAPAN」の2008年版に注目する。
第2話
デザインにおける決断のタイミング
「GRAPHIC DESIGN IN JAPAN <2008>」
撮影条件と素早い判断
日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)が発行する「GRAPHIC DESIGN IN JAPAN」は、「JAGDA年鑑」としてデザイナーにはなじみ深い一冊。毎年、異なるデザイナーがブックデザインを担当しており、2008年版ではその役回りを新村さんが務めた。
「デザイナーが手にする本なので、さすがにプレッシャーはありました(笑)。僕は担当するにあたって、ふたつのポイントを重視しました。ひとつは読みやすくすること、もうひとつは店頭で埋もれないように目立たせることです」
中面に関しては、あらかじめ作品の掲載順やサイズが決められていた。そのため、事前に用意したフォーマットに落とし込むことで、ある程度レイアウトは形作られたものの、フォーマット通りでは美しく収まりきらない不定形の作品も少なくなかったようだ。そこでは、見開き単位でていねいにバランスを見ながら調整するといった苦労もあった。
「逆にジャケットなどの外回りについては“こうしなければいけない”との縛りはありませんでした。ただ、自由なだけ悩みどころも多かったんです。いろいろな人から意見を聞きながら考え続けました」
唐草模様からタンポポへ
そのような中、新村さんが装丁のキーとして選んだ色はイエロー。前述の2つのポイントのうち、後者から生まれた発想だ。それに基づき最初は唐草文様のグラフィックを用いて試作を行った。
「その試作品を協会の方に見ていただいた際に“なぜ唐草?”と聞かれました。もちろん自分なりの理由はあったのですが、僕は即答できなかった。そこで、あらためて本当にそれで良いのか検討したのです」
「タンポポにした理由は、綿毛の広がっているところが、現代におけるデザインの多様性を想わせるからです。また僕ならではの“自然”の要素が含まれることも影響しています」
唐草模様の試作はかなり作り込まれており、その案をスッパリ捨て去ることには勇気が必要とされたはずだ。しかし、その即断がなければ新たなアイデアは実現しなかった。なぜなら季節はすでに5月。タンポポの時期は最後を迎えかけていたからだ。
唐草模様の試作はかなり作り込まれており、その案をスッパリ捨て去ることには勇気が必要とされたはずだ。しかし、その即断がなければ新たなアイデアは実現しなかった。なぜなら季節はすでに5月。タンポポの時期は最後を迎えかけていたからだ。
「金曜に即日OKをもらい、翌日には屋外で撮影しました。大量のタンポポは合成ではなく本物。黄色のボードに等間隔で格子状に穴を空け、現場で集めたタンポポをズラリと挿していって撮影しました。すでにタンポポが少なくなっている時期だったので、タイミング的には本当に滑り込みだったんですよね」
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
次週、第3話は「広がる展開への期待」について伺います。こうご期待。
新村則人(しんむら・のりと) |