第4話 ADとしての在り方について | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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様々なジャンルで活躍するデザイナーの来歴をたどるシリーズ。今回は株式会社スロウの原大輔さんを取材し、アートディレクターとして活躍する今日までの足跡をたどりま


第4話 ADとしての在り方について



原大輔さん

渋谷区大山町のオフィスにて、原大輔さん


雑誌すべてにカンプを作る



──現在はもう、現場のデザインはあまりせずに?

原●そうですね。スタッフに振って、チェックする。その体制を青山に移ってから始めたんです。まだ株式会社になるちょっと前。それまでは株式にするメリットもあまりなかったし、代理店とガッツリやってなかったし。でも、そろそろ会社にしないと経理上の問題もありまして。で、今年5月から2期目なのですが、いまは案件ごとにチーフを立て、最初に全部カンプを作る。編集からラフを貰ったら、それをサムネールとして作り、全体を見渡しながらまとめるわけです。

──手間もかかるでしょう。

原●かかりますね。かかると言ってもスタッフなんですけど……。でも、やるからにはそこまでやらないと駄目。ラフはあくまでもラフですから。編集が何をやりたいか、ヒアリングした上で作っていかないとならない。僕ら最後のフィニッシュなので、着地点が見えないと、どんどん迷ってしまうから。材料も有りものだけで作るのは嫌ですね。写真を撮るにしても、あらかたカメラマンと話をしなければならない。結局、最初にカンプを作るのは、こっちで先手を打ちたいんですね。意識なく勝手に写真が撮られてくると、僕らはできないですよ。

──昔は「割り付け」と呼ばれてましたからね。

原●僕の中では「レイアウトさん」と言われるのが一番嫌。デザイナーであるってことが大前提にあるから。結局、編集者と共有しながやっていかないと、最後の数日だけでガッとやらされる。その防御的な意味もあります。あと、僕らも編集を知らないといけない。それは下の子の教育にもなります。構成、起承転結、モノの置き方……編集が何を言って何を伝えたいのか、僕らが理解した上でやっていかないと、ただの単純作業ですよ。その中で余計なものに悶々と葛藤するわけです。それをなるべく解消してあげたいな、と。大変だけど、書籍でもムックでも月刊誌でも全部カンプを作って、制限はありますが2回ぐらい検証してから編集に流しています。

──最近はレギュラー雑誌以外に、ムックの企画編集も手がけていますね。


原●ワークス・コーポレーションさんに「なにかやりませんか」と言われて、最初は雑誌内の企画を作ったんです。それを見て面白いと思われて「素材集だけどやってくれないか」と。世の中に素材集ってたくさんあるから「太刀打ちできるわけないじゃん」と思いつつ「僕らが考える素材を出せるならいいですよ」と答えたら「いいです」と。で、最初に『ドットライン』を作って、最近『マンガライン』を作りました。

──編集機能も兼ね備えたわけですね。

原●それって全部、基礎が「スチーム」なんです。あそこでやっていたことと同じで、僕ら全部、ゼロ出発の企画しかやってない。リニューアルは『DTPWORLD』と『バイシクル・ナビ』ぐらい。それでも企画から全部変えていきましたから。

──やはり、自分のカラーを出したい?

原●ADって立ち位置が難しくて、正直、偉そうな言い方になるけど編集長と同格だと思うんです。目線としては。編集長がCDならば、僕はADという携わり方。そのようにガップリ四つで組んでいかないと、なかなか雑誌ってできない。で、それは昔からの憧れだったんです。僕がエディトリアルを始めるときに、海外の雑誌はCDとADがいて、それが日本ではなんで成立しないのだろうか……と疑問に思って。昔はやられていたと思うけど、僕らが現場に入ったとき、そのシステムが薄くなっていた。表紙だけやったらADというのは「ちょっと違うだろう」って。雑誌だけではなくて、そこを突っ込んでいかないとダメなんじゃないかと、いまは全部その姿勢でやっています。

──アグレッシブですね。

原●いやいや、引く事も覚えましたよ。前はどんどん押してましたけど、歳もとったので(笑)。


『デザイン・アイデア素材集 DOT.LINE』『デザイン・アイデア素材集 マンガライン』

原大輔さんの仕事より
左/『デザイン・アイデア素材集 DOT.LINE』Slow.inc著(ワークスコーポレーション刊/3,675円)
右/『デザイン・アイデア素材集 マンガライン』Slow.inc著(ワークスコーポレーション刊/3,675円)


コミュニケーション=人との接し方は大事



──ざっと振り返りましたが、今後は?

原●漠然としてますが「本質」を掴みたいんですね。当たり前のことをやりたい。いま当たり前のことが当たり前ではなくて、誰かの都合でダメになるとか多いでしょ? 代理店さんと付き合う時でも、クライアントに接する機会がなかなかないわけです。接しても中間で壁を作られてしまう。結局、クライアントが何をやりたいのか、ちゃんと話ができていない。気持ち悪い感じで終わって、モヤモヤがたまるんです。で、出来上がったものに対してそんなに満足しているわけでもなく「いいのかな、これで……」というもどかしさがある。

──そこをもっと近づきたい?

原●近づくというか、ちゃんと話をしようよ、と。クライアントさんに訊いたら、みんな参加したがっているんです。一緒に作りたいという意識が隠れている。そこで僕が介添え役として話をしてあげれば、最後にバーンとひっくり返ること、そんなにないと思うんですよね。結局、コミュニケーションが希薄なだけで、いろいろ都合はあると思いますが、そこがちゃんとできていない。デザインする以前に、僕らがすることが多くなっているんです。その仕事が、僕らADの仕事になると思う。環境整備しないと、いつまでたってもデザイナーは悶々としなくちゃならないから。

──わかりやすい言葉で言うと「潤滑油」みたいな。

原●うんうん。そういう盾になってあげないと。最近、デザイナーになりたいっていう子も年々減って来ているし、デザイナーがゴリ押しで「この用紙」「この印刷」といっても、客はそんなこと求めていないんですよ。日本の端っこにいる田舎のじいさん、ばあさんや子供たちがそれを嬉しがるのかと言えば、それは違う。東京だけなんじゃないかな。むしろ僕らデザイナーの自己満足でしかない。そういうところではないところでやりたいなって思うんです。

──もっとシンプルなところで勝負したい?

原●こだわられる方はそれで全然構わないんだけど……僕はデザインをする前に、ちゃんとプロセスを経れば自ずとデザインができていると思うんです。柳本浩市さんともそういう話をしたことがあって「これからは本質の時代だよ」と。そこにすごくシンパシーを感じるんです。プロセスもデザインの一貫ですから。で、僕ら世代でそう考えている人、いっぱいいると思うんです。仕組み作りからやっていかないとダメになるって。

──再構築の時代ですかね。

原●それって当たり前のことをやりたいだけなんです。僕らに「安心してデザインやらせてよ」ということ。疑心暗鬼の中で悶々とやるだけで「俺は認められない」と思うのは、もちろん若い時はいいんだけど……それよりもちゃんと聞く耳を持ってあげる、言うべきことは言うという姿勢でやっていかないと。うやむやで終わってしまうのが今の現状なんじゃないかな。僕らの満足度、顧客としての満足度、買う側の満足度って「どうなの?」と思うんです。だから、身近に編集者の話を聞いて、CDの機能も担うような仕事の姿勢でいきたいなと思っています。

──では、最後にアドバイスを。

原●僕は泥臭くやってきたので参考にならないかもしれませんが……とにかく問題意識は持っていたほうがいい。多分「なんとなーく」が多いと思うから。なんでもいいから怒りがあったほうがいいし、それは世界情勢でもデザインのことでもいい。けど、やっぱりコミュニケーション。僕ら、デザイナーって話さなくてもいいって思われてるところがあると思うんです。意外とそれじゃダメで、学生の制作はそれでよくても、いろんな人と対峙していかないとならないですから。人との接し方というものは大事。

──結局、人間づきあいですよね。

原●ええ。だから、いろんな経験したほうがいいと思う。デザイナーだからデザインだけやるのではなく、いろんなものに好奇心がないとならない。ADやるとなると、その蓄積が後で出てくるんです。若い人なら、ガムシャラに突っ走っていいと思いますよ。みんなビビリながらやっているから。失敗を恐れる人が多いのかな……。恐れなくていいし、失敗したら別の仕事で食えばいいんだから(笑)。

──ハハハ。

原●でも、デザインには可能性があるでしょう。すべての生活において関連づけられる仕事なので。だから、もっと広い視野を持ってほしい。俺もそれを学生の頃から意識してたら、もっと有名になったかもしれないんだけどな(笑)。


今回で「これがデザイナーへの道」第29回・原大輔さんのインタビューは終了です。

(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)


原大輔さん

[プロフィール]

はら・だいすけ●1971年長崎県生まれ。明治大学商学部卒業後、インテリアデザイン事務所に就職。その後、デザイン事務所勤務を経て独立。フリーランス集団「スチーム」に参加した後、自身が主宰する「スロウ」設立。現在、エディトリアルデザインを中心に活動中。http://www.s-low.com




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