旬のアートディレクターをお迎えして、デザインする際の思考のプロセスと、創作のスタンスに迫るコーナー。第3話ではガーリーでありつつ不思議な空気に彩られた「フェルウ」のポスターに注目する。
第3話
不思議な空気の漂う世界感「フェルゥ」
あえて合成によって作り込む
ワコールやパルコをはじめとした、女性ならではの感性を生かしてファッションの世界感を形作ってきた板倉氏が、2006年から2008年に渡って手がけてきたファッションブランドが「Feroux(フェルー)」。リニューアルの依頼時にクライアントが抱えていた問題点は、商品の動きが落ち着いていたこと。
「私が担当させていただく直前の広告は、雑誌Rayの専属モデルを起用して、雑誌広告のようなイメージを形作っていました。そこで、まずはファッションブランドらしい広告にリニューアルすることを提案しました」
板倉氏がアートディレクションを手がけた第一弾が図右のもの。どことなく不思議な空気の漂う世界感。これはブランドがもつイメージを起点として導き出されたもの。人物や背景はそれぞれ個別に撮影して合成されたという。
「ハートやリボンが基本となるような、ドリーミーで女の子っぽいブランドですから、写真一発で撮影しなくともデッサン力さえあれば、合成のほうが自由に作り込むことができて好都合なんです。このシーズンの場合は、本の見開きを背景に、列車や花、風船、煙などと人物を合成して作り込んでいきました」
正しい答えを代弁する
続く翌年のビジュアルでは「お部屋で恋人とともに過ごす時間」をコンセプトに掲げながらも、ラブリーになりすぎない加減を狙った(図左)。そこでは風船やウサギのオブジェなどにはブラーをかけることで、どこか夢見心地な空気を演出しながらも、モデルの大人っぽい表情を引き出すことはマストだった。さらに翌年のビジュアル(図左下)では、前年度に成功したイメージをある程度踏まえ「スクールガール」という難しいお題に挑むことに。
「スクールガールというと、どうしてもかわいらしいイメージになりそうですし、下手するとコスプレっぽくなりかねません。しかし、特大の鉛筆を持たせても、幼く見えないように仕上げました」
どんな仕事にも当てはまることだが、アートディレクションの仕事に正解はない。なかでもファッション関係では、よりアートディレクターの感覚にゆだねられる部分は大きくなる。そこでは、クライアントとアートディレクターの信頼関係が不可欠だ。
「100人のアートディレクターがいれば100通りの答えがあるはずですし、クライアントの担当の方が、こういった微妙なかわいらしさにピンときてくれないと進まない。そこでは信頼関係やチームワークが本当に大事です。もちろん、それは私が作りたいものとは無関係ですし、私としては極力正しい答えを代弁するお手伝いをしている感覚なんです」
(取材・文:立古和智 人物写真:谷本夏)
(取材・文:立古和智 人物写真:谷本夏)
次週、第4話は「自らのアートワークを活用する」について伺います。こうご期待。
●板倉敬子(いたくら・けいこ) |