第5話 Adobe Flashの未来展望 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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1996年の誕生から10周年を迎え、いまやデジタルコンテンツ制作になくてはならないソフトウエア=Adobe Flash。紙に絵を描くようにコンピュータ上で気軽に描画、アニメーション表現を可能にさせようと開発されたFlashは、この10年で飛躍的な進化を果たしてマルチメディアの「現在」を形作る。その歴史を見守り、もはや生活のためのツールとして活用を続けるクリエイター・高木氏、そしてMacromedia時代からFlashを担当してきた太田氏に、その軌跡を振り返るとともに今後の展望を語ってもらおう。


第5話 Adobe Flashの未来展望



ユーザーがソフトを進化させる



──機能的に、Flashの今後についてどのような展望がありますか?

太田●ビデオが入ってきたらもう……何がありますかね?

高木●僕は実現すると信じてやまないものがありますよ。3D──陰線処理とカラー付きのポリゴンですよ。

太田●なるほど。

高木●DirectorのZ軸はただの重なりだけでしたよね。そうではなくて奥行き……手前味噌になるけれど「CRIMSON ROOM」の3D版ができないか、と。あと、航空戦闘モノもできるじゃないですか。

太田●結局“世界”を作りたいんですね。

高木●ええ。僕は8畳間ぐらいの“世界”しか作れないけれど、それが実現したら地球一周旅行みたいものを作るやつが出てきますよ。

太田●うーん……3D頑張ってほしいですよね(笑)。


高木氏

「CRIMSON ROOMの3D版ができたら、あらゆるところにアイテムを隠せて探せるように……」(高木氏)
──可能なんですか?

太田●3Dは常にユーザーのご要望として上がってきます。でも、普通に3Dをソフトウェアでやるのは厳しいので、ハードウエアのアクセラレーションを使うのならば可能な世界なのかも……。ただし、Flashの大事なところはプラグインが小さいことと、どんなプラットフォームでも動くということ。必ずしもマシンのパフォーマンスが高くなくても、そこそこ快適に動作してくれるわけです。その部分と3Dは相いれないんですよ。

高木●なるほど。

太田●それは高木さん、Shockwaveの頃に体験済みだと思いますが、マシンによって見え方がまったく変わるじゃないですか。けれど最高の究極の表現をしたい、3Dが役に立つというクリエイターの方の声もすごくよくわかる。その中間をうまく調整しながら詰めていくしかないですよね。でもアドビ システムズとしては、3D機能は入れたけれど特定のOSやハードウエアだけでしか動かない、低スペックのマシンで再生できない、ということがないようにすることが重要なわけです。

高木●すごくプリミティブでいいんだけどね。

太田●作る側からしてみたら、モデラーでモデルを作ってピクチャー張って、そのままFlashに持っていきたいという気持ちになりますよね。それは理解できるし、かなり大きな課題ではあります。

高木●お願いしますよ(笑)。

太田●要はFlashというソフトは急激に進化したわけではなくて、ユーザーとのコミュニケーションが徐々に進化させてきたということをご理解いただければ。アドビ システムズの中にスーパーコンピュータサイエンティストがいて、すごいアイデアが一方的に出てくるわけではなくて、いまのFlashは過去10年のユーザーが作ってきたものですから。私たちは基本的には頼まれないものはつけなくて、こうなってほしいという要望に合わせていくのが姿勢です。


Flash=度量の広い世界



高木●あと、汎用性は絶対に失ってほしくないですね。MacとWindowsで駆動が違うとか、マシンのグラフィックボードで速度が違うとか、レンダリングの質が違うとか……そういうのであれば、一番チープなほうに合わせてもらいたいな。

太田●かねてより問題だったのはMacにおけるスピードだったのですが、最近は速くなってきて状況がよくなってきましたね。

高木●ところで……次のバージョンはいつなんですか?

太田●それは言えないですよ(笑)。

高木●何が搭載されるんだろう、この上。

太田●最初は単なるスケッチツールでアニメーションだけだったのに、いまビデオまで入ってるというのは、やはり「こうして」というプレッシャーがあったからで。


太田氏

「ユーザーの要望は今後も積極的に聞いていきたい」(太田氏)
──10年前、こうなると思いました?

高木●思いませんでしたね。特にFuture Splashをいじったときは、滅びると思ってましたから(笑)。だって、最初は出し所がなかったでしょう。プロジェクトを作ることができても、自分の手の中で楽しむことしかできない。よもやWebプラグインが出るとは思ってなかったし。世界に向けて表現できないものは、作ってもしょうがないという気持ちが僕は強くて。

──Webとは「Flash作品を載せるための世界中に繋がっている大きなお皿」という発言をされていますね。

高木●そう。僕はコスモポリタンな人間ではないですが、日本人にしかわからないネタや駄洒落オチとか、そういう作品はやらないようにしてます。やはり、言葉を超えて通じるものだけを作りたいと思っているので。

──その意味でFlashは、多様なジャンルのクリエイターが共有できるソフトですね。

高木●そう信じています。

太田●いまFlashのユーザーは本当に幅広くて、様々な活用をされています。そういうものが全部同居して、たとえばバリバリのJavaプログラマからペンタブレットで可愛い絵を描いてる女の子まで、同じツールを使っているところが面白い。

高木●不思議ですよね。クルマだといろんな排気量やルックスがあって、ひとくちにクルマと言えないけれど、Flashの場合はつまりFlashなんですよ。



今回で「Flash、わが道わが人生」は終了です。

(取材・文:増渕俊之 写真:谷本 夏)



高木敏光氏

[プロフィール]

たかぎ・としみつ●早稲田大学文学部美術専修卒業。翻訳会社勤務を経て、株式会社データクラフト入社。1991年頃より、マルチメディアコンテンツの制作を開始。2005年、独立して「株式会社タカギズム」設立。アニメーションやゲーム、インタラクティブコンテンツの制作に携わっている。著書に『高木工務店』(BNN)などがある。http://www.takagism.net/


太田禎一氏

おおた・ていいち●アドビ システムズ株式会社に勤務。プロダクト&セールスエンジニアリング部 プロダクトスペシャリスト。http://www.adobe.com/jp


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