旬のアートディレクターをお迎えして、デザインする際の思考のプロセスと、創作のスタンスに迫るコーナー。最終話となる今週は、グローバルに展開されるプロジェクト「プロダクトRED」に関する作品。そこでのTシャツデザインにフォーカスする。
第4話
自らのアートワークを活用「プロダクトRED」
チャリティーとして成立させるために
「プロダクトRED」は、2006年に企業と消費者がエイズに苦しむアフリカの人々を支援することを目的にスタートしたプロジェクト。現在協賛しているブランドは、アップル、コンバース、デル、エンポリオアルマーニ、ギャップ、ホールマーク、マイクロソフト、モトローラなどで、プロダクトREDのマークがつけられた商品の収益の一部は、「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」(世界基金)に寄付され、エイズに苦しむアフリカの人々の支援に役立てられている。このプロジェクトの一環として、板倉さんはアメリカ本社のギャップから、直々にTシャツの依頼をされた。
「好きに作ってほしいと依頼されました。アメリカに比べると日本ではあまり知られていないプロジェクトですが、サンフランシスコなどでは盛り上がりを見せているようです」
「ポップでありながら繊細、そして品がある」と評価された板倉さんのアートワーク。ここでは、決められた8色、決められたTシャツのボディをキャンバスに「アフリカ」をキーワードに掲げ、持ち前の作風全開で応えることに。
「エイズ、チャリティー、アフリカといったキーワードが並ぶなか、たとえば“Against AIDS”といったようなメッセージ性の強いタイポグラフィで応えることもできましたが、それはあまり面白くないと思ったのです。基本的にはTシャツですし、これがギャップのお店で売れないことにはチャリティに貢献できませんからね」
アートディレクターとしての社会的責任
こうして、手描きを基調に、アフリカを象徴する象をモチーフとしたアートワークや、植物や象などでアフリカ大陸をかたどったアートワーク、動物や植物で埋め尽くされたアートワークなどが生み出されることに。グラフィックデザイナーが腕を振るうメディアとしてすっかり定着したTシャツではあるが、板倉さんにとってもTシャツは「パーソナルな表現に適した軽さが魅力」という認識だ。
「“ザ・個人”って感じがします。ブログなどにも近い。自分のアートワークに関しては、自分のメッセージとして存在するものと考えていますが、一方のアートディレクションは経済活動のお手伝いといった認識で、完全に分けています。だから、自分で絵を描けても、それがピッタリの仕事であれば採用しますが、そうでなければ使いません。そこにはエゴがあまりないんです」
今回のケースでは、大きな舞台を前に「やりがいがある」と意欲を見せる一方で、「チャリティーとして真っ当に機能しているのか見極める必要がある」と、アートディレクターとしての社会的責任から慎重さを見せる場面もあった。アートディレクターとアーティストの「二足のわらじ」。そこでは、いずれかに重心を置くのではなく、双方にバランスよくコミットできてこそ互いの長所は生きてくる。
(取材・文:立古和智 人物写真:谷本夏)
●板倉敬子(いたくら・けいこ) |