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第4話 驚きをリアルに伝えられるメディアを目指して

2024.5.17 FRI

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第4話 驚きをリアルに伝えられるメディアを目指して




??これまでのWeb制作の現場にはなかった考え方を、自ら実践されている気がします。

茂出木●そうですね、ですから企画立ち上げをプロデュースした際、制作会社の方から打合せで、「実際の制作に入ったら茂出木さんは引き続き関わられるんですか?」と訊かれることもあります。「何をする人なんだろう?」と思われるんでしょうね。そういう時は、「必要であれば呼んで下さい。必要なければいませんから」と言うようにしています(笑)。あたりまえですが、ちゃんと公開まで見ますけどね。また、既存のノウハウにとらわれないスタンスを取ろうとしているからこそ、Web業界以外の企業についてもさまざまなことを知っていないといけない。どの業界も往々にして業界の内側で固まってしまいますから、Web業界についても、業界の壁を乗り越えていくことがひとつの課題だと思います。



??最後に、茂出木さんがこれからやってみたいことについて教えて下さい。


茂出木●プロの手によって計算されつくしたコンテンツが、Web上で正しく展開されるような機会を実現したいですね。ここで言うプロとは、Webサイトの構築を生業としている人を含めたさまざまな業界のプロフェッショナルのことです。どうしても仕組み優先の自社サービスや一過性のプロモーションサイト、時間や予算の制約が厳しい現実など、完成度の側面から見ると、多くのWebサイトはどこかあきらめざるを得ない部分があるように感じてきました。それで、もう少し地に足が着いたクリエイティブをWebで実現できないだろうか、と思っているんです。それには「Webを使ったコミュニケーションの新しい遊び方」という視点が必要かもしれませんね。

たとえば、「セカンドライフ」や「ポストペット」をもっともっと昇華させたの仕組みが実現できると思っています。「ニンテンドーDSやPSPがネットにつながるようになりました!」というニュースを聞いた時も、僕は「ディスプレイがないとネットにつながる意味がないのだろうか」ということを考えてしまったんですが、Webの枠組みにとらわれない発想を、もっと自由に実現していきたいですね……。

ただ、そういうことを本気で考えれば考えるほど、うちで人材募集をする時にはどんな人を募集していいのかがまったくわからない(笑)。うちはもちろん会社ですからビジネスをやっているのは確かなんですが、どこか大学の研究室のように、「こんなことをやってみたい」というアイデアを提案していく場でもあると思っているんです。


たとえば僕はロバート・サブダという絵本作家の絵本が好きなんですが、(絵本を取り出して)こうやって本を開くとさまざまなものが飛び出てくる、ものすごくよくできたポップアップ絵本なんです。

飛び出てきたものを手で引っ張ると動いたり、覗き込んで見る仕組みになっていたりと、本当にいろいろな仕掛けに溢れている。あたりまえですが、これはインターネットでは絶対にできないことです。実際に紙を手で触って試行錯誤を繰り返していく中で、紙の特性を充分に活かして組み上げたものが、実際にプロダクトとして手に入りやすい価格で流通しているわけですから。でも、「このリアルな驚きに匹敵するものを、どうすればwebのコンテンツで作れるのだろうか」ということについて考えることが、とても重要だと思うんですね。


??Web以外の世界に、ヒントがたくさん転がっている、ということですね。

茂出木●そうです。しかもそういったことは「やってみないと面白いかどうかわからない」。たとえば僕はRC/カー(ラジオコントロール・カー)メーカーの京商のWebサイトも手がけましたが、RC/カーってじつは最初はつまらないんです。どういうことかと言うと、上手く曲がれなくてぶつかってばかりで、上手に操縦できるようにならないと面白くない。ようするに、興味を喚起して買ってもらった後に、どうコミュニケーションをつないでケアをしていくか、ということがとても重要なんですね。でも、現在ではその部分がまだまだできあがっていない。「そのものの本質的な面白さを、どのようにしてリアルに伝えていくのか」という問題が、いまだ未解決のまま立ちふさがっている。



オフィスにおいてある京商のRC/カー。
京商のサイトはhttp://www.kyosho.co.jp/





今年の夏に公開されたPIXARの映画『カーズ』の設定資料を集めた本があるのですが、1時間半の上映時間の中に、これだけの設定をたいへんな試行錯誤のうえに作り上げている、という事実に圧倒されます。しかもプロセスの集積がこうやって読み物としても成立しているわけでしょう。これを見ていると、「僕たちがやっていることは、ずっとこのまま、映画にはかなわないんじゃないか」とすら思います。これまでWeb業界で仕事をしてきて、このような作り込みをしている人には会ったことがない。それは映画に限らず、他のメディアとインターネットを比べても言えることなのではないかと思うんです。インターネットはインターネット以外のメディアをひとつも凌駕していないんです。



写真の表現にしても限界があるし、動画も粗い、テキストもフォントを大して選べない……だからこそ、それぞれの業種のプロの力を注いだサイトをきちんと作っていきたい、と思います。あと、映画を観ていていつも考えてしまうのは、製作費のこと。映画と同じようにWebサイトのコンテンツにも、100億払ってくれる人が出てくるようにしなくてはということなんです(笑)。映画を作ってwebに載せようとか、新しいシステムを構築して……ではなく、Webの世界ではどんなにコンテンツにお金をかけても、年間の運用も含めてせいぜい1億でしょう。「ここに数十億の資金を投入したい」と思わせるコンテンツメディアになっていかないといけない、ということだと思います。

??まさにこれからのWeb業界の課題ですね。

茂出木●やっぱり、Webの枠の内側にとらわれずに、いろいろなことに興味を持って発想していくことが重要だと思います。でも、まわりから僕を見ていると仕事しているように見えないみたいです 。映画を観たり、本を読んだり……「茂出木さん、仕事してますか?」って言われてしまうんですよね(笑)。






(取材・文:深沢慶太  写真:谷本 夏  編集:蜂賀 亨)







[プロフィール]

茂出木謙太郎


株式会社キッズプレート

代表取締役/プロデューサー

Webサイト構築に携わり10年。JPPプロモーションアワード2003銀賞受賞。OCNデザインアワード2004審査員。リクルートクリエイティブグランプリ審査員。

著書『Webデザイン-コミュニケーションデザインの実践-(共著)』(CG-ARTS協会発行)、監修に『Webサイトユーザビリティハンドブック』『XHTML時代のWebデザインバイブル』(以上オーム社刊)ほか Web creators誌には創刊当時からの執筆協力を行う。CG-ARTS協会会員。


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