第4話 10年の歴史を経た「現在」 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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1996年の誕生から10周年を迎え、いまやデジタルコンテンツ制作になくてはならないソフトウエア=Adobe Flash。紙に絵を描くようにコンピュータ上で気軽に描画、アニメーション表現を可能にさせようと開発されたFlashは、この10年で飛躍的な進化を果たしてマルチメディアの「現在」を形作る。その歴史を見守り、もはや生活のためのツールとして活用を続けるクリエイター・高木氏、そしてMacromedia時代からFlashを担当してきた太田氏に、その軌跡を振り返るとともに今後の展望を語ってもらおう。

 


第4話 10年の歴史を経た「現在」



高木敏光氏(左)と太田禎一氏(右)

表現に欠かせない日常ツール

 

表現に欠かせない日常ツール



──高木さんにとって「表現する」という観点から、Adobe Flashの10年とは?

高木●なくてはならないものとしての10年です。いまや、名刺もグリーティングカードも全部Flashで作っているぐらい(笑)。アンカーポイントのクセというか、ポインティングツールで曲線を引っ張ったときの独特の感触が体に染みついてしまっている。

太田●FlashはAdobe Illustratorのような三次ベジェではなくて、二次ベジェなんですよね。

高木●脇道にそれますが「Plasma」というソフトがあるじゃないですか。Flashに特化したソフトで「3ds max」の弟分。Flashの書き出しができる優れた3Dソフトで、それを使って「CRIMSON ROOM」「VIRIDIAN ROOM」といった脱出ゲームを作ったんです。だから、常に僕にとって、どの道を通っても最終的なアウトプット・ソリューションはFlashだった。それはいまでも変わりません。


高木敏光氏

タカギズムオリジナルTシャツもサイトで販売中(高木氏)
──現在、Flashで作っている主な仕事は?

高木●ゲームですね。僕のサイトにあるゲームは全部、自発的に作ってタダで公開してるものですが、クレジットが出ないゲームを仕事で結構作ってて。たとえば、ある映画が公開されるとなると、公式サイトができますね。その映画のゲームを作ってくださいと頼まれたり……。

──仕事の幅は広がっていますか?

高木●Flash仕事、広がってますね。たとえばCD-ROMなども、いまだに教育や行政の現場でニーズがあったりするんです。そういうものも以前はDirectorでオーサリングしていましたが、いまはFlashですべて担えるようになりました。

太田●携帯向けは?

高木●ゲーム作ってますよ。でも、必ず条件付きで……たとえば限定ショップやメーカーの公式サイトで、その機種でしかダウンロードできないものが多い。そういうものは名前を出せないので、裏方っぽい仕事が多くなってますね。

太田●作ったこと、言えないんですよね。

高木●ええ(笑)。


Flashは国境を超える



──太田さんの現在のお仕事は?

太田●私は基本的にはユーザーの方々とお会いして、製品のことをお伝えしたり、ご要望をうかがって、次に繋げよう……とする役割ですね。一番、お客さまに近いところで日々話をしています。

高木●だから、太田さんが日本で一番、Flash使いのヘビーユーザーを知っている。世界中のFlash使いにも通じているでしょ?

太田●そうですね。南アフリカ、チェコ、アメリカ、カナダ、ドイツ……とにかくFlashのことでメールすると、即レスが多いんですよ。「日本に来てカンファレンスに参加して」と頼むと「OK!」って。

高木●Flashは国境を超える(笑)。

──グローバルなネットワークが、Flashだけで構築されてて。

太田●そうですね。あと、そういうところで活動している人たちは、みなさん似ているところもあります。出し惜しみしないというか、ちゃんと来て知識を伝授してくれる。閉じ込めてしまうのではなくて、どこかコミュニティをリードしていこうとする気持ちがあるんですね。それは、日本の方もそうですが。


太田禎一氏

AdobeのHPでは「Flash 10th Anniversary」 企画を展開中(太田氏)
──高木さんも、そうした横の連繋が?

高木●ありますね。で、みんな作風が違うし、やってることも違うから、お互い尊敬しあえる。そこが楽しいことですよね。同じ道具を使って、こうも違うのかって。

太田●それは確かに。Flashに作業用のファイルがありますよね。タイムラインがあっていろんなものを配置しますが、そのソースファイルを見ると、まったく人によって違います。一応、教科書っぽい作り方がありますが、特に第一線で活動している方ほど自己流というか……動けばいいって(笑)。

高木●うんうん。

太田●だから、カンファレンスでユーザーに受けがいいのは、プロフェッショナルな人が作ったファイルの中を見せることなんです。Directorもそうでしたが、やはり完成物からは中が見えない。でも、ちょっとでも真髄に触れたいと思うじゃないですか。ソースファイルがプロジェクターに映ると、みんな身を乗り出す(笑)。

高木●去年、パシフィコ横浜で開催したとき、僕も「CRIMSON ROOM」の作り方を見せましたが、最近で一番エキサイティングなカンファレンスでしたね。特にインタラクティブなゲームの場合、ものの出し入れとか、わからない人にはわからないから。

太田●本を読んでも、それが本当にいいのかわからないですし。

高木●Directorのときは逆に流儀がうるさくて、僕ら流儀を作り出そうとしていたフシがありましたが……。

太田●いまもありますよ。でも、アニメーションをやるにも方法論がいくつもありますから。大きく分けると、プログラムを使う系と使わない系。使う系は動きがプログラムに全部入っているので、ソースファイルを見ても何が起こってるのかわからない。一方、スクリプトは絶対いやだ、目に見えるものしか信用しないという人もいて。両方ともかっこいいし、たぶん最終的に出てきたものは普通の人には区別つかない。

高木●そこがまた、面白いところなんですね。



次週、第5話は「Adobe Flashの未来展望」を掲載します。

(取材・文:増渕俊之 写真:谷本 夏)



高木敏光氏

[プロフィール]

たかぎ・としみつ●早稲田大学文学部美術専修卒業。翻訳会社勤務を経て、株式会社データクラフト入社。1991年頃より、マルチメディアコンテンツの制作を開始。2005年、独立して「株式会社タカギズム」設立。アニメーションやゲーム、インタラクティブコンテンツの制作に携わっている。著書に『高木工務店』(BNN)などがある。http://www.takagism.net/


太田禎一氏

おおた・ていいち●アドビ システムズ株式会社に勤務。プロダクト&セールスエンジニアリング部 プロダクトスペシャリスト。http://www.adobe.com/jp


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