第3話 ネットの中だけに成立する「街」
「ZOZOTOWN」におけるデザイン/ビジュアルについて
建築物だったら「街」がとても面白く、わかりやすく表現できる。
――「ZOZOTOWN」におけるデザインやビジュアルはどのようにできたのですか?
渡邊●「 ZOZOTOWN」になる直前から、僕は本格的に携わるようになったんですけども。当時はまだデザインはバラバラだったんです。「ZOZOTOWN」をどのようなデザインにするか、かなりの時間もかけましたし、話し合いもしましたね。
時間をかけ話し合いを繰り返しながら、現在の「ZOZOTOWN」の形ができ上がった、と語る両氏
前原●自社で運営しているショップが17店舗と増え、カートや決済システムも一緒にできないかというお客さんの要望も強くて、じゃあひとつにまとめようということになったのですが、実はかなりの決断力がいりました。
というのも、それまでは個性が違うたくさんのブランドを、それぞれのイメージやテイストに注意したり、一緒に取り扱うブランドの横並びにとても気を使ってサイトを分けてきたのですが、それらを全て一緒にして一つのサイトで扱うということで、どういう見え方をするのかがとても大きな問題になるからです。それぞれのイメージをどのようにしたら、一番効果的に見せることができるのか。最初はビルにするなど、いろいろな意見がでてきましたが、最終的に「街」にしようということになりました。
渡邊●「ZOZOTOWN」になる前は、ショップは平面的なデザインだったんです。いまのような建築物とかも全くなかったですし。それが、突然「街」にしようっていうことになって。じゃあ、「街」だとしたらどうやって、それぞれのショップを表現したらいいんだろう?と。3DCGを使うという手法になったのも、ホントに最終的な話で。
最初はミニチュアの模型を作って一個一個撮影していこうかなども考えたりしていましたし。実際のお店に行って写真を撮ってきて、それを背景として使うのもありかなとかいろいろなアイデアを考えました。でも、3DCGを使うことによって、建築物だったら「街」がとても面白く、わかりやすく表現できるんじゃないかということになったんです。この先Flashのような技術を取り入れていけば、よりおもしろいことができるんじゃないかと思います。
リアルな街では実現し得ないアイディアが形にできるのは「ZOZOTOWN」のようなバーチャルの街だからこそ
――それで、実際の建築家の方々に発注することになったのですね。
前原●最初はみなさん模型をつくろうとしていましたからね。実際の建築物と思ったみたいで。
渡邊●そうなんですよ、それで「いえ、実際には建たないんですけど」って説明をしたりして。
前原●でも、建築家の人たちには逆にそこを理解して、逆におもしろがってくれて、本当によかったです。
渡邊●建築家の方も考えていることを形にできないものってたくさん持っているみたいで、それがサイト上だとある程度何でもできるんです。消防法とかも関係ないし(笑)。だから、そういったアイデアを表現してもらえたというのはありますね。お互い気持ちよく仕事できたのかなとも思います。みなさんに、「実際に建てたい!」と言われてるんですけど(笑)作っている途中は、そんな話でよく盛り上がってました。
――他のサイトと比較した場合、「ZOZOTOWN」ならではのデザインのこだわりは?
前原●実はデザインの参考にするようなサイトはなかったんですよね。街というコンセプトでサイトを成功させている例が正直ほとんどなかったんです。きっと、ネット上に架空の街を作って、そこにお店を誘致してモールにしようというビジネスモデルがなかなかうまくいかなかったからだと思うんですが。うちの場合は逆で、17店舗がすでに集まったので、じゃあ、街にしようという発想だったからよかったのでしょうね。
――デザインとして参考になるものがないとしたら、どのように?
渡邊●あまり「街」ということにこだわり過ぎてはいないんです。そこにこだわり過ぎてしまうとかえって使い勝手が悪くなってしまうことがあるんです。例えば、街だから人が歩かないとダメだとか。よくデザイナーってそこまで行きがちなんですよ。ただ、このECという部分は大前提としてあるので、そことのバランスには気をつけました。
ですから、現実的にはデザインに関してはある意味割り切った部分はあります。例えばクリックしたら、ドアが開いて中に入るアニメーションなどはありません。実際にサクサクといけばそれは面白いとは思うんですけども。いろんな人に見てもらうというのが当然前提ですから、それはあえてなくてもいいかなと。
そういったことを考慮していくと現在のデザインになるのかなと思います。あと情報量がとても多いのでそれをまとめるのにもどうしたらいいんだろうと考えました。これはいまでも検討事項なのですが、ショップやブランド、アイテムが増え続けているのに合わせて、デザインを調整していくということも必要だと思います。
雑誌広告イメージ
――広告戦略的に街をイメージしたビジュアルを雑誌広告などで使っていますが。
渡邊● 「ZOZOTOWN」の特色というのはやはり「街」ということです。ユナイテッド・アローズの隣にビームスがあって、その隣にナノ・ユニバースがある。現実的にはそんな街ってないんです。そこがおもしろいところだと思うんです。3Dでしか表現できない「街」。ネットの中だけで成立している「街」。伝えたいところはそこなんです。
広告イメージは1年以上同じビジュアルを使っているのですが、本当に言いたいことは、「街」であるということと、そこにいろいろなショップが入っているということ。この2つのことだけなんです。ですから広告は同じイメージですべて展開しています。
前原●最初はこの広告でリアルとバーチャルを混同されるんじゃないかとかも思ったんですけど、今では「ZOZOTOWN」という街の存在やイメージを伝えることができたと思っています。
――広告イメージをみると本当にこんな街はありそうですものね。
渡邊●最初ビジュアルを見せた時に、ほんとにこんな街あるのかなと思った人もいるみたいです。この街にほんとに行ってみたいと思ってくれたらいいなという感じですね。
次週、第4話は「個に向けて『箱』を提供するデザイン」についてうかがいます。
(取材/文:服部全宏(GO PUBLIC) 写真:谷本 夏)
[プロフィール] 前原正宏(まえはら・まさひろ) ●株式会社スタートトゥデイ マーケティング本部 ディレクター 渡邊 順(わたなべ・じゅん) ●株式会社スタートトゥデイ 創造開発本部 デザイン部 ディレクター |