
第2回目となる今週も、引き続き水野学氏のアートディレクション術に迫る。今回取り上げる作品は展覧会『東京―ベルリン/ベルリンー東京』のポスター。一見すると複雑、しかし「シンプルに伝える」ことを目的にデザインされた本作品の制作コンセプトに迫る。
いかに情報を伝達させるか。
――『東京―ベルリン/ベルリンー東京』展のコンセプトについて教えてください。
水野●これは2005年に森美術館で開催された展覧会用です。展覧会のコンセプトは、日本とドイツの文化・芸術交流の軌跡を19世紀末から辿り、美術がデザインに枝分かれした象徴的な作品を展示することです。
「デザインと美術の融合」というテーマには、個人的にも大変興味がありました。その内容をもとに、美術とデザインの違いや境界について考えたのですが、「美術はデザインがないことには多くの人に伝わらない」ということに気がつきました。例えばモナリザの絵。本物の絵は見たことがなくても、誰もが知っていますよね? それは、広告、本、雑誌、インターネットなどのメディアを介して見ているからなのです。
――つまり、美術が人に伝わるときには、何かしらデザインされた媒体を介している、ということですか?
水野●そうです。だから、このポスターでも実際に展覧会で発表される作品をグラフィックの素材として使用し、「美術を包括しているものはデザインなんだ」という見せ方を試みました。あと、美術館のポスターには精度が低いものが多いと感じていたので、例えば100年後にどこかの美術館に飾られるくらいクオリティの高いポスターにしようとも思いました。もちろん、広告として機能させることは前提です。でも、クオリティと機能の両方を高めることは決して容易なことではありませんけどね。
――その容易じゃない課題を、どのようにクリアしたのでしょうか。
水野●僕は、常にいかに情報を伝達させるかをポイントとしています。その方法のひとつがシンプルに表現すること。例えばNTTドコモのiDのネーミングや広告も、シンプルだからこそ人の印象に残る。「iDって知ってる?」と言葉にしやすいですよね。そうやって人から人へと伝搬していくわけです。
この広告は 「全然シンプルじゃない」と思われるかもしれませんが、ここまで複雑に表現すると人間はひとつひとつの部分で捉えず、「ごちゃごちゃした黄色と赤と黒のビジュアル」と認識するのです。あえて複雑に表現することで記号化するのも、シンプルにする手法のひとつ。ちなみに、黄色、赤、黒は、ドイツの国旗と同じ配色です。
また、このポスターには 「お客さんに注目してもらい足を運んでもらう」という命題があります。どんなお客さんが足を運んでくれるのか考えたのですが、展覧会の内容がコアなので、デザインにまったく興味のない人を呼び込むのは困難だと想像しました。そこで、メインターゲットはデザインに興味がある人や美大生と設定しました。
――ターゲットを明確に絞り込んだ場合のメリットは何でしょうか?
水野●こういった広告を打ち出せば、ターゲットの多くが手に取るデザイン誌などでも紹介されるわけです。それが二次媒体となり集客につながる、と考えました。だからポスターの完成度を高めて、デザイン関係者に注目されることを意識したのは事実です。また、すでにこの展覧会は終了していますが、MdN Interactiveで紹介されることによって、「森美術館では面白い展覧会を開催している」とも広まりますよね。ちなみにこのポスターは、国際広告賞「The One Show」で金賞を受賞しました。
(取材・文:山下薫 人物写真:谷本 夏)
次週、第3話は、「デザインの力で世の中を動かす」についてうかがいます。こうご期待。

第2話 シンプルに表現することで伝達する
いかに情報を伝達させるか。
その方法のひとつがシンプルに表現すること。
![]() 『東京-ベルリン/ベルリン-東京展』(森美術館)ポスター |
水野●これは2005年に森美術館で開催された展覧会用です。展覧会のコンセプトは、日本とドイツの文化・芸術交流の軌跡を19世紀末から辿り、美術がデザインに枝分かれした象徴的な作品を展示することです。
「デザインと美術の融合」というテーマには、個人的にも大変興味がありました。その内容をもとに、美術とデザインの違いや境界について考えたのですが、「美術はデザインがないことには多くの人に伝わらない」ということに気がつきました。例えばモナリザの絵。本物の絵は見たことがなくても、誰もが知っていますよね? それは、広告、本、雑誌、インターネットなどのメディアを介して見ているからなのです。
――つまり、美術が人に伝わるときには、何かしらデザインされた媒体を介している、ということですか?水野●そうです。だから、このポスターでも実際に展覧会で発表される作品をグラフィックの素材として使用し、「美術を包括しているものはデザインなんだ」という見せ方を試みました。あと、美術館のポスターには精度が低いものが多いと感じていたので、例えば100年後にどこかの美術館に飾られるくらいクオリティの高いポスターにしようとも思いました。もちろん、広告として機能させることは前提です。でも、クオリティと機能の両方を高めることは決して容易なことではありませんけどね。
――その容易じゃない課題を、どのようにクリアしたのでしょうか。
水野●僕は、常にいかに情報を伝達させるかをポイントとしています。その方法のひとつがシンプルに表現すること。例えばNTTドコモのiDのネーミングや広告も、シンプルだからこそ人の印象に残る。「iDって知ってる?」と言葉にしやすいですよね。そうやって人から人へと伝搬していくわけです。
この広告は 「全然シンプルじゃない」と思われるかもしれませんが、ここまで複雑に表現すると人間はひとつひとつの部分で捉えず、「ごちゃごちゃした黄色と赤と黒のビジュアル」と認識するのです。あえて複雑に表現することで記号化するのも、シンプルにする手法のひとつ。ちなみに、黄色、赤、黒は、ドイツの国旗と同じ配色です。
また、このポスターには 「お客さんに注目してもらい足を運んでもらう」という命題があります。どんなお客さんが足を運んでくれるのか考えたのですが、展覧会の内容がコアなので、デザインにまったく興味のない人を呼び込むのは困難だと想像しました。そこで、メインターゲットはデザインに興味がある人や美大生と設定しました。 ――ターゲットを明確に絞り込んだ場合のメリットは何でしょうか?
水野●こういった広告を打ち出せば、ターゲットの多くが手に取るデザイン誌などでも紹介されるわけです。それが二次媒体となり集客につながる、と考えました。だからポスターの完成度を高めて、デザイン関係者に注目されることを意識したのは事実です。また、すでにこの展覧会は終了していますが、MdN Interactiveで紹介されることによって、「森美術館では面白い展覧会を開催している」とも広まりますよね。ちなみにこのポスターは、国際広告賞「The One Show」で金賞を受賞しました。
(取材・文:山下薫 人物写真:谷本 夏)
次週、第3話は、「デザインの力で世の中を動かす」についてうかがいます。こうご期待。

[プロフィール]
みずの・まなぶ●1972年東京生まれ。茅ヶ崎育ち。96年多摩美術大学美術学部デザイン科卒業後、パブロプロダクションに入社。広告制作会社ドラフトを経て1999年にgood design companyを設立。主な仕事に、「KIRIN903」(2004年)の商品コンセプト、企画・商品開発、広告展開、永昌源「杏露酒」のCMおよび広告制作、NTTドコモのクレジットサービス「iD」のブランディングなどがある。05年NY ADC入賞。05年One Show Silverを3部門で受賞。




