第4話 自分らしさを出せる仕事 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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新村則人氏によるデザイン術を紹介してきた本連載。最終回となる第4話では、新宿観光協会のイベント「森の薪能」の告知ポスターに注目。新村さん自身の考える「自分らしいデザイン」についても迫る。


第4話
自分らしさを出せる仕事
「森の薪能」


デザイナーにとっての個性の定着


印刷物などのデザインには、大きくふた通りの道筋がある。ひとつはクライアントの要望に合わせ世間に求められるものを追求したもの。もうひとつは作り手の個性が存分に発揮されたもの。どちらも正解だし、ふたつを兼ね備えた作品だって珍しくない。「森の薪能」の仕事はそのような好例だ。

「森の薪能は新宿御苑で開催されたイベントで、クライアントは新宿観光協会、メインの協賛として伊勢丹も名を連ねています。毎年開催されるイベントなのですが、僕がポスターを担当したのは昨年が初めてです」

用紙はヴァン・ヌーボ、マット調の金の特色インキを大胆に用いている。中央には印象的なビジュアルを配置、扇子の扇面が葉っぱで構成されたユニークな写真だ。

「下地となった扇子は借り物でした。さすがに上に葉っぱを置いて撮影するのは無理だったので、後から合成しています。ただし葉っぱの部分は、実物を並べて1枚絵として撮影した写真です」

「自然の素材を使い、なにかギミックを凝らしながらひとつのビジュアルを構成することが自分らしさかもしれない」と分析する新村さん。今回のポスターは、まさにその通りの仕上がりだ。だが完成までには意外な経緯がある。

「実は、最初のプレゼンテーションでは、松や能面、炎の写真などを組み合わせ、いかにも薪能らしいポスターも提示したのです。しかし、事前に僕の作品集を見ていた総合プロデューサーに、新村さんらしいデザインが良いと、今回のアイデアを採用していただいたのです。これには僕も感謝しています」

自分の「色」を認めてくれる仕事。それは、年を重ねるとともに「少しずつ増えてきた」そうだ。

「もちろん僕も、すべての仕事で個性を出すことに熱心なわけではありません。やはりケースバイケース。自分の作風を理解してくれるクライアントあってのものですが、やはり自分らしさを活かせる仕事は嬉しいものです」

一方では、個性が認知されることを拒むデザイナーも多い。自身のイメージが世間に浸透すること。それを新村さんはどのように感じているのだろうか。

「今のところはメリットが大きいですし、“まあいいか”と構えています。個性=マンネリと思われる可能性もあるので、どちらが良いか悩むこともありますが……。でも、いくつかのアイデアを出すと、ついついそのひとつが“葉っぱ”だったりするんですよね(笑)」(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)


「このアートディレクターに聞く」第32回新村則人さんのインタビューは今回で終了です。次回からはタイクーングラフィックスのお話を掲載します。




新村則人(しんむら・のりと)
1960年5月5日 山口県生まれ。1980年大阪デザイナー学院卒業後、松永真デザイン事務所、I&S/BBDOなどを経て1995年新村デザイン事務所設立。 1999年東京TDC銅賞、1999年及び2000年NY ADC銀賞、1999年、2000年、2001年及び2002年NY ADC銅賞、2000年JAGDA新人賞、2002年ブルーノビエンナーレ特別賞などの受賞歴がある。JAGDA、東京TDC、ニューヨークADC会員
http://www.shinmura-d.co.jp/

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