第4話 アートディレクションの意味 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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様々なジャンルで活躍するデザイナーの来歴をたどるシリーズ。今回は秋田和徳さんを取材し、アートディレクターとして活躍する今日までの足跡をたどりま


第4話 アートディレクションの意味



千代田区神田神保町のオフィスにて、秋田和徳さん

千代田区神田神保町のオフィスにて、秋田和徳さん

──ストレンジ・デイズから仕事が波及したり?

秋田●それはありますね。洋楽の仕事が一気に増えましたし、岩本さんとの出会いは大きかった。そこから数多くの紙ジャケットCDの復刻に携わることができて、なかでもクイーンやデヴィッド・ボウイはファン心理で楽しんでました。そういう仕事って名前が出ないけど、ただただ嬉しくて。特にボウイの特典ボックスは感慨深い。別々の会社から2種類出たのですが、両方やらせていただきました。そのうちのひとつは本人チェックもあって、「Looks wonderful」と言われたんですよ、あのデヴィッド・ボウイに(笑)。それがその後、海外で商品化に昇格されてましたね。僕は知らなくて、店で偶然見つけて買ったんですよ。クレジットは入ってませんでしたけど。

──お金でもらうよりも嬉しかったり。

秋田●ええ。マニック・ストリート・プリーチャーズも雑誌広告の仕事をしたときに、元の写真に自分でペイントして使ったんです。後にレコード店でそのビジュアルを使ったピクチャーディスクを偶然発見して。それもクレジットはなかったですけど、言葉を超えたところで嬉しかった。自分の作ったものが伝わるんだって。

──いま現在は音楽中心で?

秋田●そうですね。あとは漫画の装幀もちょこちょこと。一番最近のものでは文庫本の『ベルサイユのばら』の装幀を手掛けました。言わずもがなの名作中の名作ですし、自分が読者だったから思い入れもあります。それに宝塚も普段からよく観てますから、とりたて感慨がありますね。この話をいただいたときはほんとにうれしくて、仕事の後に絶対なにか災いがふりかかるような気がしてます(笑)。真摯に仕事をしたことがもたらした幸運に、こんなこともあるんだってビックリしましたね。人との出会いにほんとに感謝しました。

──その他に思い出深いものは?

秋田●03年に出たSADSの『13』というアルバルのときにフォト・モンタージュをやったんです。それまでやったことはなかったけれど、かつて好きだった往年のブリティッシュ・ロックのジャケットのような世界観を試しにやってみたら、なんとなく自分のスタイルができたような気がして。それ以前は自分のペイントを絡めた、もっと直接的なコラージュが主だったのですが、そこでやっと進むべき方向が見えてきました。その後、BUCK-TICKの『十三階は月光』というアルバムでは、完全にアートディレクションに徹して、設定も登場人物もガチガチに全部決めて。元のアイデア自体は10分くらいで思い付いたものなんですけど。

──そこでようやくアートディレクターの意味がわかった?

秋田●そうかもしれませんね(笑)。アートディレクションはもちろん初めてではなかったけれど、満足感も含めてここまで大掛かりなものはこのときが初めて。普段、あまり縁のないチームワークっていうものを痛感しました。カメラマン、舞台セット、スタイリング、ヘアメイク……自分の頭の中にある世界観を伝えるのに苦労しましたが、それが徐々にカタチになっていくのは快感でしたね。このときが割と転機だったと思います。本当はCDなんですけれど、僕の頭の中ではアナログのレコード・ジャケットしかないんで、ツアー・グッズのひとつとしてLPサイズを作ってもらったんです。ギャラいらないからって(笑)。

──ざっと振り返りましたが、現状に満足してます?

秋田●今世紀に入って、やっと掴めてきた感じです。周囲に惑わされないで自分のデザインができるといういう意味において。

──デザイン以外での吸収は?

秋田●絵画展にはよく足を運びますね。あとは古本屋さんとかアンティーク・ショップ……。僕は自分の嗜好性をハッキリと自覚できたのが遅くて、20代の頃まではアンテナをあっちこっちに延ばしてたんですよ。欲張って、他にもあるかもしれないって。で結局、耽美的、退廃的なものとか、ゲイの人の創る音楽にとりわけ魅力を感じることが多いなぁ……と。そこに辿り着いたというか、気持ちに揺るぎがなくなったのが30歳過ぎでした。小学生の頃からフレディ・マーキュリーのタイツのダイヤ柄に魅かれていたという予兆があったとはいえ(笑)。かなり時間がかかりましたが、いまは一点の曇りもないですね。

──今後やりたいことは?

秋田●いま、CDを買うともれなくDVDも付いてきたりしますよね。動く画の方が派手に見えるし、求められてるものなのかもしれませんが、ぼくはやっぱり1枚の動かない画から生まれる、想像力の無限の拡がりに魅力を感じるんですよ。MTV以前の、1枚の小さなモノクロのライヴ写真から、その前後のアクションを妄想するロック・ファン世代の生き残りですから(笑)。丸見えよりも、影になって見えない部分があったほうが、はるかに想像力をかき立てられますよね。影のない表現にはあんまり興味もないですし。だから、それはこれからも追求していきたいですね。

──では、最後にアドバイスを。

秋田●やりたくないことはやらない(笑)。そのかわり、好きなことはとことん突き詰めるしかないんじゃないですかね。流行ってるとか、カワイイとか、自分の意にそぐわないのならばそういうのはみんなうっちゃって、自分自身に正直でいることですね。そしてなにより、自ら孤高を持するべき。無論、そこに人との出会いがないと回っていかないと思っています。


DAVID BOWIE CD BOX(非売品)(2007年)DAVID BOWIE『Deluxe David Bowie Box Set』CD BOX(2007年)

MANIC STREET PREACHERS「Motorcycle Emptiness」12inch EP(1992年)
SADS『13』CD(2003年)BUCK-TICK『十三階は月光』CD(2005年)

BUCK-TICK「Alice in Wonder Underground」CD(2007年)

池田理代子『ベルサイユのばら』COMICS(2009年)

秋田さんの仕事より

1段目左/DAVID BOWIE CD BOX(非売品)(2007年)
1段目右/DAVID BOWIE『Deluxe David Bowie Box Set』CD BOX(2007年)
2段目左/MANIC STREET PREACHERS「Motorcycle Emptiness」12inch EP(1992年)
2段目中/SADS『13』CD(2003年)
2段目右/BUCK-TICK『十三階は月光』CD(2005年)
3段目/BUCK-TICK「Alice in Wonder Underground」CD(2007年)
4段目/池田理代子『ベルサイユのばら』COMICS(2009年)



今回で「これがデザイナーへの道」第32回・秋田和徳さんのインタビューは終了です。

(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)


秋田和徳さん

[プロフィール]

あきた・かずのり●1965年大阪府生まれ。大阪芸術大学デザイン学科卒業後、広告デザイン会社勤務等を経て、94年に独立。音楽ソフトのパッケージを中心に、広告、雑誌、単行本などを手がけている




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