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2006年11月16日、スペイン・バルセロナで「TIEMPO RONALDINHO(ティエンポ・ロナウジーニョ)」をはじめとする製品群が発表された。これは、ブラジル出身の世界的なサッカープレイヤー、ロナウジーニョ・ガウーショ選手の名前を冠につけたナイキの新しいコレクション。そして今回のコレクション中、靴のデザインを全面的に手がけたのが、米NIKE社のデザイナーであるトム・ミナミ(南 哲也)氏である。生粋の日本人、大阪人である彼が、発表前のタイミングでちょうど日本(大阪)に来訪。話を伺う機会が得られた。さて「TIEMPO RONALDINHO」が生まれるまでのストーリーとは?

ロナウジーニョ選手とトム・ミナミ氏。スペイン・バルセロナで行われた発表会にて

ロナウジーニョ選手とトム・ミナミ氏。スペイン・バルセロナで行われた発表会にて

[プロフィール]

TOM MINAMI(南 哲也)

NIKE, INC. FOOTWARE DESIGNER

NIKE SOCCER

とむ・みなみ(みなみ・てつや)●1979年4月11日米国ニュージャージー州生まれ。ミドルネームはトーマス。1歳半から高校時代までを地元・大阪で過 ごす。その後再渡米。カリフォルニア州立大学ロングビーチ校で工業デザインを学ぶ。卒業後、NIKE, INC.に入社。現在3年目。同社でフットウェアデザインに携わる。

トム・ミナミ(南 哲也)氏。NIKE, INC. NIKE SOCCER FOOTWARE DESIGNER


機能上のつながりとストーリー上のつながり



今回発表された「TIEMPO RONALDINHO」は、ナイキのサッカーコレクションの中で、素足感覚のフィッティング、繊細なボールコントロールを求めるプレーヤーのための「TIEMPO」のコンセプトに基づき、ロナウジーニョ選手の要望を100%反映することで、彼のパフォーマンスを余すところなく引き出すべく開発されたプロダクトだ。この最上位モデル「TIEMPO RONALDINHO」を筆頭に、トレーニング用、フットサル用、キッズ用など、通算10種類がラインアップされる。ボールや服、リストバンド、ヘアバンドなどといった一連のコレクションの中でも、靴のラインアップはとりわけ重要な位置づけのプロダクトである。11月22日にロナウジーニョ選手が着用して世界デビューを飾り、その後世界的に発売される計画。12月には日本でも世界に先駆けて発売される予定となっている。

ロナウジーニョの名前を冠したコレクション「TIEMPO RONALDINHO」

ロナウジーニョの名前を冠したコレクション「TIEMPO RONALDINHO」

「TIEMPO RONALDINHO」のコレクションラインアップ

「TIEMPO RONALDINHO」のコレクションラインアップ。試合用からトレーニング用、フットサル用、キッズ用など、いくつもの種類がラインアップされている。すべてのデザインをトム・ミナミ氏が手がけた。左端の白地に金のモデルは旧モデルで、ロナウジーニョ選手本人所有のものには24金がコーティングされているという

この靴をグラウンドで履くシーンの映像がWebサイトで公開されているhttp://nikefootball.nike.com/nikefootball/tiempo/viral/high.html


──まず、「TIEMPO RONALDINHO」はどのような靴なのですか?

トム・ミナミ氏(以下、ト)●ロナウジーニョ選手が必要とする機能性と、生き様すべてを込めたスパイクです。

──このプロジェクトはいつごろから?

ト●昨年(2005年)の9月からですね。バルセロナまでロナウジーニョ選手に会いに行きました。その時に、「どのようにしたら靴の性能を向上できるか?」といった〈機能上のつながり〉と、彼の生き様を表す〈ストーリー上の感情的なつながり〉ができたらいいなという話を彼としました。彼にこの靴(TIEMPO)を初めて見せたとき、彼は、手に持ち、いろいろ見て、履いて、曲げて、ボールを触って、そして「気に入った」と言ってくれました。初めての対面でしたが、濃密な打ち合わせが行われたんです。


2005年9月にスペイン・バルセロナのロナウジーニョ選手の自宅で行われたミーティングの様子。ロナウジーニョ選手の家族やナイキのスタッフが集まり、理想の靴に向けた熱いミーティングが行われたという。上の写真は中央がロナウジーニョ選手、ボーダー模様の服がトム氏

2005年9月にスペイン・バルセロナのロナウジーニョ選手の自宅で行われたミーティングの様子。ロナウジーニョ選手の家族やナイキのスタッフが集まり、理想の靴に向けた熱いミーティングが行われたという。上の写真は中央がロナウジーニョ選手、ボーダー模様の服がトム氏

靴を手に熱き思いを語るロナウジーニョ選手。それを聞くトム氏(左端中央)のまなざしは真剣そのものだ

靴を手に熱き思いを語るロナウジーニョ選手。それを聞くトム氏(左端中央)のまなざしは真剣そのものだ

──機能上のご本人の要望とはどういうものですか?

ト●彼はボールコントロールする際、足の親指の側面辺りをよく使うから、そこを凹凸のない、なめらかな表面にしたいとか、また彼はフットサルやビーチサッカーで育ってきたので、足の裏でもボールをコントロールするんですけど、今のモデルだとつるつるで滑ってしまうので、テクスチャをつけてグリップ力を上げたい、といったことですね。フットサルでは、足の裏でボールをコントロールするというのがポピュラーなプレースタイルなんです。ブラジルの選手などに多いと思います。


従来のTIEMPOと比べて、表面につぎめが少なく、なめらかにデザインされたTIEMPO RONALDINHO

従来のTIEMPOと比べて、表面がシームレスで、なめらかにデザインされたTIEMPO RONALDINHO

また、足を曲げたり反らせたりしたときの柔軟性を高くしてみたり、かかと内側の素材が多少すべるように感じるということで野球のバッティンググローブでよく使われている山羊革を使って改善してみたり、タングを長くして紐を隠してきれいな表面を使ったり。

それと、スパイクのポイント部分(靴底にある凸型の滑り止め)の表面は通常つるつるしているのが一般的なんですが、彼はここでもボールをコントロールするので、表面にこまかい溝の模様を刻んで、グリップ力を出しています。これはサッカーシューズでは初めての試みですね。


ポイント部分には、ボールのグリップ力を高めるためのこまかい溝の模様が刻まれた

ポイント部分には、ボールのグリップ力を高めるためのこまかい溝の模様が刻まれた。ここまで手を加えるのは、サッカーシューズでも初めてのことという
──ステッチや溝のあるなしでもボールの扱いが変わってくるほど、シビアな世界なんですね。

ト●そうですね。ただし、こういう風に一枚革で表面をなめらかにすることには、一方で伸びるという弱点もついてまわってくるんです。カンガルーの革を使っているんですが、とても伸びやすい。ならばどうするかということで、革の内側からナイロンで補強を行いました。表面はシームレスですけど、裏側にはステッチがあって伸びるのを防ぐようにしています。

──見えないところにも工夫をしているのですね。

ト●はい。NIKEでは、プロジェクトを進めるにあたって、マーケティングの担当者が1名、デベロップメント担当が1名、デザイナーが1名と、トライポッド(三脚)のような感じでシンプルなチームを組むんです。デベロップメントは、デザイナーがデザインしたものを現実に3Dにするといった仕事です。

今回の方法もデベロップメント担当とデザイナーの僕の2人で話し合って決めていきました。デベロップメントは「表面にはステッチが絶対必要だ!」、僕は「絶対イヤだ!」みたいな意見を戦わせながら、靴づくりをしていったんですよ。

──もうひとつのストーリー的な部分について教えてください。

ト●ロナウジーニョを中心に、家族が周りにいて彼を支え、サンバの音楽でみんなを楽しませてそれで喜び、さらに情熱がすべてを包んでいる、みたいな生き様を凝縮しているんです。

黄色、オレンジ、赤の3つのラインでロナウジーニョの人物像を表現しています。黄色が「ファミリー」、オレンジが「サンバ」、赤が「幸せと情熱」です。JOYとPASSION、ポルトガル語で「ALEGRIA PAIXAO」(アレグリア・パイザオ)と言います。


赤、オレンジ、黄の3本のラインは、ロナウジーニョ選手のサッカープレイヤーとしての生き様を表現している

赤、オレンジ、黄の3本のラインは、ロナウジーニョ選手のサッカープレイヤーとしての生き様を表現している

中敷きにもロゴを取り巻く形で3本のラインが施されている

中敷きにもロゴを取り巻く形で3本のラインが施されている


靴は左のタングに「ALEGRIA」、右のタングに「PAIXAO」と書いてあるのですが、これは履いてる人から読めるような向きになっていて、靴ひもを結ぶ度にこの言葉を見て、サッカーの原点を忘れないように、という思いが込められています。



タング部分には、幸せと情熱を表す「ALEGRIA」と「PAIXAO」の文字が。「サッカーの原点を忘れないように」という思いが込められている

タング部分には、幸せと情熱を表す「ALEGRIA」と「PAIXAO」の文字が。「サッカーの原点を忘れないように」という思いが込められている


彼に初めて会ってみて印象的だったのが、家族をすごく大事にしていること。彼のお姉さんが彼の秘書をしていたり、従兄弟が専属運転手をしていたり、家族が非常に仲がいい。実際ロナウジーニョの家まで訪ねたときも、ご家族がいろいろ案内してくれて、温かい家庭でした。

そして彼は「もし、サッカー選手になってなかったら何になっていた?」という問いに「サンバの音楽家!」と答えるほどの無類のサンバ好き。家ではつねにサンバがかかっているし、練習場に向かう車内でも音楽はサンバ。ドラムなどの楽器の腕もすごいんですよ。

「ロナウジーニョの存在を世界でどのように覚えてもらいたいか?」という質問には、「Alegria, Joy!」という言葉が返ってきて。いろいろなところで点を獲ったり、世界最優秀選手に選ばれたりしているけど、基本的には「ロナウジーニョは、サッカーを楽しんでますよ、人生を楽しんでますよ、っていう生き様を覚えていてほしい」と言うのです。

──人柄がよくわかるエピソードですね。

ト●ロナウジーニョは、僕らにも普通の友だち感覚で話してくれるんです。年は僕の1才下で26才ですね。サッカー場で見るロナウジーニョと普通に会うロナウジーニョはまったく一緒、いつも笑っていてまったく裏表のない感じです。そしてサッカーになるとすごく真面目。とても真面目な人です。



ロナウジーニョ選手のお母様といっしょに。貴重なツーショットだ

ロナウジーニョ選手のお母様といっしょに。貴重なツーショット
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