第2話 Webの世界の特異性 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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第2話 Webの世界の特異性




??Web業界がまだまだ未成熟ということは、Webの世界がじつはその他の業界よりも特殊な構造になっている、ということと関係があるのでしょうか。

茂出木●そうですね、Webの世界の特異性は確実にあると思います。たとえば一般的な広告であれば、すごく丁寧に作り込んでいくことである程度、お客さんには見てもらえるだけのクオリティのものができあがると思うんです。ところがwebの世界ではそうではない。ものすごく時間をかけて丁寧にWebサイトを作り込んだところで、それが多くの人に見てもらうに足りるかというと、今のところ必ずしもそうではない。

僕自身は、クリエイティブの力で人を惹き付けることを重要視している点で仕事の内容や求められるものは広告業界と似ていると思っていますね。ただ、Webの世界ではまだ業種が明確にはなっていない。たとえばうちの会社の業種をひとことで言えるようになったら、それはWebの世界がもう少しシステムとして確立されてきた、ということになるでしょうね……僕はWebサイトを構築した数でいえば、今年に入ってから3件程度しか手がけていないんですよ。では何をやっているのかというと、企業から「Web事業部を立ち上げたい」という相談を受けて制作会社に発注する、などのお手伝いをしたり、クリエイターの方にWebの特性について教えたりと、純粋に制作だけではない、プロデュース的な仕事が多くなってきている。








??そうした活動を通して、やはり時代状況の変化というものは感じますか。

茂出木●いまどきという事であれば、たとえば「Web2.0時代の広告」なら、今や「うちの商品いいですよ、買って下さい」という自画自賛型の広告を展開したところで、ほとんどの人が「自社製品の宣伝なんだから、そんなの当たり前だろう」と思ってしまう。大衆の表面層の人々はそれでもまだ商品を買うだろうけれども、本質を握っている人たちは、そのやり方ではもう動かなくなってきている、ということだと思います。その結果、口コミが重要だ、という話や、コンシューマー・マーケティング・メディアとしてのWebの重要性が論じられたりしていますが、ところが広告にはそれができないんですね。

どういうことかと言うと、「うちの商品っていいですか?」って訊いてくる広告なんてないでしょう(笑)。広告には「自分たちの商品は素晴らしい」と言い続けなければならない絶対的使命があるということです。ところが現在ではWeb上で力を持ったユーザーが、「この商品はこれまでの商品に比べてこのあたりの位置づけだよね」と発言すると、その方がまことしやかに伝わってしまったり、さらにその発言自体を疑ってかかる人まで出てきています。ユーザーの発言がかなり精緻化されてきていて、そういう状況でのコミュニケーションを、広告を作っている人だけでは作り出していくことができない、ということなんです。

ところが一方で、Web業界の人間がその部分のコントロールをどこまでできるかというと、それも怪しい(笑)。つまりWebというのはそれくらい面倒くさいメディアだ、ということなんです。それまでマスメディアに広告を打ってきた人たちが、「なんでそんな面倒くさいことをやってるの?」と驚くのも仕方がないことですね。



??たとえばブログが炎上したことがニュースで流れるような今の状況というのは、広告業界にとってはまさに驚異ともいえるわけですね。

茂出木●現状、広告業界の方々もかなり焦りを感じているとは思います。たとえばこれまでの広告や放送は、自分たちでメディアを作って、そこに価値を乗せて商売をしていたわけです。ところがインターネットの場合、情報を伝達する道筋それ自体は誰に対しても等価なわけですから、そもそも利権が発生する場所からして異なっている。もともとインターネットというメディア自体が、研究者たちが個人個人の研究成果をハイパーリンクでつなげていくことにより、つながった全体としてより強力な成果物を生み出すことができるんじゃないか、という理想からスタートしていますから、そこにマスメディア的な広告をどうやって組み込んでいこうか、ということは最初から含まれていないんですね。



茂出木さんに監修による書籍『XHTML時代のWebデザインバイブル』


??茂出木さんのお仕事の現場でも、まったく新しいアイデアやシステム構築への取り組みを心懸けている、ということでしょうか。

茂出木●そうですね、今手がけている仕事ではまだ提案レベルのものが多くて、具体的に目にすることができるものはそんなにありません……なぜかというと、うちはクライアントありきの会社なので、クライアントの側としては、すでにあるものにアレンジを加えていくことならば決断しやすいわけですが、まったく見たことのないものにお金を払うことは、極力避けたいわけでしょう(笑)。まったく新しいもの、という意味でいえば、「Yahoo!」や「mixi」をはじめとする大手や「paperboy」や「はてな」のように、自社メディアで何かを展開している立場の方が実現力がある。それに対してうちの場合は、向いている方向が開発ではなく、コミュニケーションに向いている、ということなんです。




(取材・文:深沢慶太  写真:谷本 夏  編集:蜂賀 亨)







[プロフィール]

茂出木謙太郎
株式会社キッズプレート 代表取締役/プロデューサー
Webサイト構築に携わり10年。 JPPプロモーションアワード2003銀賞受賞。OCNデザインアワード2004審査員。 リクルートクリエイティブグランプリ審査員。
著書『Webデザイン-コミュニケーションデザインの実践-(共著)』(CG-ARTS協会発行)、監修に『Webサイトユーザビリティハンドブック』『XHTML時代のWebデザインバイブル』(以上オーム社刊)ほか Web creators誌には創刊当時からの執筆協力を行う。 CG-ARTS協会会員。


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