第2話に引き続き、新村則人氏によってデザインされた作品を紹介し、その制作過程における思考のプロセスに迫る。第3話でピックアップするのは、山口県下関市の魚「あんこう」を特産としてアピールするプロジェクト。その告知ポスターを中心に話を伺った。
第3話
広がる展開への期待
「下関あんこう」
漁業の分野に足を踏み入れる
今回紹介するのは、漁業に関するプロジェクト。新村さんは「新村水産のデザインをしていたこともあり、漁業だからといって特に戸惑いはなかった」と語るが、端から見ると異色の仕事に感じてしまう。
「このプロジェクトのミッションは、下関あんこうの認知度を高めること。仕掛人は、あんこうを提供している料亭のご主人です。彼女が経済産業省に申請し、平成19年度の補助事業として認可されました。その一貫として僕がポスターなどのデザインを担当することになったのです」
ポスターは下関の街中や店頭で貼られたほか、新聞広告やバスの車内広告などにも展開された。B全判2枚のうち、1枚をグラフィックのみ、もう1枚を文字のみで構成したのは新村さんのアイデアによるところだ。そして、いずれも第1話で紹介した無印良品のポスターと同じく、プリントゴッコを用いた技法を採用している。
「ただ、こちらでは特色インキは使用していません。最初は特色を指定したのですが、無印のとは違ってクラフト紙ではなかったことも影響したのか、色校正の段階で、あっさりしすぎな印象を受けたのです。そこで急遽4色分解用のデータを用意し、通常のプロセスインキで刷り直しました。やはり、印刷してみて初めて気づくことは多いんですよね」
デザインの余地はたくさんある
あんこうが愛らしく表現されたビジュアルは好評を得た。このプロジェクトでは、現在のところ販売商品も「あん肝のみそ漬け」が1つで、そのパッケージにも同じイラストが採用されているが、新村さんは「本当にこれがベストか」の検討を怠らない。
「パッケージを作成した際には、生産ラインとの兼ね合いもあり、紙を媒体とすることが条件となりました。そのため、現在のデザインに落ち着いていますが、あん肝なのでもう少し高級感があってもいいのかもしれない。素材やビジュアルなどに改良の余地はあると考えています」
そのほか新村さんは、包装紙や紙袋などでも工夫ができないか考察。現状では商品が1つだけだが、より展開を広げることも不可能ではない。デザイナーの立場から考えられることは無数にある。
「具体的なレイアウトはデザイナーの重要な仕事ですが、ターゲットや目的を考えることも重要です。もちろん広告だけが認知度や売り上げを向上させるわけではなく、営業や販売などの地道な努力こそが根幹ですが、僕もデザインの側面からお手伝いをしたい。このプロジェクトを充実させて、下関あんこうを広めることは、すでに僕の夢でもあるのです」
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
次週、第4話は「自分らしさを出せる仕事」について伺います。こうご期待。
新村則人(しんむら・のりと) |