第3回目で取り上げる作品は、水野氏が初期からブランディングを含めてデザインに携わってきたラーメンズの『第15回公演ALICE』のポスター。デザインの力によって商品のみならず、そのファンをも魅力的に見せるアートディレクション術に迫る。
面白いデザインではなく、
――ラーメンズ『第15回公演ALICE』のポスターの制作コンセプトについて教えてください。
水野●公演名の「ALICE」は、『鏡の国のアリス』のオマージュから生まれたネーミング。そこから「鏡」というキーワードが生まれました。僕は鏡を見ていると、「向こう側にもう一人、別の自分がいるんじゃないか」と感じるんです（笑）。そこで、このポスターでは文字を逆さまにして、文字が逆さまに見えている僕らの世界が鏡の中で、文字が普通に見えている別世界の存在を表現したのです。どこか不思議な感覚を出したかったのです。
――逆さの文字では、何のポスターかわかりにくいといった懸念はありませんでしたか？
水野●たしかに、情報の伝達という意味では、逆さまの文字では機能しませんが、「逆さまのポスター」という認知はされるはずです。情報を伝達するためには、図柄をシンプルにするだけでなく、受け手にシンプルに認知させることも大切なポイントです。
――他にもデザイン面で工夫したことはありますか？
水野●『鏡の国のアリス』という本は、1871年に書かれた古い本ですので、ポスターでも活版印刷を取り入れたり、紙自体に色を付けて劣化したように見せることで、古き良き味を表現しました。
――このポスターに使われている紙はなんですか？
水野●これはスウェーデンのホワイトナイトという紙。日に焼けて劣化していく特性があります。けれども、このポスターでは最初から劣化しているかのように印刷したんですけどね（笑）。ちなみにgood design companyの封筒などにも、この紙を使用しています。
――このポスター以外にも、ラーメンズの仕事を数多く手がけてらっしゃいますよね。
水野●ラーメンズの仕事は、ブランディングからしっかり手がけている仕事のひとつです。でも、ラーメンズの仕事の面白さは、デザインではありません。だいたい、面白いデザインなんて僕じゃなくても、誰にでもできると思っていますから。
――デザインじゃない、どの部分に面白さを感じているのですか？
水野●商品が売れることや人を感動させること、それによって世の中が動くことですね。人の役に立てたと少しでも実感できると嬉しいですよね。それがこの仕事の面白さだと思っています。
――ラーメンズのブランディングで大切にしていることは？
水野●彼らのファンを生み出すグラフィックであること。そしてラーメンズのファンをもかっこよく見えるようにブランディングすることです。ブランディングに際しては、ラーメンズの小林賢太郎と話し合って方向性を定めています。
小林賢太郎は僕と同じ多摩美術大学出身。彼もアートやデザインに強い関心があるのです。僕らは、デザインは生活を豊かにしてくれるものだと思うのですが、世の中にはその価値がまだまだ浸透していない。そのことは、小林も僕も悲しいことだと思っています。見た目に優れてはいても、実は機能していないクオリティが低いデザインも多いですしね。
デザインの価値を啓蒙する意味でも、とにかく、ラーメンズ関係の制作物のクオリティを高く保つことは絶対条件です。実際、ラーメンズの公演は大変な人気で、告知と同時にチケットはソールドアウトします。手に入らないチケットは広告できないから、このポスターでも公演内容を詳細に伝えることよりも、グラフィックのかっこよさを優先できるのです。ラーメンズという商品に力があるのが大前提ですが、ブランディングが成功しているからこそこうした好循環が生まれるのだと思います。
（取材・文：山下薫 人物写真：谷本 夏）
次週、第4話は、「特技としてのデザイン」についてうかがいます。こうご期待。
第3話 デザインの力で世の中を動かす
面白いデザインではなく、
デザインで世の中を動かすことに興味がある。
 ラーメンズ『第15回公演 ALICE』ポスター |
水野●公演名の「ALICE」は、『鏡の国のアリス』のオマージュから生まれたネーミング。そこから「鏡」というキーワードが生まれました。僕は鏡を見ていると、「向こう側にもう一人、別の自分がいるんじゃないか」と感じるんです（笑）。そこで、このポスターでは文字を逆さまにして、文字が逆さまに見えている僕らの世界が鏡の中で、文字が普通に見えている別世界の存在を表現したのです。どこか不思議な感覚を出したかったのです。
――逆さの文字では、何のポスターかわかりにくいといった懸念はありませんでしたか？
水野●たしかに、情報の伝達という意味では、逆さまの文字では機能しませんが、「逆さまのポスター」という認知はされるはずです。情報を伝達するためには、図柄をシンプルにするだけでなく、受け手にシンプルに認知させることも大切なポイントです。
――他にもデザイン面で工夫したことはありますか？水野●『鏡の国のアリス』という本は、1871年に書かれた古い本ですので、ポスターでも活版印刷を取り入れたり、紙自体に色を付けて劣化したように見せることで、古き良き味を表現しました。
――このポスターに使われている紙はなんですか？
水野●これはスウェーデンのホワイトナイトという紙。日に焼けて劣化していく特性があります。けれども、このポスターでは最初から劣化しているかのように印刷したんですけどね（笑）。ちなみにgood design companyの封筒などにも、この紙を使用しています。
――このポスター以外にも、ラーメンズの仕事を数多く手がけてらっしゃいますよね。
水野●ラーメンズの仕事は、ブランディングからしっかり手がけている仕事のひとつです。でも、ラーメンズの仕事の面白さは、デザインではありません。だいたい、面白いデザインなんて僕じゃなくても、誰にでもできると思っていますから。
――デザインじゃない、どの部分に面白さを感じているのですか？ 水野●商品が売れることや人を感動させること、それによって世の中が動くことですね。人の役に立てたと少しでも実感できると嬉しいですよね。それがこの仕事の面白さだと思っています。
――ラーメンズのブランディングで大切にしていることは？
水野●彼らのファンを生み出すグラフィックであること。そしてラーメンズのファンをもかっこよく見えるようにブランディングすることです。ブランディングに際しては、ラーメンズの小林賢太郎と話し合って方向性を定めています。
小林賢太郎は僕と同じ多摩美術大学出身。彼もアートやデザインに強い関心があるのです。僕らは、デザインは生活を豊かにしてくれるものだと思うのですが、世の中にはその価値がまだまだ浸透していない。そのことは、小林も僕も悲しいことだと思っています。見た目に優れてはいても、実は機能していないクオリティが低いデザインも多いですしね。デザインの価値を啓蒙する意味でも、とにかく、ラーメンズ関係の制作物のクオリティを高く保つことは絶対条件です。実際、ラーメンズの公演は大変な人気で、告知と同時にチケットはソールドアウトします。手に入らないチケットは広告できないから、このポスターでも公演内容を詳細に伝えることよりも、グラフィックのかっこよさを優先できるのです。ラーメンズという商品に力があるのが大前提ですが、ブランディングが成功しているからこそこうした好循環が生まれるのだと思います。
（取材・文：山下薫 人物写真：谷本 夏）
次週、第4話は、「特技としてのデザイン」についてうかがいます。こうご期待。
［プロフィール］
みずの・まなぶ●1972年東京生まれ。茅ヶ崎育ち。96年多摩美術大学美術学部デザイン科卒業後、パブロプロダクションに入社。広告制作会社ドラフトを経て1999年にgood design companyを設立。主な仕事に、「KIRIN903」（2004年）の商品コンセプト、企画・商品開発、広告展開、永昌源「杏露酒」のCMおよび広告制作、NTTドコモのクレジットサービス「iD」のブランディングなどがある。05年NY ADC入賞。05年One Show Silverを3部門で受賞。
