第4話 Webデザインの「前提」とは? | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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第4話 Webデザインの「前提」とは?

進みすぎることの「怖さ」


──いままで一番大変だった仕事は?

大谷●僕は、いま制作中の花のサイトです。基本的に生鮮なので、毎日仕入れ先の在庫だとか時間限定で販売するとか、そういった部分をどう見せるかという難しさがある。普通はモノの在庫があって、それが売れたら自動的になくなっていくじゃないですか。でも、花は時価だったりするので、それを自動的に表示させたり、在庫と連動したり……。もちろん僕だけで作っているのではなく、システムの方や、社内外のスタッフとの連携で動いているんですけど。

──生鮮市場のデジタル版ですね。

大谷●ええ。年内オープンの予定です。それはオールCSSで、これからRSS系の部分なんかで足立さんにも手伝ってもらおうかと思っていたところで……。

足立●もう、一個アイデアが浮かびました(笑)。

大谷●足立さんは以前からAjax派なんで。最近こそはAjax流行りで書店に行くと本がいっぱいあるけど、もう2年前からやってますよね?

足立●そうなんですよ。でもその頃は、現在のAjaxの中核にある、JavaScriptによる非同期通信のような流れはまだなかったので、いまAjaxと呼ばれている技術のうちの、いわゆるDynamic HTML的な部分のみでしたけど。とりあえずインタラクティブといえば Flash、みたいな流れには以前からあえて反抗していました。

大谷●やっと足立さんが書いていたことに時代が追いついてきたって感じで。

足立●あの連載(*1)は時期が早すぎたのかも。自分で言うのもなんだけど(笑)。

──そういうこと、多いのでは?

大谷●足立さんの場合、そうかもしれない。90年代からJavaScript、バリバリで。それをわからないようにやってたし。

足立●特にPRしていなかっただけなんですけど(笑)。


大谷秀映氏

「時価モノ販売のECサイトは前例がないので作りがいがある」と大谷氏
──足立さんにとって、記憶に残ってる仕事は?

足立●フリーになって初期、資生堂の「FSP」という化粧品のサイトを手がけて、それがいままで一番ベストが出せたように思います。毎月更新で、新製品が出るたびに期間限定サイトを作って。

──世界各国のエアポートをモチーフにした、遊び心あるものでしたね。

足立●あの頃は、業界的にそういうアプローチが早いほうだったんです。いまはどこの商品プロモーションサイトでも当たり前に行っているような、ノベルティとして壁紙やスクリーンセーバーをダウンロードさせたり、ということすら当時はまだあんまりなかったから。

大谷●たしかに、そうでしたね。

足立●いまは雑誌の広告より、Webのほうが効果的ですよね。テレビのCMもWeb誘導になっちゃって。

大谷●話題のYouTubeも、広告戦略に使われるわけじゃないですか。

足立●ちょっと進みすぎて、怖い部分もありますが。

大谷●Webのデザインとか全然関係ない、一般の人が当たり前のように使ってるのがすごいメディアですよね。

「flickr」が呼び覚ますもの


──そういう時代に、Webを「デザインする」ということの前提として、何が大事かと思いますか?

足立●たとえばブログをやってる人たちも、デザインをカスタマイズしてるじゃないですか? そういうのを見ても、全然甘いなって思うんです。デザインもアイデアも、たいてい3段組みとヘッダとフッタ、みたいなレイアウトにとらわれて、その枠の中でしか発想できていない。でも、そういったレイアウトである必要はなくて、もっといろんなデザイン・スキームを作れるはず。そのへんはCSSを極めたような人がもっとアイデアを提示していかないと。

大谷●テンプレートもいろんなものが用意されているから、それを安易に使うと自分で考えなくなりますね。

足立●だから、むしろ狙い目だと思うんです。見た目だけのテンプレート・カスタマイズではない、プロならではのアイデアを出していけばいいのでは?……と思うことがたくさんあって。


足立裕司氏

「プロとしての自覚が物事を前に動かす」と足立氏
大谷●でも、やっぱり作るのは大変ですよ。ブログとかコミュニティサイトとか……いわゆるWeb2.0は、作るよりも使ったほうが便利だと最近よく思う。まあ、日本のサイトはあまり参考にならないかもしれないけれど、さっき言った「flickr」のような使いやすいサイトは、ひとつの画面の中に収まるのではなく、いろんなところにリンクを張れて自分でカスタマイズできる。単に写真をアップするだけじゃなくて、地図にそのままマークできる仕組みとか、すごいなって思う。

足立●そうですね。

大谷●カーナビに比べるとまだまだ遅れているけれど、段々近づいている感じがある。写真も「flickr」でマーキングしてコメントを書く機能とか。

足立●あと、APIなどを使って「flickr」の内容を間接的に表示させる方法とか、いろいろありますよね。色味が赤系の写真だけを自動的に抽出する、とか。

大谷●あれは便利ですね。最近、あまり面白いサイトがないと思っていたところなのですが「flickr」だけは面白い。個人的に写真を撮るのが好きなので、いろんなところに行くんだけど、そういう使い方で見るとあれはすごい。実際の空気感までは伝わらないけど、この位置で撮ったというのがわかるから。作った人は偉いと思う。

 

 

(*1)『Web Designing』連載の「Web SPICES」 (毎日コミュニケーションズ/2001年9月号?2003年9月号)

次週、第5話は「いま、そしてこれからの職人気質」を掲載します。

(取材・文:増渕俊之 写真:谷本 夏)



大谷秀映氏

[プロフィール]

おおたに・ひであき●1964年生まれ。Webデザイナー。武蔵野美術短期大学グラフィックデザイン科卒業後、グラフィック&エディトリアルデザイナーを経て、90年代中頃よりWebデザイン、オリジナルフォントデザインを開始。現在、株式会社コムストラクト取締役。著書に『ヘルベチカの本』がある。

http://fontgraphic.jp/



足立裕司氏

あだち・ゆうじ●1969年生まれ。Webデザイナー。愛知県立芸術大学卒業後、インダストリアルデザイナー、プランナーを経て、96年よりWebメディアを中心に活動。97年に開設した個人サイトでオリジナルフォントを数々発表し、Web Design Award'99銅賞とHotwired Japan Awardを受賞。著書に『HTMLデザイン辞典』などがある。http://www.9031.com/


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