第2話 未来につながる仕事・後編 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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第2話で取り上げるのも、森本氏のワークスタイルを決定づけたMr. Childrenに関するプロジェクト。「いろんな人を巻き込みながらライブで形づくっていくスタイル」にフォーカスするとともに、森本氏がこだわる「気持ちのよい広告制作」について聞く。

第2話 未来につながる仕事・後編


Mr.Childrenの一連の仕事で、
自分のワークスタイルを確立できた。


??Mr.Childrenの新聞15段広告(第一話参照)をはじめに、Mr.Childrenに関するお仕事は他にも手がけてらっしゃいましたよね。

森本●Mr.Childrenに関しては、ベストアルバムの駅貼りポスターも制作しました。私にとってはそれも思い出深い仕事のひとつです。私は大学生の頃から色んな人と一緒にものづくりをしていたのですが、このプロジェクトのときも初めて出会った人たちと心をひとつにして取り組めたのです。

??具体的にはどのように作られたのでしょうか。

森本●アイデアを練っていた際に、会社の先輩が沖縄で撮影した一枚の写真を見せてくれたのです。その写真には、真っ青な空と絵や詩が描かれた防波堤が写っていました。私はそれを見た瞬間、そこに行ったこともないのに記憶が蘇るような不思議な気持ちになったのです。このとき、防波堤にMr.Childrenのベストアルバムの歌詞を描いて青い空とともに撮影した写真を東京の街に貼ったら、歌ならではの記憶や、理屈ではなく本能を呼び起こすようなビジュアルができるのではないかと思ったのです。その後、防波堤に絵を描いた姉妹を探して一緒に制作することになりました。

防波堤に歌詞を描き撮影して作られた駅張り広告
防波堤に歌詞を描き撮影して作られた駅張り広告

??具体的にはどう絵を描いていったのでしょうか。

森本●当時、私も大がかりな撮影は初めてでしたから、どうディレクションしていいのかわかりませんでした。でも、とにかくやるしかなかったので、姉妹と一緒にMr.Childrenの曲を聞きながら、指にインクをつけて歌詞を描いていったんです。途中からカメラマンもその他のスタッフも一緒になって夜まで無我夢中で描いていきました。

撮影現場はとある病院の敷地内で、病室の窓からも見える場所だったんですが、気が付いたら地元の人が手伝ってくれたりもしました。「面白そうなことをやっている」っていいながら。そうして集まってくれた人たちのおかげで完成にこぎ着けられました。描き上がったときには、写真を一枚だけ撮りそのままポスターにしました。

Mr.Childrenの一連の仕事では、いろいろな人を巻き込みながらライブで形にしていく私のワークスタイルが確立したと考えています。

??そうした手法でつくられた広告には独特の空気が感じられますね。

森本●駅のホームに貼りだされたときには、毎日のように見に行きましたよ。どんな人な風にその広告を見ているのか見張っていたんです(笑)。立ち止まって空を眺める人がいたり、「気持ちいいね」と言ってくれる人もいて本当にうれしかった。多くの人と心を通わせて形にした広告が世の中で共感されることで、伝えたかったメッセージが広がっていくことを実感できました。

??森本さんが広告制作をする上で大切にしていることは何でしょうか。

森本●広告って基本的には目立つものが望まれるわけですが、人の生活や空間のことを考慮すると「本当に必要なのか?」と疑問を感じることもあります。だから自分が携わる広告に関しては、見た人が少しでもポジティブな気分になってくれるものを作りたいと思っています。それを必要な存在にしていくために。レースで作ったMr.Childrenの中吊り広告も、それを実証できた仕事のひとつだと思っています。



レースで作られた中吊り広告。車内に気持ちのいい風を呼び起こした






??レースで中吊り広告を作られた理由は?

森本●この中吊り広告を作ったのは2001年9月11日にニューヨークでテロがあった直後だったのです。その頃、小林武史さんが「音楽で人の気持ちに伝わる何かをしたい」と話しているのを聞いて、私も広告で何かできないか考えてみたのです。そして思いついたのが「この世をもう一度好きになってみる」というテーマ。戦闘機や国会議事堂、お金といった世俗的なモチーフを、あえてレースの刺繍で美しく描きました。

??そのアイデアは斬新ですね。

森本●ありがとうございます。このプロジェクトでも素晴らしい出会いがありました。それはレースを作る職人さん。病み上がりにも関わらず企画意図をのんでくれて、復帰第一弾として引きうけてくれたのです。やはり、ひとつの目的に向かっている間に出会う人の力があってこそですよね。

電車がレースで彩られた際、そのレース職人さんを含め、みんなで電車に乗ったのです。普段は下を向いてしまう車両の中で上を見上げたら、5月のそよ風にレースがなびいて気持ちよかった。広告媒体が存在する空間が、リセットされたようだったことが強く印象に残っています。こういう気持ちになれることを続けていきたいと思いました。


(取材・文:山下薫 写真:谷本 夏)


次週、第3話は、「音楽でイメージを共有する」についてうかがいます。こうご期待。


[プロフィール]

も りもと・ちえ●1976年生まれ。武蔵野美術大学卒業。1999年博報堂入社。2005年から博報堂クリエイティブ・ヴォックスに所属。主な仕事にMr. ChildrenやSalyuのアートワーク、日産「NOTE」、三陽商会「AMACA」、キリンビール「8月のキリン」、東京大学文学部「古典を読む」 のアートディレクション、協和発酵やワールド通商「FRANK MULLER」の映像演出、AP bank活動、ホンマタカシ写真集「アムール翠れん」の装丁、作品集に「8月のキリンノート」、「futo ?Kiyokawa Asami + Takimoto Mikiya + Morimoto Chie」、「GIONGO GITAIGO J"SHO」、「HAPPY NEWS」などがある。N.Y. ADC賞、ONE SHOW、東京ADC賞、JAGDA新人賞をはじめに受賞歴多数。

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