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2023年度の「グッドデザイン賞」の受賞結果の中から注目の10点をピックアップして紹介!

2023.11.01 Wed

公益財団法人日本デザイン振興会は、2023年度の「グッドデザイン賞」の受賞結果を発表しました。「グッドデザイン賞」は、1957年に創設された恒例の顕彰制度で、各種のプロダクトデザインはもちろん、“有形無形のあらゆるもの”を応募対象としています。

2023年度は5,447件が審査の対象となり、全1,548件の受賞が決まりました。そこで本記事では、最高賞である「グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)」に選ばれた「老人デイサービスセンター 52間の縁側」を含め、注目のデザイン10件を紹介していきます。

 *グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)*
 「老人デイサービスセンター 52間の縁側」
 有限会社オールフォアワン/株式会社山﨑健太郎デザインワークショップ

大賞に選ばれた「52間の縁側」は、気軽に立ち寄れる“縁側”のような存在になることを目指してデザインされた老人デイサービスです。制度のみに頼るのではなく、地域で助け合う共生型のサービスであることをポイントとしています。さまざまな人々が行き交うカフェ、寺子屋、デイサービス、公衆浴場といった“まち”のような建築デザインが実現されました。

この施設では、主に認知症や介助が必要な高齢者が過ごしますが、近所の子供たちも気軽に訪れるような「福祉の地域拠点」として機能しています。さまざまな事情で家庭や学校に居場所がない子どもたちも、一緒に食事をしたり入浴したりする。その代わりに、庭の水やりや風呂の掃除、食事の準備などを手伝うことをしています。

一般的に「デザイン」という言葉は外観・ビジュアルのみを示す言葉としてとらえられがちですが、近年ではサービスの仕組みや背景を含めたトータルでの設計を「デザイン」と言い表す傾向が強いと言えます。何かの課題があって、それを解決するための工夫・取り組みが「デザイン」というわけです。

本件も、単なる見た目だけではなく、「建築を作っている時から庭づくりのワークショップなどを行い、信頼される場づくりに努めてきた」というようなアプローチも含めて高く評価されました。もちろん見た目という意味での「デザイン」も優れており、利用者に「日常の風景」や「自由さ」を感じてもらって安心感を与えるような外観に仕上げられています。

*グッドデザイン金賞(経済産業大臣賞)
「スマートなダブルクリップ」
コクヨ株式会社

「スマートなダブルクリップ」は、直角三角形の形状が特徴的なクリップです。本来、ダブルクリップは枚数の多い紙を手軽に固定でき、資料をまとめるのに便利ですが、綴じたままでは紙をめくりづらいという課題もありました。そこで「スマートなダブルクリップ」は、邪魔にならないように直角三角形のかたちを採用。紙をめくるときにガイドとして機能し、綴じた資料をスムーズに閲覧できます。

既存の一般的なダブルクリップとは違って左右非対称な形状ですが、しっかりと紙はまとめておけるように“保持力”の高さを維持した設計もデザインのポイントとなりました。本体とハンドルの色はシンプルにシルバーで統一させ、特徴的な直角三角形の形状がより際立つ見た目に仕上げられています。

この「スマートなダブルクリップ」は商品化までの流れにも特筆すべきポイントがあり、「コクヨデザインアワード2018」の優秀賞を受賞した作品が元になって開発されました。既存のダブルクリップと全く異なる構造であるため、量産工場では作ることができず、手作業で対応できる工場を検討するなどのプロセスも経ています。

また工場が見つかってからも「外観の美しさ」「使用者の使いやすさ」「品質の担保」を全て満たす設計に苦心。見映えに大きく関わる表面処理についても、10種類以上の試作の末、完成品ができ上がっています。なお、本件は「グッドデザイン賞」の中で特に優れたデザインを讃える「グッドデザイン金賞(経済産業大臣賞)」も受賞しました。

「mocopi」
ソニー株式会社/ソニーグループ株式会社

「mocopi」は、ソニー独自の技術が盛り込まれたモバイルモーションキャプチャーです。発表・発売当初にVTuberなどのクリエイターの間で大きな話題となったことも記憶に新しいでしょう。6個の小型センサーとスマホの専用アプリによって、高精度なモーション計測やVRへのリアルタイムなモーション入力が可能となっています。

「モーションキャプチャー」という言葉を聞くと大掛かりなシステムが想像されますが、本製品では「誰もが簡単に使えること」が追求されました。価格もソニーストアでの購入で44,000円(税込)と、比較的に個人クリエイターでも導入しやすいところにまで抑えられています。

センサーは、頭/手首/腰/足首にマジックテープ式バンドやクリップで簡単に装着できるのが特徴となっています。センサー1個あたりの重量は8gで、邪魔にもなりにくく、測定方式は6DoF(加速度センサー 3DoF+角速度センサー 3DoF)です。また、Bluetooth接続に対応し、完全ワイヤレスであることも使いやすさのポイントとなっています。

本製品は、センサーのポップなカラーリングも目を引きます。この配色は「色覚多様性」を考慮して調整されているそうです。「色覚多様性」とは、色を識別する錐体細胞のタイプの違いにより、人によって色の見え方がさまざまであることを示す言葉。「mocopi」では、アプリのUIも各センサーの色をポイントとしてデザインされており、迷わず使いやすいように配慮されています。

「GLIDiC mameBuds(TW-4000P)」
SB C&S株式会社

こちらは“ながら聴き”をキーワードとしたオープン型の完全ワイヤレスイヤホンです。「GLIDiC」は「動くひとの、音」をスローガンに掲げたモバイル向けのオーディオブランドで、本製品はシンプルな形状とともに耳にしっかりとフィットするようなデザインとなることを意識して設計されています。体の一部のように常に身につけて、“ながら聴き”を実現できるイヤホンとして開発されました。

1つの製品に3種類のシリコンカバーが付属しており、複数のカラーバリエーションの“着せ替え”を楽しむことも可能です。耳からの出っ張りを最小限に抑えることで、ソファやベッドに寝転がりながら使っても耳が痛くなりにくいのが特長です。

Bluetooth接続およびSBC/AAC/aptXコーデックに対応し、ドライバーユニットは直径10mmのダイナミック型。IPX4準拠の防滴性能を備えているため、水洗いや除菌シートで拭いてキレイに保つこともでき、衛生意識の高いユーザーも安心して使えます。また、“着せ替え”は、汚れた際に取り替えるという観点でも役立ちます。

「mameBuds」の名称にも示されている通り、本体は豆のようなコロンとした丸みを帯びたデザインで可愛らしいですね。充電ケースも丸みを帯びたデザインに仕上げられています。

「楽に抜けるAC充電器 MPA-ACCP31シリーズ」
エレコム株式会社

「楽に抜けるAC充電器」は、レバー付きでUSB Type-Cポートを備えたAC充電器です。レバーを押すと、軽い力で楽にコンセントやタップから引き抜くことができます。通常は差込口からプラグを抜くのは意外に力が必要ですが、本製品であれば力の弱い子どもや高齢者でもスムーズに扱えます。片手で使いやすいこともポイントで、狭い場所での抜き差しも簡単に行えるのが特長です。

使い方は、本体に搭載されたレバーを押すだけ。説明書を読むことなく、誰もが簡単に使える造形が追求されました。全体的に構成要素を少なく抑えたデザインで、初めて製品を見た人でもレバーを押す場所が分かりやすいです。

レバーは本製品の重要な要素ではありますが、デザインの際にはそれが‘悪目立ち”しないようにも配慮されました。日常空間で使うときにインテリアを阻害しないように、筐体のカラーリングは全体的に白・黒に統一されています。

本体サイズは約34(幅)×27.5(高さ)×27.5(奥行)mm+レバー部が約19mm(ACプラグを除く)で、重量は約39g。付加価値のついた充電器ですが、筐体はコンパクトにまとめられているので気軽に持ち運びもしやすいです。出力電力は20WでUSB PDにも対応しており、日常的に使う充電器としても十分な性能を備えています。

「PowerShot V10」
キヤノン株式会社

「PowerShot V10」は、“Vlogカメラ”を掲げ、初めてカメラを使うユーザーでも気軽に動画の撮影を楽しめる製品です。スマホでVlog(日常を記録するブログ的な表現の動画)を撮影するユーザーの「今よりもっと高画質・高音質な映像をシンプルな操作で撮影したい」とのニーズを汲んで開発されました。

コンパクトな縦型ボディながら、1インチセンサーと大口径マイクを搭載。この縦型デザインは、左右どちらの手でも片手で気軽に扱えるように設計されています。Vlog向けであることを重視し、腕を無理に伸ばさずに背景と自分を映せる広角レンズ(35mm換算で広角19mm相当)を実装しています。正面に撮影ボタンが用意され、快適に“自撮り”もできるデザインに仕上げられました。

UIも動画に特化しており、シンプルなタッチ操作を追求。カメラには馴染みがないユーザーでも簡単に撮影・配信できるように配慮されており、従来からのキヤノンのカメラファン以外の層にも注目されやすい製品となっています。

Vlog撮影のような用途では、「街中で目立たず自然に撮影したい」「撮影機材はなるべく少なくしたい」という声も大きかったようです。本製品はそれらの課題もクリアし、撮影のハードルを下げるアイテムとなりましたた。美肌動画モードや新開発の動画カラーフィルターも搭載し、現代にマッチする“新しいタイプのカメラ”となっています。

「SureColor SC-F2200シリーズ」
セイコーエプソン株式会社

こちらは、Tシャツやトートバッグなどの布製品に直接出力できるデジタル捺染プリンター(ガーメントプリンター)です。オリジナルグッズなど、パーソナライズ需要が高まっていることを念頭に置いた製品となっています。

導入のしやすさや使いやすさにこだわってデザインされており、搬入から設置スペース効率まで考え抜いたコンパクトな筐体デザインが実現されました。フロントオペレーションが可能であることや、側面壁付け・縦向き搬入が可能な構成であることが魅力です。これまで設置および搬入が難しかった場所でも使いやすく、「SC-F2250」の本体サイズは981(幅)×499(高さ)×1,448(奥行)mm、重量は約94.5kgとなっています。

天面がフラットであることもこだわりのポイントで、操作用のパソコンやTシャツなどのメディアを置く作業スペースとして活用しやすいです。限られたスペースにも、気軽に設置して使うことができます。天面カバーは、印刷状況を視覚的に確認できるように一部が透明にデザインされました。これにより、万一のプリントミスにも気づきやすくなっています。

審査員からは、ソフトウェアが「パソコンの難しい知識を必要としない」ことも高く評価されました。誰もが使いやすく、整理された分かりやすいグラフィックで提供されています。

「inSAIL」
株式会社イトーキ

10年連続で「グッドデザイン賞」を受賞している事務用品メーカーの株式会社イトーキは、2023年度も5製品で受賞を果たしました。その1つが「inSAIL」で、テーブル付き・キャスター付きのワークソファとなっています。

この製品は“バックパネル付き”であることも大きな特徴です。パネルは周囲の視線を遮る役割を果たし、オープンな“コミュニケーションワーク”と集中力を必要とする“フォーカスワーク”の環境を簡単に切り替えられます。単体で使えば“フォーカスワーク”に適した製品としての側面が強まり、たとえば向かい合わせに複数の製品を並べれば、その場が“コミュニケーションスペース”へと変化します。

フレーム/バックパネル/天板/張地のカラーバリエーションが豊富であることも魅力で、全体的には「ワントーン仕上げ」のデザインとなりました。これは、近年のオフィストレンドとの調和に配慮したデザインであるそうです。

またソファの形状は、働くときの姿勢の腰をしっかりと支える形状に設計されました。小柄な人でも奥深く座れる座面の高さと奥行寸法を採用。間口の広い「トライアングル形状」によって、コンパクトでありながらも出入りのしやすい開放的なかたちが実現されています。

「Recycle Master Program」
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ/株式会社博報堂DYスポーツマーケティング/一般社団法人日本プロサーフィン連盟

「Recycle Master Program」は、小学生以上を対象とした教育プログラムです。海洋ごみの種類やごみ資源のリサイクル方法について、カードゲームを通して楽しく学ぶことができます。

ゲームには、海によく落ちているごみを表現した「ごみカード」、ごみの素材別に組み合わせる「リサイクルカード」、リサイクル後に入手できる製品別の「プロダクトカード」を使用しています。カードデザインでは、たとえばペットボトルや漁網などの各種の海洋ごみは、コミカルにキャラクター化されました。ごみを「汚くて見たくないもの」ではなく「可愛くて面白いもの」へと変換し、ごみキャラクターを楽しく集めたくなるような工夫が盛り込まれています。

ゲームのルールには、例えばプラスチックの場合にはPET/PP/PE/PSなど、ごみを種類ごとに集めないと新しいプロダクトにリサイクルできないという内容が採用されました。これにより、ゲームを通して「きちんと種類ごとに回収しないとリサイクルができない」という現実の課題を身近に感じさせています。

このカードゲームは、日本プロサーフィン連盟の海洋保全プロジェクト「ReWave」によって企画・開発されました。「Recycle Master Program」はカードゲームも含めた教育プログラム全体を示し、独自にワークショップも開催されています。また、今後は広く普及を目指して「ファシリテーター養成講座」の開講も予定しているそうです。

「ウォーキングアプリの“日陰ルート”」
株式会社ナビタイムジャパン

「グッドデザイン賞」の対象には、プロダクトのほか、アプリのデザインなども含まれます。株式会社ナビタイムジャパンは、4点のアプリおよびサービスで2023年度の「グッドデザイン賞」を受賞しました。

ウォーキングアプリの「ALKOO by NAVITIME」で提供されている「日陰ルート」、配達員の業務サポートアプリの「配達NAVITIME」、旅行会社・貸切バス事業者向けの行程表作成サービスの「行程表クラウド by NAVITIME」、バス停留所インフォメーションサービスの「B-Station」があります(「B-Station」は東急バス株式会社との共同応募)。

これらのうち「日陰ルート」は、暑い夏場に少しでも涼しくて快適に外を歩けるように開発されました。2023年の夏は特に記録的な猛暑が続き、本サービスは出歩くことによる熱中症のリスクを抑えるためにも役立つものとなったようです。

現在地からの日陰を優先したルートがナビゲーションされる仕組みです。建物の高さとその時の太陽高度から日陰部分が算出され、目的地までのルートの中で日陰の割合が多くなるルートが判断されます。また、歩行中の時間経過も考慮したうえで「大回りになりすぎない」最適な日陰優先ルートが提案されるようになっています。なお、夏には熱中症対策として活躍した本サービスですが、冬には日向が多くて暖かい道を確認する目的でも活用できます。

【まとめ】
今回「グッドデザイン大賞」をはじめとする全1,548件の受賞作の中から、MdNの独自視点で「グッドデザイン賞」の受賞作品10点を紹介しました。ご存知の方も多いかもしれませんが、この「グッドデザイン賞」はプロダクトデザインを対象とした賞だと思われがちの中、建築物やWebサイト、ソフトウエア、サービス、社会活動など、理想や目的を果たすために築いたものごと全てを「デザイン」とし、有形無形のあらゆるもの対象としています。

そして、そこにはデザインによって暮らしや社会をより良くしていくという理念があり、ここで紹介した作品の中から各製品のストーリーを読み解きながら、今後のデザイン制作において何かヒントを見つけ出してもらえれば幸いです。

公益財団法人日本デザイン振興会
URL:https://www.g-mark.org/
2023/11/1

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